3 幽霊のシスター
「じゃあ行ってくるから寝てなよ」
「わかっとるよー」
蝋燭を持ち、シャルは部屋を出た。
シャルはレイチェルの私室に向かって廊下を歩き出す。
レイチェルの話によると数日前にたまたま小屋の前を通りかかり、シャルと子供達が勉強しているのが目に入ってきたそうだ。
元々レイチェルは勉強するために王都にある学校へ行きたいらしいが入るためには金がいるし、何より学費を払うことができない家庭であった。
故に渋々、この孤児院で働くことになったそうだ。
そして絶好のチャンスと思ったレイチェルは一緒に授業を受けようかとしたらしいがシャルとレイチェルは仲が良かったわけではなかったし、何よりシャルに対するイジメを見て見ぬ振りをしていたのだ。
シャルが許すはずがないとレイチェルは諦めようとしたらしいが諦めきれるはずもなく、コソコソと外で話を聞いて訳だったのだ。
訳を聞いたあとにシャルが一緒に勉強はしてはどうかと聞いてみたところ、レイチェルは恥ずかしそうに小声で子供達と大人が一緒に勉強しては面子が立たないと言ったのだ。
(面子も何も、もうバレてしまってるから関係ないと思うんだけどな…)
だからこうして夜な夜なレイチェルの部屋に行って教えているわけだ。
それに今日は昼間からシスター達は街に出払っていてからイジメにあうこともなく、仕事をとっとと終わらせていつもはできない昼寝までできたくらいだ。
だがアーロンの勘により、昼寝を妨げされ授業をするはめになった。
(せっかくの昼寝日和だったのに…そこに本と甘いものがあったなら良かったのに)
ふとシャルが顔をあげると薄暗い廊下の向こうから修道服を着たシスターが歩いてくる。
俯いて歩いているのと薄暗い廊下のせいで顔が見えない。加えて髪も頭巾の中に入れていて誰とは判別できないほどだ。
ふとシャルの中に疑問が生まれる。
大体のシスターは街に出払っているはずだし、残っている者はシャルとレイチェル、そしてエリオットしかいなかったはずだ。
それにいたとしても寝静まっていて当然の時間だ。
(まるで幽霊みたいなシスターだ…)
シスターがシャルの隣を通った瞬間だった。
シャルの鼻腔にこべりつく感覚がした。加えて喉の奥でむせ返るような感覚にも襲われた。
気がつけばシスターはシャルの横を通り過ぎて闇の中へ消えていた。
(何だ…? 粉…?)
気になったシャルはシスターを追おうかと思ったがレイチェルが待ってること思い出し、後ろ髪を引かれる思いでレイチェルの部屋に向かった。
◆◆◆
「幽霊みたいなシスター、ねえ」
レイチェルは筆を止め、首を傾げた。
授業を終えたとこでシャルは先ほどすれ違ったシスターの話をしたのだ。
「何それ…でもシスターはほとんど出払っているはずだよね?」
「そうなんだよ。だから不思議だなあって。しかも変な粉、吸っちゃったし」
「え、変って何!? 体に変異は!? シャル、私の指何本見えてる!?」
突き出されたレイチェルの五本の指を押しのけ、シャルは持っていた教材で頭を叩いた。
「はぅっ…ひどいよ、シャル」
「適切な処置デス」
レイチェルは涙目になりながらシャルを見上げた。