17 救出
すると閉ざされていたドアが勢いよく破壊された。
破壊されたドアに立っていたのはぜえぜえと息を切らしたエリオットだった。
無茶して、とシャルは思ったが、
(…私も一緒か)
もちろんの事、エリオットは青筋を立てて唖然とするセシルを睨んでいた。
久しぶりに怒るエリオットを見てシャルの肌がぞわりと逆立つ。
腕の中で暴れていたアーロンもエリオットを見るなり大人しくなる。
「俺のっ、姉さんに、何、してんねんお前…っ!!」
「いやあ、エリオット君早いよお。…あぁ、よかった!『剣』の打消範囲内に間に合ったんだね」
怒るエリオットの後ろで青と黄色の刺繍が施された白いコートを着ている金髪碧眼の男が立っていた。
心臓の部分に付けてある紋章を見たところ、王都の騎士団の1人だろう。
「貴方はシアン様っ!? 何故、ここに…!?」
「はは、好奇心だよ。でも君に崇拝趣味があったとは意外だよ、セシルくん………で合ってるよね?」
「なんで俺に聞くねん。合っとるわ」
エリオットはシアンの笑顔を払い除け、シャルとアーロンに駆け寄った。
するとシャルに抱きつき、涙を流すが怒りは収まっていなかった。いや収まるはずがない。
涙を流しながら怒るエリオットはシャルを頬を引っ張る。
「姉さん、なんでさっき死のうとしたん?なあ?」
「…ほへんにゃはい」
「後でたーっぷり聞くな、姉さん?」
「ひゃい………」
エリオットの黒い笑顔にシャルは顔を蒼白させた。
その笑顔を見たアーロンも。
「うんうん!生存確認も終わったことだし。セシルくん、大人しく僕に捕まってはくれないかな? これは完全なる殺人未遂だからね」
「貴方を殺せば何にも問題は無くなる…と言いたいところですがやめましょう。到底貴方から逃げれるとは思いませんから」
シアンの腰から携えている剣をちらりと見て、セシルはため息をつきながら言った。
そこでシャルは何故自分が死ななかったのか理解した。
あの剣は魔厄祓いの鋼を溶かして作られた剣だ。
魔厄祓いの鋼は特殊な力を持ち合わせていて魔力を無効化することが可能なのだ。その力から魔術殺しの石なんても呼ばれている。
しかもその鋼は希少だ。
故に魔厄祓いの鋼で作られた剣は王に忠誠を誓い、実力のある騎士団長やギルドの長だけにしか贈られない。
恐らくシアンという男も騎士団の団長だろう。
シャルの予想でしかないがこの男は強い、はずだ。
完成させるのは困難と呼ばれている二重結界魔法を易々とやってのけるセシルが簡単に歯向かうことを放棄したのだ。
セシルにとってそれが賢明な判断だったと言えるのだろう。
「うん、それでよろしい。さてそこにいるなのがエリオット……エリオ君のお姉さんかな?」
「なんで言い直してんねん」
「いやあ、エリオットって長いだろ?だからエリオ君のほうが呼びやすいかなあって」
シャルの後ろではセシルがエリオット様の名前を、なんて怒りを滲ませながら顔を歪めている。
そんなセシルを無視し、シャルは抱き込んでいたアーロンを解放した。
そしてゆっくり立ち上がり改めてお辞儀をした。
「この度は助けていただきありがとうございました。しかもエリオットがお世話になったようで」
だがシアンから返事が返ってこない。
不思議に思ったシャルは顔を上げ、シアンを見た。
だがシアンの顔に驚きの色が滲んでいた。
「あの、どうかなさいました?」
「あ、いや、エリオ君とは違って礼儀正しいというか静かというか…うん、びっくりしちゃった」
ああ、とシャルは顔を引き攣らせた。
どうせエリオットのことだ。シャルの命が危ないと思って我を忘れ、無礼の数々をしていたのだろう。
先ほどのシアンに対しての言動も頷ける。
「自己紹介をしたいところだけど、まずは僕の団員達がいるテントまで来てもらうね。それに君のお友達を団員達に預けたまんまだからね」
シアンはレイチェルのことを言っているのだろう。
目を閉じれば不安と心配で泣くレイチェルを励ます団員達の姿が思い浮かぶようだった。
シャルはため息をついて頭を抱えた。
◆◆◆
「シャル!!アーロン!!」
「うがっ」
「ぶへっ」
バハルから降りたシャルとアーロンを
見たレイチェルは勢いよく飛びついた。
疲れきって油断していた2人はレイチェルの馬鹿力に苦悶を漏らした。
「バカ!ホントにバカ!私がどれだけ心配して涙を流したことか!」
「……アーロン、後で騎士団の人達にお礼言いに行くぞ」
「え、俺も一緒に行くのかよ…」
「気にするとこそこじゃないよバカあ!!ふえぇんっ!!」
レイチェルは大粒の涙を流し、抱きしめているシャルとアーロンの肩を濡らす。
大泣きしたと思えば今度はいつものシャルだ、とか言って笑いながら泣いてる。
随分と忙しそうだ、なんて呑気に考えつつ空を見上げた。
もう夜があけ、朝日が登り始めている。
「じゃあ、お姉さん。眠そうなところ悪いけど話を聞かさてくれないかな?」
「俺も一緒やかっ……ですから!」
一緒やから、と言おうとしたエリオットをシャルは睨んだ。
幾ら我を忘れていたからなんて言っても相手は騎士団長だ。
立場を弁えないとこの場で斬首なんてありえる話である。
「もちろん! エリオ君にも事情を話してもらう約束をしていたからね」
ついてきたまえ、とシアンは手招きをする。
アーロンをレイチェルに預け、シャルとエリオットは後を追う。
恐らくこの後、アーロンはレイチェルのお説教をくらうのだろう。
頑張れガキ大将と思いながら騎士団員達の間を通っていく。
騎士団員達はシャルの顔を見るなり落胆する。
(美人じゃなくてごめんなさいね)
アルビノのエリオットの姉ならば白い美人でも来るのではないか、と淡い期待をしていたのだろう。
だが生憎、シャルとエリオットは血の繋がりのない姉弟だ。
もちろん血の繋がりがないのだから似るはずもなく、ましてやアルビノでもない。
エリオットも同じことを思ったのか、騎士団員達を睨んでいる。
そんなエリオットの頭を後ろから叩く。
やはり叩かれたのが不満らしく、エリオットは口を尖らせた。
案内されたテント内に入り、シャル達は椅子に座らされる。
シアンも道中のことを気にしていたのか、うちの奴らがすまないね、と言って椅子に座った。
隣でエリオットが全くだ、と頷いていたのでシャルはまた頭を後ろから叩く。
「ちなみにシスターセシル…いえ、セシルはどこに?」
「団員達に言って見張ってもらってるよ」
「あとでセシルと話させてもらえませんか? もちろん、1人ではなく誰に付いてきてもらおうとは思ってますけど」
「ああ、それならいいよ。……それじゃあ、話してもらうかな」
そしてシャルは今までの経緯を話し始めた。
話が終わる頃はもう陽はとっくに登りきっていた。




