最終章 巳虎福様に祝福を!ー3②
「こ、この女ぁ! ふざけやがってぇ!」
怒りのボルテージが上がったのだろう。強盗の男達が銃口を燦に向けて放った。
あちこちに跳弾し躱す余地なんてありやしないい!
こ、これはマズいんじゃあ!?
「くはははははっ! これです。これですよ! この銃口を向けられた時のスリルはたまりませんねぇ。まさに命がけと言ったこの状況、FPSのなかで軍神と言われた私の脳汁が大量噴出していますよ」
燦がまるで壊れた機械のように戯言をのたまっていやがる。
余裕なのかは定かじゃないけど踊りながら銃弾を受け流している。
挙句の果てには両足をハの字に開いて上半身だけを大きく反らして躱しやがった。
そして、目にも止まらぬスピードで強盗達を一人、また一人と鎮圧していく。
(こいつ……。流石、腐っても神様だな)
ゲームと現実の区別がついていないだなんてどこまでバカなんだよ、と思う。
いや、こいつからしたらこの状況すらゲームなのかもしれない。
恐ろしい相手をしたな。この人たち。
だけどあっちこっちで撃たれてるせいか壁や床に当たっての跳弾が酷い。
でも、何故だろう。僕達にも一切銃弾が当たってないんだけど……。
「こんのバカ燦!? アンタが暴れたら銃弾をばらまかれるじゃないのよ! 人に当たったらどうすんのよ!」
耳をつんざくような声で僕の後ろで怒鳴る影。
彼女が出したのであろう透明な膜が人質の前に張られている。
本来なら飛び交ってくる銃弾がまるで網に引っ掛かるみたいに空中で止まっている。
「あら、禊さん。礼は言いませんよ。女ならやってくれると信じていました」
「フ、フン、要らないわよ! アタシを誰だと思って……」
「――自己保身の為に!」
「ぶん殴るわよ!?」
「まあまあ、禊ちゃん、落ち着いて……な? 冷静さを欠いたらロクなことが無いし」
「わざもり! あいつらが!?」
琥珀の声で僕は視線を前に向ける。
手に布袋を抱えたままリーダー格の男が店の奥の非常出口へと走っていく。
あの野郎、周りは警察に囲まれてるのにどうやって逃げるつもりなんだ。
「燦っ! 奴を追うぞ」
「ええっ、もちろんです。追いかけっこは得意ですからね。私」
「ウチはどうしよう?」
「琥珀と禊ちゃんは人質の人たちを外に出してやってくれ。琥珀の力があればシェルターくらい簡単に開けれるだろ?」
「ちょっと待って。それじゃあ、アンタはどうするのよ?」
「僕は燦が無茶をしないか見張るとするよ。神主だからな」
「はぁ!? なにそ……」
「わかった。それじゃあ、これ」
琥珀がそっと僕に何かを手渡した。
手に握られていたのは小さなお守りだ。
「これ、お父ちゃんがいざという時に持っておけって」
「獄炎さんの私物か……。ありがたくもらっとくよ」
鬼の私物ってなんか嫌だな。
琥珀に渡した物なら安心だ。僕に渡されたものなら確実に呪いと掛かってそうだけど。
「早く行きますよ、逃げられちゃいますよ」
「ああっ、わかってる」
「わざもり!」
「ん?なんだよ」
「死なないでね」
「――もちろんだ。行ってきます」
★☆
非常通路はとても暗かった。
電源をオフされているのかそれとも元々暗いのかは定かじゃない。
けど唯一の灯が緑色のランプのみっていうのは些か不安を誘うものがある。
燦が前を走り、その後ろで僕がついて行っている。
袴履いてて動きにくいのに癖になんて早さだ。もっと鍛えておけば良かったかな?
「業守さん」
「どうしたんだよ、急に」
「私の狩りに同伴するとは命知らずな神主ですね。本当に変態です」
「お前が無茶しないか心配だからな。うちの神様に人殺しをさせるわけにはいかない」
「やれやれ、私は殺すなんて一言も言っていないというのに。世話焼きですね」
「あんな殺意マックスなゲス顔をしておいてよく言うよ」
「……サノバビッチ」
無駄に罵倒された!?
