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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
王の隠し子編前
35/52

1 兄




「姉さん、何読んでるん?」

「…医学について」

「医学? 姉さん、お医者さんにでもなるん?」

「…ならないよ」



シャルは覗き込むエリオットに気にせず、本のページを捲る。

先日バロンが店を訪れ、慰謝料の北の国の書物を持ってきたのだ。

その中でも医学の書物をシャルは読み漁っていた。

あの日からどうしてもシャルの中にあの考えが住み着いているのだ。



(人体実験は私の考えすぎ…? 血は衰えを遅らす効果があるから高値で売れただけなのか…?)



バロンから貰った北の国の書物はどこの国よりも人体の仕組みについて発達している。

故に人体の書物には血のことも書かれていた。

そこには血は若返りの薬と記述されている。正確にいえば若返るのではなく、衰えを遅らすだけなのだ。

それ故、闇の相場では血は高値で売れる。

そのこともまた犯行の理由ともなる。



(まあ、終わったことを考えても意味がないし考えるのはやめよう)



シャルが次の本に手を伸ばそうとした時だった。

店のドアが開き、客かと顔を上げる。



「こんにちは」



だがすぐにシャルは顔を上げたことに後悔した。

黒い髪に黒い眼帯。気味の悪い口角の上がった笑みに整えられた執事の服。

そして見間違うことのない『シャルの母』に似た青い目をした三白眼。



そう、シャルの実の兄だった。

もちろん、その事に気づいたのはエリオットも同じだ。すぐに分かったようでシャルの袖をぎゅっと握っている。


そしてソファで本を読んでいたアーロンも嫌な空気を察したのか、すぐにシャルの座ってる椅子の後ろに隠れた。



「何故来たの」



シャルは自分でも驚く程に低い声が出た。

それだけ目の前の男を嫌っているのだろう。

だがそれでも男は笑いを浮かべながらシャルを見る。


「依頼さ。引き受けてくれるよね、我が愚妹(ぐまい)シャルよ」

「是非ともお引き取り願おう、愚兄(ぐけい)



実の兄妹であってもシャルは聞く耳を持とうとはしない。

シャルは舌打ちを小さくして、新しい本を読み出す。



「…姉さん」

「エリオット、アーロン、裏口から出なさい。後でシアン様に言っておくからシアン様の屋敷に遊びに行ってらっしゃい」

「でも」

「後で私が迎えにいくから」



シャルはエリオットの不安を遮るように言った。

するとエリオットは頷き、アーロンの手を取った。

アーロンもそれが最善なのだ、と理解したのか、エリオットに付いていく。



「へえ、まだエリオットはシャルの尻尾に掴まっているんだ。どうだい? 『お兄ちゃん』に頼ってくれてもいいのになあ? それとも血縁関係、気にしちゃってる?」

「黙れ。それ以上、エリオットの前で口を開いたら一生後悔させてやる」

「ああ、くわばらくわばら。ちなみにどんな所業をしてくれるのかな、愚妹?」

「男の象徴を切り離して女にしてやるさ。…エリオット、行って」



エリオットは怯えながらもアーロンを連れて裏口から出ていった。

そしてシャルは小さくため息をついて本を捲る。

すると男はソファに座り、シャルを見た。



「ふふ、今はね、ノア・ローウェルとして宮殿で働いてるんだよ。前にね、宮殿でシャルを見かけたんだ。いやあ、最初は驚いたよ。だってシャルが王都にくるなんて思わなかったわけだし?」

「…」

「ねえ、せっかくの兄妹の再会なんだからさ。無視しないでお兄ちゃんとお話しようよ、シャル〜」

「……依頼人、ノア・ローウェルとしてなら話は聞く」

「ちぇっ、つれないなあ。シャルもエリオットも」




シャルは渋々、本を閉じてノアの目の前に座った。

だがシャルはノアと目を合わせることはない。



「素直じゃないなあ。まぁいいさ、それじゃ依頼をお願いするよ」

「宮殿に起きた事件、ではないでしょうね?」

「いいや、人探しさ。コンサルタントなんだから助けて欲しいわけなんだよ」

「私は探偵ではない。できるのはあくまで助言だ。それを忘れないことね」

「堅苦しいなあ。それでもシャルは引き受けてくれるでしょ?」

「探し人にもよる」

「現国王の隠し子」



シャルはため息をついた。

王族ともなれば隠したい秘密はある。それが子供であってもまずいことであれば隠すだろう。

しかも相手は王だ。下手をすれば一番に目をつけられるのはシャルになる。

シャルもまた危険な仕事を選ぶほど金には困っていない。



「断る」

「ええ~! なんで!? それなりの金も払うのにさ」

「逆になんで私が引き受けると思ったのよ。しかも現国王の隠し子をさがすなんて大きな賭けすぎる」

「じゃあ依頼料を倍にして払うから!」

「そういう問題じゃない!!」



シャルは今までにないくらいに声を張り上げた。

するとシャルは立ち上がり、奥の戸棚から壺を取り出した。

それを見たノアは首を傾げる。



「知っているか、ノア? 東の国では塩は厄除けに使われるらしい……ぞっ!!」

「うわっ!? しょっぱ!!」



青筋を立てながらシャルはノアに向かって壺に入ってある塩を投げつけた。

ノアは自分の降り掛かった塩に驚き、逃げ回る。



「出ていけ、愚兄! お前の依頼なんて願い下げだ!」

「分かったよ、愚妹! でも考えといてよ! それじゃあね!」



笑いながらもノアは店から出ていった。

シャルはぜえぜえと肩を揺らし、息を整える。



「二度とくるな、クソが」



そう吐き捨てたシャルはエリオット達を迎えに行くため、店を出る。

見上げれば先ほどの快晴は無く、曇天の曇り空が覆い尽くしていた。


ノアの顔を思い出すだけでも腹がマグマのようにふつふつと煮えたぎる。

いくら知識以外、無頓着なシャルでも人間だ。

傷つけられた傷が疼かないわけがない。



(ホント、なんで兄がいるんだか…)



気がつけば噛んでいた下唇が血が流れ、シャルの口の中は血の味で広がっていた。

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