最終章 巳虎福様に祝福を!ー3①
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「どうしてこうなった」
僕は思わずため息をつかずにはいられなかった。
縄で体をぐるぐる巻きにされていた。
銀行員や利用客達と一緒に一つの場所に座らされている。
どうやら僕達は最悪のタイミングである銀行強盗の真っ最中に入ったようだ。
「業守さん! どうして止めてくれなかったんですか!? 私が入る前なら何とかなったものを……」
ただでさえ狭い空間で足をバタつかせて文句を言う燦。
こいつ神様なのに普通に銀行強盗にねじ伏せられていた。
銀行強盗達が手馴れていたというのか、それともこいつが完全に油断していたというのか。
どちらにせよ、とんだ舐めプ野郎だ。
「ほほう? 一体、どうなんとかするつもりだったんだ?」
「えっとですね……。そうだ、銀行ごと爆破するとかなんてどうでしょう? 私の最強神通力を用いれば、この程度の小物っぽい店なんて一撃で……」
「やめろ。銀行員の方々のイラッとした視線を受け続けるのは地味に堪える」
それにどうやって銀行強盗に遭ったってこいつに伝えるんだよ。
家にいる時の買い物を頼んだ時ですら伝わって無かったというのに。
「うっせえぞお前!」
強盗の一人が機関銃を突き上げて怒鳴り散らす。
お前ってことは俺だけ!? そんな殺生な。
でもだ。あんまり相手を刺激するべきじゃない。此処は落ち着いて……。
「怒られましたね。ぷぅーくすくす」
「お前、ぜってえ後でぶん殴る」
「アンタ達、静かにしなさいよ! あの人たちずっとアンタらのこと睨んで……」
禊ちゃんが僕達に向けて注意をしたと同時だった。
一発の銃弾が僕に当たった。
「いっ……たああっ」
その衝撃に僕は思わず倒れ込んだ。
血が床に飛び散る。
「業守さん!?」
「てめぇは見せしめだ。まあ、自業自得だが文句は言わねぇでもらおうか」
心配する燦をよそに強盗の一人が口を開く。
他の奴らがバタバタと動き回ってるのに一人だけドンと座ってるところを見るとリーダー格みたいだけど……。
(ダメだ。これ超痛い。ジンジンする……)
当たったのは肩だけど、風穴空いてやがる。
よく銃弾が中に入った方が問題だっていうけど、そんなことを笑って言える医者を殴りたくなるほど痛い。
早く止血しないと……。
「よくもわざもりを……っ!!」
文字通り鬼の形相を見せる琥珀。
普段温厚だけど琥珀も鬼の子だ。
今後、此処で生活するんだから暴れるのはマズい。
僕は不格好な笑みを浮かべて、
「やめろ、琥珀。僕は大丈夫だ。そう、掠っただけだから」
「ほ、ほんと?」
「あ、あぁ。だから、な?」
笑顔が引きつっていたことだろう。
一度は言ってみたいこのセリフ、出来るなら本当に擦り傷で余裕しゃくしゃくとした顔で言いたかったな。
僕の思いが通じたのか琥珀は静かに押し黙った。
『でも、どうするのよ。業守』
禊ちゃんが頭の中に直接声をかけてくる。
奴らに対しての配慮だろう。自由に会話が出来るから助かるな。
『どうするとは?』
『致命傷になる怪我じゃないけどこのまま血を流し過ぎたら死ぬわよ』
『マジで!? やばいじゃん! 何とかしないと……』
『警察にはさっき匿名のタレこみとして電話しておいたんだけど、来たところでそうすぐには……』
禊ちゃんが言うや否やパトカーのサイレンが近づいてきた。
田舎なのに仕事が早いじゃないか。
さて、交渉なり何なりしてくれ。早く此処から……。
「こ、こここここは包囲されたっすよ! に、逃げ場はないっすから早く、で、ででっででてくるでやんすうよぉ!」
聞きたくなかったけど誰にでも聞こえそうな大きな声量の聞き覚えがある後輩の声がした。
(オワタあああああああああ)
なんでだよ。なんで枕木ちゃんなんだよ!
確かに真面目で良い子だけどさ、明らかに交渉とかに向いているタイプじゃない気がするんですけどねぇ!
