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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
吸血鬼騒動編
31/52

8 慰謝料



シャル達がバロンの屋敷に到着する頃にはもう夕暮れ時だった。

馬車から降りると門の傍に黒い燕尾服と片眼鏡をしている執事が立っていた。バロンの執事だろう。



「初めましてシャル・ブレア様、私はバロン様の執事のドゥーガルです。バロン様が客室でお待ちしております」

「…どうもありがとうございます」



シャルは軽く頭を下げる。

だがそんなシャルを見るドゥーガルの目は睨んでいる。

恐らく舞踏会のこととシャルとバロンの噂のことだろう。

主に仕えて守る執事が主に仇なしそうな女を疑わずにはいられないのだろう。美人でもないでもないどこぞの気娘なら尚更のこと。


だがシアンは空気を読まずにスタスタと屋敷に足を踏み入れる。



「ねえドゥーガル、お菓子ってある?」

「今の時刻はお茶の時間(ティータイム)にふさわしくありませんのでご用意できておりません」



シアンのこういった行為は手慣れてしいるようでドゥーガルは歩くシアンの後を追いかける。

そしてシアンに小さく耳打ちをしながら横目でシャルをチラチラと見ている。


ドゥーガルなりのシャルへバロンに近づくな、という忠告なのかだろう。

だがそれはシャルの癪に障る行動だ。

これでもシャルは一端の経営者である故にそれなりに人の評価は気にしてしまうもの。



(いい気分とは言えないよねえ…)



そう思いながらもシャルは遅れないように二人を追った。



◆◆◆



そしてシャルは案内された客室に入る。

そこには待ちくたびれた、と言わんばかりに肘をついて口を尖らしているバロンがソファに座っていた。



「…遅い」

「すみません、依頼について調査していましたので」

「ならいい、そこに座れ。ドゥーガル、シアンを外に連れ出しておけ」

「僕だけ仲間外れってひどいよ、バロン!」

「菓子を好きなだけ食ってていいぞ」



おやつを与えられて喜ぶ犬のようにシアンは颯爽と部屋を出ていった。

チラッとシャルを見てドゥーガルはため息をつきながらシアンの後を追っていく。

そしてシャルは二人を見送り、バロンの向かいのソファに座った。



「いきなりだが本題に入る。先日捕らえた給仕が自白した」

「それでなんと?」

「盗んだ血は闇市で売っていたそうだ。それなり高値で売れるらしい。売った店を辿ったが王都に噂が流れた頃には店はなくなっていたそうだ」

「では捕らえた給仕が主犯と?」

「ああ。そう自白もしていた。血を買っていた店も噂を聞きつけて逃げたのだろうな」



シャルはあっさりした答えにやはり違和感を感じた。

さっさと騒動を終わらせたいバロンが作った答えなのか、とシャルは疑ったがすぐに頭から打ち消した。

こんな答えを考えたところで恐らく犯行が終わらず、バロンが国王から不信を抱かれるだけだ。

故にバロンにとって何の利点はない。

だとしたらこれが答えなのだろう。



「これが押収した注射器だ」

「給仕はどこから手に入れたのです?」

「それも闇市から仕入れたものだそうだ。注射器を購入した際に店主から若者の血は高値で売れると聞いたらしい」

「…そうですか」



シャルは頷き、注射器を見た。

本で見た注射器より形が変わっていて小型化している。恐らく最新型なのだろう。



「以上が結果だ。貴様の推測と合っていたか?」

「ええ。紛うことなき合ってます。それでは依頼料と慰謝料を」

「おい待て、依頼料は分かるが慰謝料ってなんだ」

「お忘れですか? 私とロザリアナ様の噂のこと。いえ、青い薔薇の髪飾りで恋する乙女に誤解を招いたことを」



バロンは思い出したのか、顔を引きつらせた。

だがすぐに反論は飛んでくる。



「だが髪飾りをつければそうなることは分かるだろう?」

「おや、これが俗に言う庶民いじめですか。私は噂を聞いた乙女達に尋問され、心身共に多大な疲労を受けたというのにですか」



シャルはわざと傷ついたことを演出するため、目を伏せて体を小さく震わせた。

ちなみに噂を聞いた乙女達とはレイチェルと姚のことだ。質問攻めにあって疲れたのは事実だ。

7割ほどはシャルの私恨ではあるが。



「…分かった、慰謝料も払う! 俺が悪かった…」



さすがに罪悪感を感じたのか、バロンは目を逸らしながらそう言った。



(おお、上手くいった。さすが姚さん直伝『男落とし』だ)



