悪人と未来
読んでくれていた方、お待たせしました!!
諸事情によりかなり遅れてしまったこと、お詫び申し上げます
それでは本編をどうぞ
倒れた男からナイフを取り上げ、ノックスは肺にたまっていた息を一気に吐き出す。
「おい、無力化できてねぇじゃねえか」
「わりぃ、まだ動けるとはなぁ」
ケルムは両手を合わせて謝る。ノックスは肩をすくめるとポカンとしている少女の元へ行き、膝をつき目を合わせる。
「怪我とかない?」
「・・・・・・ない」
ならよかった、と安堵するノックス。その肩に少女の小さな手が乗る。どうした、と聞く前に少女が口を開く。
「おにいさん、ヒーロー?」
「なんとも答えずらいことを・・・」
ノックスは苦笑いしいながら頬を掻く。その後ろではケルムとステラが強盗を縛っている。
「・・・・・・ま、いいか。今となっては隠しきれないし」
何かを決めたようにつぶやき、ノックスは床にあぐらをかく。そのまま笑顔で少女の質問に答える。
「俺たちは正義の味方じゃねぇんだ。むしろ逆、『紅き蛇遣い』っていうテロ集団、つまりは悪い人ってこと」
その言葉に店内にいた客は動けなくなる。
『紅き蛇遣い』。一般人はテロリストと蔑み、裏社会のものは一番警戒する組織。全世界で指名手配中の彼らは未だに捕まることなく、政府直轄の施設に襲撃を繰り返すテロ集団。その構成員は数知れないが、わかっていることが複数ある。
一つ、テロ行為には必ず救われているものがいること。監禁されていたり拷問を受けていたりする人物を救出している。が、政府に攻撃しているためテロ行為になっている。
二つ、複数の部隊が形成されていること。強襲を行う『猛獣の檻』、物品を調達したり改造したりする『裏の商人』、どんなところにでも潜入してしまう『名無し』、そして各国にいる小さな部隊。
「んで、俺らはその一つ、『悪戯悪魔』ってわけ。わかったかい?」
「講釈垂れてねえでずらかるぞ」
「早くしないと逃げ切れないわ」
少女に説明している間に準備が終わったのか、ケルムが急かしステラが視線を外に向ける。ノックスも釣られてみると、そこには突入しそうになっている警察が見えた。どうやらかなりの間話し込んだようだ、と心の中で反省するノックス。立ち上がるとそのまま裏口へ向かう。その後ろにケルムが続き、ステラが出るところで振り返る。
「さて、証拠隠滅っと」
そう言って投げたのは見たことのあるスプレー缶。小さな爆発とともに現れたのは強烈な光ではなく毒々しい紫の煙。煙は店内に広がってすぐに効果が出てきた。
「なっ!?」「毒か・・・」「だめだ、意識・・・が・・・」
次々と倒れていく客。外に出ようとするが、その前に倒れていく。当然、さっき助けた少女も例外ではない。
「・・・・・・」
倒れる際、少女は裏口へ手を伸ばす。
「お、おにぃ・・・さ・・・」(ガクッ
◇◆◇◆◇◆◇◆
「と、いうわけだ」
「なるほどなぁ」
ノックスたちは駐車場に止めておいた車に乗っていた。ハンドルを握っているのはノックスで、助手席にはケルムが端末を弄っている。後部座席ーーーではなく、椅子を取り外したスペースにはパソコンが四台、進行方向に垂直になるようにおいてある。現在、ステラが猛スピードでタイピングをしており、画面には文字が高速で流れている。
「・・・聞いてんの?」
「聞いてるって。ようはさっきのやつは催眠ガスってことだろ?」
「ニュース見ていいやがったな」
何のことやら、とケルムは笑う。ニュースには『喫茶店で毒ガス発生!?』という見出しでトップを飾っていた。
「『喫茶店に強盗が入ってから数分後、紫の煙が発生。防護マスクを装備していなかった警官は入れず、中の客は店の外へ出ることができず煙を吸って意識を失う。』」
「『煙が収まったところで救出すると数分で意識が戻った。が、数分の記憶障害があり、犯人は不明』ってか。よくできたガスだなおい」
紫の煙、実はただの催眠ガス。匂いで脳に刺激を与え、数分間の記憶を失う。ただし、後遺症はないように調整してある。メイドインノックスである。
「よくやるぜ・・・」
「そうか?」
「だってよ、紫にしたのって・・・」
「おう、面白そうだからだ」
そう笑いながらアクセルを踏んで発進する。裏路地から出ていって大きな通りを走る。そこにはさっきまでいた喫茶店が見えてきた。救急車がたくさん来ており、何人かが毛布にくるまって乗せられていた。人質となっていた少女も、母親と思われる女性に抱えられていた。
その少女が車に乗ったケルムを見た。視線が合ったケルムは笑いながら手を振った。少女もまた、彼に向かって手を振った。母親は驚いてそれをやめさせる。
「あの子に効いてないとかあんの?」
「どうだろうか。ただ、子供だから催眠効果が短いとかあるかもなぁ。気絶するのが早いからなぁ」
そのまま前進するノックスに、そうかとつぶやいて椅子に深く座り込むケルム。その後ろではまだステラがタイピングを続けていた。
「・・・・・・そろそろ来るわね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
車が発進したのを見送った少女は母親に怒られていた。
「もう!知らない人に手を振らないのっ!」
「しらない人じゃないよ?」
少女はおぼろげにではあったが覚えていた。人質になった自分を助けてくれた三人の人物。
「だとしたら、いったい誰なの?」
そう聞かれて少女はこう答えた。
「あくやくのおにいちゃん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あのときの私は、ただ憧れていた。助けてくれた彼らを尊敬していた。犯罪者だったけど優しい心を持っていた彼らの仲間になりたかった。それからたくさん勉強した。護身術も身につけ、銃の撃ち方も学んだ。でも、彼らは現れなかった。数年待ったが、噂だけしか聞こえてこなかった。だからーーー私が探そう、そう思った」
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