でもだ。職務は真面目にやる子だから意外と大丈夫なのかもしれない。
僕が犯してきた数々の行為を見逃してもらってこともあるけど。
始末書クイーンって呼ばれたこともあったけどっ!
今日はっ! 今日はいける気がする! 核心は皆無だけど!
唸れよ、僕の日頃の行い! 叫べ、幸運!
さあ、感動的な無血開城を実行して見せてくれ、枕木ちゃん!」
「えぇっ……自分が電話するっすか!? えちょ、無理っすよ!? じ、自分、メール派なんで上手く強盗さんと話を出来る自信が……」
不安そうな声が外から聞こえてくるんですけど。
強盗の皆さま、カモだって顔をしてほくそ笑んでいらっしゃるんですけど!?
銀行強盗にリーダーっぽい人が何か話している。
こちらから向こうが何を話しているのかは聞き取れないけど、その実況を枕木ちゃんがしてくれている。
『えっ、そんなの無理っすよ!? 一人当たり一億で全部で二十億って!? それ以外は認めねぇえって落ち着くっすよ! いやはやこっちも今用意しようとしてるんすけどね、ちょっとばっかし時間が……って、逃走用のヘリと用意しろってええっ!』
かなり焦りすぎじゃあないですかねぇ。逃走用のヘリまで追加されてるし。
『警察はあてにならなさそうね』
『そ、そうだな。でも、突発的な行動は身を滅ぼすからな。此処は大人しくしておいた方が良いって……』
『あのぉマイクテスマイクテス。聞こえますか。業守さん』
『変な雑音が混じってるぞ、禊ちゃん。回線がジャックされてるんじゃないか?』
『よーし、業守さんの声真似をしてあの強盗どもを煽ってやりましょうかね。自信あるんですよ、私。あーあーあー』
『や、やめて下さいお願いします。ジョーダンです、イッツアジョーク』
『もう片方の肩にも穴を空けてもらいますか? 右の肩を撃たれたら左の肩も撃ってもらうってどこの博愛精神ですかね?』
こ、こいつマジだ。
しかしこんな真剣な燦は見たことがない。
ネットゲームの大会的なものにチャレンジしている時ですらへらへらしていたというのに。
何がこいつをここまで真剣にさせて……って、まさか!?
(僕が撃たれたことに責任を感じて……。泣けるじゃないか)
『まあ、どうでも良いんですけどね。そんなことは』
『どうでも良いって』
『もし交渉が上手くいかずに長引いた場合ってどうなるんですか?』
『このまま閉じ込められた状態なのは間違いないな。一晩。下手をすればもっと……』
「はああああああああああああああっ!!!」
燦の咆哮にも似た叫び声が銀行の中に響き渡った。
僕ら含めて捕まった人たち、強盗共々に視線が集まる。
ちょっ! あのバカ! 何してんだ!?
「ちょっとそこの女!? 何をしてるんだ!?」
「んな些細ことはどうだって良いんですよ!? アンタ達がしょーもない小金稼ぎをしようとしているせいで私の特典付きゲーム機が買えなくなるかもしれないんですよ!? 買えなかったらどうしてくれるんですか?!」
とてつもなくくだらない戯言を喉が張り裂けんばかりに吠える燦。
そんな彼女をリーダー格の男はじっと見つめて銃口を向けた。
「馬鹿か。てめぇはそんな減らず口はあの世で叩くんだな」
「馬鹿野郎っ!!」
僕は思わず飛び出した。
一応、僕も神主だ。神様に怪我をさせる危機を黙っていられるか!
「業守さん」
燦はそっと僕を見つめて、
「邪魔です」
彼女の蹴りが僕の顎にクリティカルヒットした。
それと同時に発砲音が響き渡った。
「がはぁっ!」
地面に頭を打った……。
痛ぇ、燦のやつ、こっちたあ縛られて手を使えないんだから気を使……。
(って!? そんな場合じゃあ!)
すぐさま僕は体を起こして燦の方を見る。
縄は腕力で引きちぎったのか地面に落ちている。
そして、掴んだのだろう銃弾を握りつぶして奴はどや顔で笑った。
「人間風情が。私を相手取ろうとは良い度胸してるじゃあないですか。……すり潰してやりましょうか?」