そう、以前に姚から教わった技でもあった。

ただ姚がすれば成人済み男性が何しているんだ、という光景になってしまうので本人はあんまり使う機会がないそうだ。

そしてバロンは用意していた依頼料を机に置いた。



「慰謝料は明日店に届けに行く。それで依頼料はいくらだ?」

「書物がいいです」

「は?」

「特に北の国の書物がいいです」



呑気に話すシャルにバロンは唖然としている。

そんなバロンの態度にシャルを首を傾げる。



「問題でもありますか?」

「いや問題は無い…その、意外だったから…」

「意外とは?」

「てっきり高額な金を要求してくるものかと」



(人を何だと思っているんだ)



金のことしか考えてない女とでも思われたのだろうか、とシャルは顔を顰めた。

だが事実、シャルは金さえ払ってもらえれば動く。思われてもおかしくなかったのだろう。



「それでは後日、『慰謝料』お待ちしております」



シャルはそう告げ、腰を上げた瞬間にバロンの手が伸びる。

そして伸びたバロンの手は依頼料を持ったシャルの手だった。



「そういえば貴様、何故吸血鬼のことが王都に漏れたか知っているか?」

「……い、いえ、存じませんが」



驚いたシャルはバロンを見る。

俯いているバロンの顔色は伺えないが声色は怒りを含んでいた。

まずい、とシャルは掴まれている手を離そうとするがバロンの手は一向に離れない。



「あのガキに菓子をやったらあっさり教えてくれたぞ。お前が広めてこいと頼まれたってな」

「あ、のですね…それには事情が…」

「事情もクソもあるか!!こっちは事態を収集するのに徹夜したんだぞ!!」



やはり怒ったバロンは勢いよく立ち上がり、机に片足をかけた。

そして体を乗り上げ、向かい側にいるシャルの頬を引っ張る。

確かに心做しか目の下に隈ができている気もする。



「よくも漏洩してくれたな、シャル!!」

ほへんなさい(ごめんなさい)…!!」

「生憎、俺は根に持つ性分でな! 謝って済む問題ではない!!」



どうやらバロンは素性では自分のことを俺と言うらしい。口調も年相応になって貴族らしさが消えている。



(謝ってもだめだ、これ)



そう考えたシャルは思いっきりバロンの額を狙って頭突きをした。

シャルとバロンは衝撃で吹き飛ぶ。



「いっ…!!」

「うっ……!!」



シャルもバロンも痛みを伴い、ソファに倒れた。

頭突きをしたシャルは痛みで熱くなる額をソファに押し付ける。

反対に頭突きをされたバロンは額を抑えて、足をばたつかせている。



「…痛いですか、ロザリアナ様」

「すっごく痛い」

「これで物理的痛みは公平ですよ」

「そんな公平いらん!」



公平と言い張ったシャルだったが頬を引っ張られたから公平ではないのでは、と考え出したがやめた。

これ以上、また何か言ったらもう一度頭突きをするはめになってしまうのではないか、という考えが横切ったからだ。

そして二人は起き上がる。

最初に口を開けたのはバロンだった。



「バロン様」

「……は?」


バロンはシャルの返事に眉をぴくぴく動かす。

さすがに今のは返事はまずかっただろうか。


「バロン様と呼べ。ロザリアナ様なんて堅苦しくて嫌いだ」

「そう言われましても、ロザリアナ様はロザリアナ様です。そこらの庶民が気安くバロン様なんて言っては失礼に値します」

「これは俺の睡眠時間を削られた分の慰謝料だ。金じゃないだけマシだろ?」



シャルは気づかれないようにため息を吐く。

あのバロンがこう言ってるのだ。何を言っても気を変えることはないだろう。

仕方なくシャルはロザリアナ様呼びをやめることにした。



「バロン様。これでよろしいですか?」



目を見張ったと思えば満足そうな笑みに変わり、ああとバロンは返事をした。

だが表情に合わなく、額は赤くなっている。


(…おかしな人)



そしてこの後、シャルとバロンがドゥーガルに怒られるのは言われるまでもない。


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