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巳虎福(みこふく)様に祝福をっ!!  作者: 黒羽 夜咫
プロローグ
2/26

第一章 神頼りはあてにならないー1

        1


「あーちょっと待って下さいよ。業守さん。今イベント中で高ランカーの私としてましてはとても貴女の言葉に耳を貸してる時間が惜しくてで……ぬおおおおおおっ! 人間風情がぁっ! 神に逆らいやがって生きて帰れると思うな……」


「おい。クソ神。5秒だけで時間を貸してやる。その手を止めろ」


「仕方ないですね。5秒だけですよ」


 ヘッドホンを外して憎たらしい顔を向けてくるのは鬱陶しい女は燦。僕の住居こと禊神社の現、神だ。


 現だなんてややこしい言い方をしているのは他の神様がいたらしいからだ。


 が、僕の親父の親父の親父。つまり曾祖父さんの時代に火事にあったせいでありとあらゆる書物が燃え失せた。


 んでもって、曾祖父さんが余程ショックだったのが無念の急死。神社を継ぐ気0パーセントの祖父さんが、深酒をした際に本来の神サマの名についての記憶を消失しするという前代未聞の不祥事を起こしたことが起源となる。


 伝承が途絶えちまったせいで、何ていう名前の神だったかすら分からないから唯一残っていた文献によって、現時点で名前が分かっていて、尚且つ神を自称するこの女神に神をしてもらっている。


 ただ、本来なら神を自称してる現人神とかなら論外ということで追い出せる。


 だけど悲しいことかな、このクソ野郎の神通力は本物で、文句なしの神であることは間違いなかった。


 証拠として、こいつが着任してからもいうものの、馬鹿みたいな神通力で我が家の財政は破綻の一途を辿りつつある。


 そう彼女はまごうことなき貧乏神でだったのだ。



「はいはい。なんですか? 迷える子羊である業守さんの話を神である私が聞いて差し上げましょう」


「クソ野郎。仕事をしろ」


「……」


「おい。黙ってヘッドホンつけて現実逃避ぶっこいてんじゃねぇよ。こっちを向けよ。こっちをよ」


「ハン。これだから若造は困りますね。良いですか? 押しかけ系ヒロインに対して労働を求めるなんて主人公としては下の下だとは思いませんか? 無償の奉仕をする主人公こそモテるんですよ?」


「別にお前にモテなくても生きていくには何の問題もないんだが?」


「『やれやれ、どうしようもないやつだなぁ』とかなんだかんだグダグダ言いながら、豚のように衣食住を提供し続けることが主人公のや、役割ぁぁぁあっ! 頭がぁぁ! 頭に指がぁぁぁあ!」


「ドサクサに紛れて何をおっしゃっておられるのですかね? その豚に養ってもらおうとしているてめぇは何様なんだ。あぁんっ!? 答えてみろよぉ?」


「それを人間が言いますか? ってうおおおおらめええええっ! 割れちゃう! 脳みそと対面すりゅうううう!」


 神を黙らせるにはアイアンクローは必須だと言った親父は紛れもなくクソ野郎だと思うが、今は同意したくなる。



「そもそも何だよ。そのゲーム。高ランカーとか何とか言ってたけどよ。見たところネットゲームみたいだけど」


「ウゥ……あぁ。これですか? これはですね。無謀にも様々な武器を使用して神々に喧嘩を売ろうとする人間どもを、美少女化した八百万の神で嘲笑うかのように蹂躙して蹴散らす、神隊これくしょん。通称 神これですね」


「へぇ、そんな人間をナメ腐ったようなゲームを人間の前でプレイする根性だけは認めてやらんでも無いが……面白いのか?」


「えぇ。もちろん。私ほどの腕前になるとこのゲームは二通りの楽しみがあるんですよ」


「二通り?」


 小首を傾げた僕に燦は自慢げに腕を組みながら、


「えぇ。一つは通常通りゲームを楽しむものですよ。自分のお気に入りの神様を集めて並べて人間どもをヒャッハーするというだけの簡単なお仕事です」


「地味に仕事であること主張してくるかこいつ」


「二つ目は人間といえども馬鹿じゃ無いことに注目した遊び方です」


 ん? どういうことだ?


