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銀の弾丸とコンサルタント  作者: 瑠島 楓
始動編
16/52

15 セシルという女

重たい瞼を開けたシャルの頭に痛みが走る。

苦悶に顔を歪めたが周りを見渡した。

そして冷静に状況を整理し始める。



(確かアーロンと孤児院に帰ろうとして…)



その後に起きたことを思い出し、シャルは急いで体を起こす。

本来なら腕の中にいるアーロンがいないのだ。


しかも手足が縛られて動ける状態じゃない。



(ここはどこだ…?)



家主の姿が見えない。どこかの空き家だろうか。

シャルが窓から外を確認したがだいぶ寝ていたようだ。

空は黄昏色ではなく夜空に染まっていた。



すると窓から月明かりが差し込み、室内を照らす。


ふとシャルが顔を上げると向かいの壁に寄りかかってアーロンが眠っていた。



「アーロン!」



手足を縛られて動けないシャルは叫ぶ。

するとアーロンは声に気づいたのか、閉じていた瞼を開けた。



「シャル…?」

「アーロン大丈夫!? 怪我は!?」



アーロンははっきりしない意識で体を見る。

怪我はない、と首を横に振った。

だが同時に手足を縛られていることに気づき、完全に目を覚ました。



「うわっ! 動けねえ! どうしよう、シャル?!」

「とりあえず落ち着け。脱出する方法考えるから」



シャルが頭を働かせようとした瞬間、小屋のドアが空いた。

そこに立っていたのは蝋燭を持った白い目のシスターセシルだった。


一瞬、2人が目を覚ましたことに驚いたがすぐに頬を赤く染めて笑った。



「シャル様、目を覚ましたのですね!」

「…シャル様?」



アーロンは違和感があったのか、首を傾げた。

だがシスターセシルはアーロンを気にすることなく、動けないシャルの前に膝をついた。



「申し訳ありません、シャル様」

「謝罪するなら拘束を解いてほしいんだけど」

「それはいけません。解いてしまったらシャル様はこの醜いガキを連れて逃げてしまうでしょう?」

「…何故このような事をしたの?」



するとシスターセシルはシャルの顔を見つめながら悲しい顔をした。

間違ったことは聞いてないはず、と心の中で納得してシスターセシルから返ってくる返事を待った。



「どうして、ですって? 全てはシャル様とエリオット様のためです。あの女…いえ、姉さんは何にも分かってないのです。シャル様とエリオット様が神聖なお方なのか。いえ、神の使いなのですから」

