0 少女達
外の世界を隔てる小さな窓。
少女は小さな手を窓に手を当てて曇り空を眺める。
ずっと手を当てているせいか、窓には手形が残っている。
「ねえ婆様、お外暗いね」
「そうですね、姫様。さあ、この婆と遊びましょうぞ」
「うん。何をするの、婆様?」
少女は窓から手を離し、老婆の元へ駆け寄る。
そして少女は老婆の隣に座り、老婆が引き出しから物を取り出すのを待った。
だが幼い少女の脳裏にある事がちらつく。
「婆様、私はどうして外に出てはいけないの?」
「外に出てはいけません。…ですがいつか…いつか、曇り空も晴れて春がやってきます。その時は婆と一緒に花を積みに行きましょう。それとも魚釣りがよろしいですかな?」
「両方したいわ! 他にもね、かけっこもしたい! マーリンがとても楽しいって言ってたの!」
はしゃぎだす少女に老婆は顔にたくさんのシワを作って微笑んだ。
すると固く閉ざされていた扉がゆっくり開き、髪を結わえた少女が食事を乗せた盆を持って入ってきた。
その少女を見るなり、幼い少女は駆け出した。
「マーリン! 待ってたわ!」
「おわっ!? 姫様!? いけません! 食事を零してしまいます! 離れてくださいまし!」
「マーリン! 食事が終わったら婆様と一緒に遊ぼう! かけっこがしたいわ!」
「この部屋で、ですか? いけませんよ、それは外に出た時にしましょう?」
マーリンと呼ばれた少女は盆を机に起き、幼い少女と同じ目線になるために膝をついた。
そして口を尖らせて目を逸らす少女の頭を撫でる。
髪を結わえた少女は拗ねる少女の気持ちは理解していた。
だが理解していてもできないものはできないのだ。
それを思い、髪を結わえた少女は唇を噛んだ。
「マーリン…? 怖い顔をしてるわ…」
「す、すみません、姫様! 辛い時こそ、笑わないといけませんね!」
「…マーリン、いつかお外に行けたらいいね」
「そうですね、姫様。……いつか、絶対に私でなくても婆様でなくても誰かが姫様をお外に連れ出してくださいます! 絶対に!」
「そうね! でも連れ出してくれるのはマーリンがいいわ!」
「ふふ、私は随分と責任重大ですね」
髪を結わえた少女は微笑みながら幼い少女の手を取り、その小さな手を強く握りしめた。
だがその微笑みの裏には何もできない自分とこんな状態にした者を憎む気持ちも隠れている。