少しの安心感
凛が事故に遭ってからすでに3日が経過していた。ただただ眠るようにベッドに横たわっている
(声が聞きたい。もう一度笑顔が見たい...冗談だよって起き上がってくれよ…)
聖は会社に有給申請を出ししばらくの間会社を休んで凛に付きそうことを決めたのだ。
凛の病室の扉が開かれ
「聖ちゃん…」
と、か細い美奈江の声が聞こえた。彼女もまたパートを休んで凛にできるだけ付き添えるようにしていた。美奈江の後ろには凛の祖母がいた。美奈江は聖の顔色の悪さを見て娘をどれだけ大切に思っているのかが分かり心が痛くなった。少しでも休んでほしいと声をかけた。
「聖ちゃん…あなた全然寝ていないでしょう?顔色が悪いわよ…凛の事なら私たちが見ているから少しでも休んで来なさい。凛に何かあったら連絡するし、この子の事だからきっとヒョッコリ起きてくるわよ。ね?」
しかし聖は首を横に振った。
「目覚めた時に側にいてやりたいんです。絶対目覚めます。凛は絶対…戻ってきます…」
凛の手を握りしめ凛を見つめながら聖はか細い声で答えた。
美奈江はやれやれ…といった様子で凛の病室のものを片付け始めた。事故に遭ってからというもの、沢山の知り合いやお友達、凛の学校の先生などがお見舞いに来てくれてお見舞いの品でいっぱいになっていた。
「凛〜、綺麗なお花よ、すごく素敵でしょ。皆んな貴方を心配してるの。早く目覚めて…お願いだから…」
そこまで言うと美奈江はすすり泣き始めてしまった。聖もそれを見て釣られて泣きそうになったが祖母だけは微笑みながら美奈江の背中をさすっていた。
(そういえば事故の日におばあちゃん…何か不思議な事を言っていたな…。凛は今あの人の元にいる……おばあちゃんの愛した人って…)
そう思いながら祖母の顔を見つめていると、祖母はニコっと微笑み何かを察したように
「聖ちゃん、ちょっと下の売店に行こうか。少し話でもしようかねえ。美奈江、少し聖ちゃんにご飯食べさせてくるよ」
そういうと美奈江はコクリと頷き花瓶の花を整え始めた。
聖は凛の手を握り
「凛!ちょっと俺離れるけど、頑張れよ」
と凛に言い放ち、いってきます。と祖母と病室を出た。
祖母はスタスタと歩いていく。
(幾つなのかわからないが元気だな、見てるこっちが元気をもらえそうになるな)
聖はそう思いながら祖母の後ろについて歩いていく。1階の売店には人はちらほらいたが話をする分には気にならないくらいの人数だった。
コーヒーとパンを頼んだ。あまり食欲はわかなかった。祖母は紅茶を頼んでいた。お会計は祖母がしてくれた。
「あの、ごちそうさまです…」
聖が力なくいうと
「気にする事はないのよ。聖ちゃんも凛と同じように大事な孫のような存在だからね。」
と言って微笑んだ。
「あっ、あの…、おばあちゃんこの間、凛は時が来たら帰ってくるって…今はあの人の元にいるって…あの人って一体…おばあちゃんが愛した人だっていうのはわかるんだけど…でもそれだけじゃ…」
聖は言葉を何も考えていなかったのですいざ話をしようとすると頭の中が寝てないせいもあってごちゃごちゃであった。
それを察したのか
「落ち着きなさいな、聖ちゃん。焦ったって凛はまだ帰ってこないよ。帰ってきた頃に聖ちゃんが倒れたんじゃあ話にならないよ。きちんと食べてきちんと寝なさい。なに、大丈夫!おばあちゃんも返ってこれたんだから。」
「おばあちゃんも返ってこれた…?」
考えるより先に聖は口を開いていた。
「ええ。一緒にいたいって言ったわ…けれど還されてしまったの。君は君の場所へ還るんだってね…。」
話を聞いてても何が何だか分からなくて目を丸くして呆然と祖母を見つめていると
「1から話すかねえ…」
そう言ってカップの中の紅茶に口をつけた。