最終章 巳虎福様に祝福を!ー4①
4
今回の後日談。
僕たちを襲った強盗事件は無事に終息した。
銀行の建物内はあちこちがまるで嵐でも通ったかのように壊れていて犯人が揃いも揃って全員、気絶。特にリーダー核の男に関しては過剰な暴力を振るわれていた。
警察は仲間割れということで決着をつけたらしいけど、捉えらえられていた銀行員の人たちは各々こんなことを口走っていたらしい。
「巫女服を着たねーちゃんが銃弾を素手で握りつぶして獰猛な虎のオーラが見えたよ」
「巫女服のねーちゃんの暴れっぷりはまるで逆鱗に触れた龍みたいだった」
「あの人がいなければ私たちはどうなっていたのか分からない。まさに福の神だ」
等、各々がそんなことを口走っていた。
だけど、警察はその女を見つけることは出来なかった。
よって、銀行員達の妄想としてそんな女はいなかったものとされ、相手にもされていなかったようだ。
だけど、彼らに染み付いた印象は強く、暴れて彼らを救った巫女服の女、通称『巳虎福様』の都市伝説はあっという間にこの町に広がり、一時的なブームとなった。
もっとも、その火付け役となった『巳虎福様』の正体を僕たちは知っているけど、あえて口外しないことにした。
なんていったって生き残る為とは言え、過剰な暴力だからだ。下手に警察沙汰になると神主としては商売あがったりだ。
「ということで見逃してくれないかな、枕木ちゃん」
僕は正面に座っている枕木ちゃんに懇願してみる。
僕は陽の光がほんの少ししか差さない冷たい取調室にいた。
容疑者扱いなんて希少かつ致命的な攻撃にげんなりしそうになる。
逮捕された……というよりは限りなく容疑者に近い重要参考人らしいのだけど、理由は簡単。
倒れているリーダー格の男のそばで大の字になって倒れていて、尚且つ運悪く僕の手元にリーダー格の男が持ち逃げしようとした金の入った布袋が落ちていたらしい。
要約すれば仲間と間違えられていたのだ。
テレビとかで報道されないだろうな。神主として再起不能になるのは止めてほしい。
っていうか、ただでさえ巫女になってくれる女子が来ないのに更に来なくなるのが僕は辛くて……悲しくて……。
「自分は悲しいっす。榊先輩、変態でどーしようもない人だと思っていましたが、まさか強盗までするとは……」
「僕も悲しいよ」
「逮捕されたからっすか?」
「巫女服女子が来なくなっちゃう」
「警察ナメてるんすか、この人」
ロリにジト目で睨まれるとは、興奮しちゃうじゃないかとかカズトなら言いそうだけど、僕に損な趣味は無い。
「で、なんでしちゃったんすか? お金には困ってなさげだったのに」
「だーかーら、してないっつうの! 僕は強盗の人たちが逃げようとしたからそれを逃がさまいとして……」
「実に胡散臭い話っすね。貴方、そんな正義感の強いお人だとお思いっすか?」
「あいむ、じゃすてぃす!」
「はい。確定っすね。この人、自分というものを見えていなさ過ぎっす」
ちょっ! これは酷い!
人のことを信じない挙句、正義感の塊を捕まえてとんでもないことをぬかしやがった。
「その肩の傷も仲間割れした時にやられたんじゃあねえっすか?」
「やられたんじゃあねえですよ。あーもうわかった」
「自白してくれるっすか!?」
「信じてくれないのなら、今から枕木ちゃんの高校時代の黒歴史を呟くまくってやる」
「な、そ、そんな脅しには屈しないっすよ! 大体そんなことをして何の意味が……」
明らかに動揺している枕木ちゃんに僕は口元を歪めて、
「ねえ、知ってる?」
「豆しばっすか」
「事情聴取の際の調書って残るんだよ。この事件が掘り返される度に調書が見られるから僕が今から呟くことを果たして何人のポリ公の目に曝されるんだろうな。公には口外されないとしても、オッサンの頭の中にはバッチリ残ってそれが署内の噂になってまるで無限連鎖のごとく広がって……」
「ああああああああああ! そんなことには屈しないと言ってえええええ!」
「おい、榊 業守。釈放だ」
取り調べ室に不愛想なくたびれたオッサンが入って来る。
「マジですか?」
「あぁ、お前んとこのリーダーが全部吐いたよ。お前は無関係だって」
「『お前んとこは』は余計ですよ、ポリスメン。地味に取れるハズもない揚げ足取ろうとしないで下さいよ。嫌がらせですか?」
「ちっ……」
「今舌打ちしたぁ!? そんなことで良いの!? 正当性に欠いてるんじゃないですか!」
僕の必死の訴えをくだびれたオッサンは頭を掻きながら軽くスルーして、
「釈放は本当だ。さっさと出ろ」
「そうですか。いやはや、清廉潔白の市民すら疑わないといけないって警察ってお仕事も大変ですよねぇ、ぷークスクス」
「よし、枕木ぃ。この馬鹿が十秒以内に出て行かなかったら公務執行妨害でしょっ引くぞ!」
ちょっと、おかしくない!? そんな当てつけみたいな理由で納得させられるとお思いですか?
あと、枕木ちゃんも拳作って任せてくれみたいな顔しないでくれ。大好きな先輩が逮捕されそうになっているんですよ!?
「あーはいはい。じゃあ、僕は退散しますよ。ではでは、お疲れ様でした」
「もう二度と来ないで下さいっすよ。自分の胃が榊先輩来るたびにキリキリと……」
「枕木ちゃん」
「はい?」
「右手から黒炎は出せるようになったのかな? あと、右目が元に戻ってるけど紅蓮竜王神眼はどうなって……」
「あああああああああああああああああああっ!」
絶叫する枕木ちゃんに背を向けて、僕は取調室を後にした。
報復は完了した。先輩は信じるものだとあれほど教えてあげたのに。
怪我をしているにもかかわらず行われたこの仕打ちにどうしようか悩んでいたけど、あれよあれよと言う間に玄関先に到着していた。
人が来たら開く自動ドアも今日は何故か栄光への扉に見える。
「さて、帰るか。我が家に」
ガラスで出来た扉が横にスライドする。
すると、僕の目の前に人影ならぬ辰影とその後ろにいる鬼影が飛び込んできた。
「ハ、ハン! ずいぶん遅いじゃない。このアタシを待たせるなんて良い度胸してるじゃない」
腕を組んでどや顔で威勢のいい言葉を吐く禊ちゃん
どうやら無事に怪我もしなかったらしい。良かった良かった。
「禊ちゃん……」
「な、何なのよ。そんなかしこまった顔して、礼ならいらないわよ。神主の見舞いくらい朝飯前なんだか……」
「やっぱり自動ドア。開かないんだね」
「ちょおおおおおおおっ! あ、開くわよ! あれよ、さっきまで段ボールのなかに隠れていたのよ。だから開いてなかったのよ、そうなのよ!」
手足をバタバタさせて訳のわからない理論を展開しようとする禊ちゃん。
段ボールのなかに隠れるってどこの傭兵だよ。順調に燦に汚染されてるじゃないか。
「わざもりぃ」
「琥珀も来てくれたんだな。ありがとな」
「うん! お勤めご苦労様です!」
「止めてくれ。お前が言うと、僕が別の稼業の人に見えるから」
両足を軽く開いて膝の上に手をついて頭を下げる姿なんて完全にそっち系の仕事の人じゃないか。
「とにかく、帰るか」