「は…? 神…?」

「ええ。貴方様は私を救ってくださった女神様なのです」



返ってきた返事はとんでもないものだった。

シャルは唖然とするがシスターセシルから語られる物語に耳を傾けることにした。



◆◆◆



セシルは生まれつき白い目だった。

その白い目はこの国では珍しかった。


だが人間というものは異質なものが現れると拒む生き物だ。

最初はセシルの両親が白い目を拒んだ。

次に村の住人が気味が悪いと拒んだ。


それでもセシルは自分を保つことができた。

実の姉が味方でいてくれたのだから。


だがその美しい姉妹愛は簡単に崩れ去った。

姉がセシルを拒んだのだ。


セシルの両親はセシルを拒んでいた。

出来のいい姉に悪影響が無いようにと近づくことを禁止した。


姉は両親には逆らえなかった。

逆らえば待っているのは教育という名の暴力。

暴力を恐れた姉はセシルを拒んだ。


白い目を持つお前なんて嫌いだ、と。


幼い日につけられた傷はセシルを蝕んだ。


1人を望み、全てを閉ざした。



人目につかぬようにとセシルが1人で森にいた時だった。


出会ってしまったのだ。シャルに。






セシルはすぐに目を合わせないようにと手で目を隠したが遅かった。


白い目がシャルの中にある知識欲を掻き立ててしまったのだ。


「何で目を隠すの? よく見せてよ」


「だめ…っ! 絶対に貴方も気味が悪いって私をいじめるから…!」



目を抑えながらセシルは徹底的にシャルを拒んだ。


この白い目を持っているだけでどこに行っても嫌われる。いじめられる。裏切られる。孤独になる。


幼いセシルの頭の中はその言葉だけで埋め尽くされた。


だがシャルはセシルと同じようにしゃがみ込み、首を傾げた。



「ねえ、雪って気味悪いって思う?」

「え…? 思わない…けど…」

「だったらその雪みたいな白い目を気味悪いって思うのはおかしくない? 私は雪もその白い目も気味悪いって思わないよ?」



一瞬、シャルが何を言ってるのかセシルには分からなかった。


だがセシルの目から涙がポロポロと流れた。


目の前にいる少女が何を言ってるのかわからなくても自分を拒んでいない。むしろ当たり前のものとして受け入れている。


セシルは手を降ろし、目の前のシャルを見た。


するとシャルはじっくりと目を見る。


そして納得したかのように頷く。



「うん、やっぱり綺麗な目。すごく素敵だね」



満面の笑みで言ったのだった。




月日は経ち、セシルが姉と共に孤児院で働いていた時だった。


アルビノの少年を連れてシャルが孤児院に現れたのだ。




成長したシャルはとても博識で子供達に勉強を教えるほど優しかった。


しかも姉のいじめに屈するどころか、脅して弟を庇うほどだった。



セシルにはその姿が幼き日のシャルと重なり、胸が熱くなった。


夜な夜なシャルがいじめられた日は腹の底から怒りが煮えたぎった。


我慢ができなくなったセシルはシャルにここを出ていくようにと告げた。


だがシャルはあの日のように微笑んだ。



「ありがとう。シスターセシルは優しいんだね。でも気遣う人間を間違えてない?」



頬に痣をつくりながら言ったのだ。



そしてエリオットもエリオットだ。


エリオットもシャルと同じのように微笑みながら嘘偽り無く、自分の目が綺麗だと言ったのだ。



セシルの頭は真っ白になった。


そして走馬灯のように今までやられた暴力や言われた罵倒を思い出した。

自分が見てきた人間は自分のことしか考えていない人間だけしかいない、と。


でも微笑むシャルとエリオットは違った。


何をされても淡々と受け入れ、こんな自分に優しいんだね、と言ってくれたのだ。


(何にも変わってない。変わったのは私だ…シャルさんに見て見ぬ振りをする人間だと思われたくないからって近づいた…優しいのは貴方がたじゃないか…)



イジメを止めようとするならいくらでも止めれたはずだ。

なのに止めようとしなかった。こうして声をかけるだけで終わらせようとしていた。

この孤児院に拒まれたくないから。


ふとセシルは亡き院長のことを思い出した。

以前、前院長に聞いたことがあったのだ。


何故、あの姉弟を連れてきたのか。


答えは2人が神の使いだから、と。



その時は老人の戯言だと思っていたが、それは真実だったのだと気づいたのだ。



気づいたその日からセシルはシャルを崇拝し始めた。


手始めにシャルに暴力を振るったシスター達に同じ暴力を振るってやった。


シャルの右頬を叩いたなら右頬を叩く。肋を折ったなら肋を折る。

眼には眼を歯には歯をってやつだ。


だが暴力のイジメが無くなっても院長の命令でシャルとエリオットへのイジメが完全に無くなることはなかった。



そしてセシルは小屋に目をつけた。


前々からアーロン達の行動はセシルの癪に障っていた。

神の使いである2人に自分達のモノのように扱うことが。


本来ならあの方々はここに居てはならない人達だ。

汚れている部屋に住まわせるのもいけないことなのだ。

なのに汚れた手でシャルの手を引き、薄汚い小屋に連れ込む。


セシルはそれが許せなかった。



そんな時だった。月に何回か行われる魔術師協会の定例集会でセシルに依頼が入ったのだ。


結界魔術師のセシルにビヴァリー領の畑に魔物対策の結界を張ってほしい、と。


引き受けたセシルはそこの土地に行くにあたってビヴァリー領について調べることになった。



そしてそこで小麦粉から起きる粉塵爆発について知ったのだ。


だから子供達と姉に対しての忠告として小屋を爆発させることを考えた。




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