「まあ、良いでしょう。帰ったらゲームを楽しみますよ」
「それ死亡フラグじゃ……」
僕が言い終わるのその時は待ってくれなかった。
一発の乾いた発砲音が狭い廊下に響いたからだ。
直後、どさっと言う重い音が僕の前で静かに鳴った。
「燦?」
僕は思わず立ち止まる。
僕の足のつま先に何か――だなんて言葉ではごまかしきれない。
暗くてよく見えないが長い黒髪に人一人分の人影が倒れている。
僕は急いで抱きかかえると声の主は弱々しく笑った。
「ははは……。やられちゃいました。いやあ、こんな油断するなんて私らしくありませんね」
「ちょっバカっ! お前、何してんだよ。えっ……えっ……」
手に触れる温度がみるみる下がっていくように感じる。
重さもまるで何かがなくなるかのように軽くなっていくようだ。
手には妙に生暖かい液体が付着している。
嘘だ。そんなことが……こんなことがあってたまるかよ。
「なに泣きそうな声を出してるんですか? 私なら大丈夫ですから奴らを……早く……」
「そ、そんな!? お前を置いていけるかよ!」
「馬鹿ですね。業守さんは。禊神社の効能は怨敵必殺ですよ? 神主が効能が無いことを示してどうするんですか?」
「……必ずだ。必ず奴らをとっ捕まえてやる」
僕はそっと燦を床に降ろす。
そして、静かに目を閉じて駆け出した。
走れ走れ走れ。
――息が途絶える程に。
走れ走れ走れ。
肩に空いた風穴から血を吹きだそうとも。
走れ走れ走れ。
――両足の筋肉が鉛のようになっても。
己の限界を維持して走れ!
「待てぇっ!」
喉のちぎれんばかりに僕は叫んだ。
出口まであと少しというところでリーダー格の男のは静かに振り返る。
「なんだ、さっきのガキじゃないか。ってことはあの巫女服女は死んだのか」
「黙れよ」
僕の言葉にリーダー格の男は押し黙った。
威圧されたわけでもないのだろうけど、そんなことは関係ない。
「お前たちは犯してはならない罪を犯した。これはすごく重い罪だ」
「罪なんざ気にして強盗が出来るかよ、坊主。そしてお前は人質だ。なあに悪いようにはしねえから」
手を伸ばそうとする男の手首を掴んで、、
「お前なあ……」
「んあ?」
「――巫女服に穴空けてんじゃあねぇぞごるあああああああああああああ!」
「……えっ?」
キョトンとしている男を引き寄せて口元めがけて僕は頭突きをお見舞いした。
「ぐぶふっ!」
リーダー格の男は思わず口元を押さえてうずくまる。
僕の額も男の歯が当たったせいか頭が切れて血が噴き出す。
ダラダラと滝のように流れ出てるけど関係ない。
今は目の前のこの野郎をぶっ殺す。
「これは端正込めて作った巫女服に穴を空けられた職人さんの分だ」
「ヤロォ!」
蹲りながらも銃口を向ける男。
だけど僕はその銃身を裏拳で払いのける。
先ほどの頭突きが効いたのだろう。手に力が入っていなかったのか銃は呆気なく闇に吸い込まれた。
銃が払い除けられて生まれた一瞬の隙を見逃さない。
すかさず足を大きく反動をつけて、
「これは穴を空けられたことで深く傷ついた全巫女服女子の分!」
まるで振り子のようにサッカーボールを蹴るかのごとく蹴り上げた。
頭を蹴られて首が大きく仰け反る男。
だが、その一撃に闘志が燃え上がったようだ。
ナイフを懐から取り出し急いで態勢を整えて僕に突進してくる。
だけど――それがどうした。
「お前なんざ人質にいらねぇ! 死ねええええええええええっ!」
「そして、これが……」
男のナイフが僕の手のひらに突き刺さる。
でも、これで逃げれない!
手の痛みが体中を走る。
熱くても痛くてもそんなの知るかああああ。
腰を捻り全身の力を己の右の拳を乗せて、
「巫女服女子が傷ついたところを見た僕の怒りだあああああああああっ!」
リーダー格の男の顎目掛けて拳を振り下ろした。
壁目掛けてリーダー格の男の体が宙を舞う。
在庫の段ボール箱をなぎ倒してそのまま静かに停止した。
「ハァ……ハァ……。クソ……やったぞ」
僕はそのまま倒れ込んだ。
もうやだ。神主は武闘派じゃないってのに。
肩の痛みも手の痛みも限界を超えすぎて感覚が鈍ってきた。
あれか。禊ちゃんとか琥珀が助けを呼んでくれるかな。それならありがたいけど。
いやはや、致命傷じゃないけど出血多量はマズイって言ってたしな。
貧血がこんなところで祟るとはね。ほうれん草はちゃんと食べておくべきだった。
(ん……?)
なんだ? なんかごついのが僕の目の前をちょろちょろしてるんだけど。
えっ、天使ってこんなにごついの? 美少女な巫女服天使とかじゃないの?
えっ、ちょっおまっ、何を……。
僕の意識はここで止まった。