 ぶん殴ることは確定したとしても少し気になるものはあるな。



「人間は徒手格闘から始まり、剣、銃、爆撃とありとあらゆる手段を使って神を攻略しようとします」


「まあ、神をぶっ倒そうとしてるのに徒手格闘の段階があること自体が僕にとっては驚きだけどな」


「現状の私のレベルですが何ともご都合主義な対神用武器とか三種の神器とか封印されし伝説の武器とか使ってきます」


「ゲームとしてはありえない話じゃないわな。むざむざとキャラにやられっぱなしじゃあゲームにならねぇし」


「そうなんですよ。そこで。私は考えました」


 燦はイラッとさせるようなムカつくゲス顔を見せて、


「ムカつくリア神どもの編成で作れば万が一敗北したとしてもストレス発散にもなるのではないかと」


「馬鹿ーっ! ってかもう馬鹿ーっ! お前今すぐ発言がっ! お前のその発言はぁぁあっ!」


 僕は恐る恐る燦の後ろにあるパソコンのディスプレイを見つめる。


 五人一組いや五神一組のメンバーが。


 ゼウス、オーディン、イザナギ、ヴィシュヌ、ユーピテル。


(……って、偉い神様ばっかしやないかいっ!)


 そもそも言うなら神様にこいつを除いて偉いも偉くないもないんだけどさ!


 なに考えてんのこいつぅ!?


 ムカつくメンバーに何故主神ばっかし並べてんのかね!? 死にたいの!? マジ死にたいの!?



「お、お前のせいで俺の神社目掛けて火の槍が降り注いだり、落雷が落ちまくる系の天罰の対象になったらどうしてくれんだよ!? あいつら滅ぼす時には手加減抜きなんだからなっ!」


「その時は言ってやりますよ。『ちっせぇな』って」


「煽ってんじゃねぇよっ! それ言って神様が天罰を止めてくれると思うのか。あぁん?!」


 燦の頬をハンバーガーでも掴むように鷲掴みにして詰め寄る。


 こいつには一回、きついお仕置き的なもんが必要な気がする。



「ったく野蛮ですね。良いですか。私のような低級の神がどうこう言ったところで天罰が止むようなことは無理なんですよ。私に出来ることはこのPCと自身に被害が無いようにシールドを張るくらいなんですよ」


「ちょっと待て。守ってるの自分だけじゃねぇか!? 僕のことを守らないヤツに此処に住まわせる意味は無いよな?」


「オーケイ。だったらこうしましょう。業守さんの男性器だけは守りましょう。そして、私は往年のヒロインよろしくこう言うんです。『業守さんに「息子を頼む」と頼まれました』と」


「うぇいうぇい。地味に下ネタ放り込んでくれてんじゃねぇぞ、外道っ! 何処のどいつがそんなマニアックな頼みをするんだよ。しかもさ、ヒロインはそれを言われるんであって言うのは親友とか部下のポジションの人だろうが」


「そうともとれますね」


「そうとしかとれねぇよ。あと攻撃受けても無事な結界があるのなら体全体を守ってもらうわ!」


「えっ!? ってことは男性器は要らないってことですか!? まさか、業守さんに性転換願望があっただなんて……」


 ……やれやれ。こいつに日本語は通じないようだ。



「オーライ。落ち着いた。一周回って超クールになっちまいましたよ。俺」


「ほう。それは何よりです」


「なぁ、燦よ」


「何ですか? 私は忙しいんですが?」


「……神様の血って目の見えないヤツでも治す力があるんだよな?」


「な、なんですか。この金の亡者っ!や、やめて下さいよ。こ、此処は黙って平和的にその明らかに危険度の高い獲物を仕舞ってください。と、というか女の子に対して凶器を向けるだなんて!? そんな特典があるのは徳の高い神様だけで私の血なんて目に掛かったら邪気眼に目覚めるだけですよ?」


「よーし。だったら中二のガキどもに売りつけよう。売れるぞぉ? 誰もが欲しがる神秘気的な力だからな!」


「は、はーん! 良いでしょう。掛かってきなさい。人間よ。言っておきますが某十字架に吊るされた人を刺した槍ですが、当人曰く槍が凄いんじゃなくてあれを刺したロンギヌスさんの腕力と不信心さがハンパなかったとのことで、貴方の軟弱な細腕で果たしてどれほどのダメージが与えられ……って、だから落ち着いて落ち着いて……ね? そんな装飾過多な槍で突くのはのおおおおおっ!!」


 閑話休題。



「で、私は何のお仕事をすれば良いのでしょうか?」


「ん? そうだな。巫女さんなんてどうだ?」


「巫女……ですか?」


 口元に指を添えて、きょとんとした表情で燦は首を傾げた。


 なんだ。聞いたことないわけじゃあるまいに。


 どこか不安な要素でもあるのかな。



「なんだ。不満か?」


「いえ、不満ではないのですが……」


「ほう」


「この神社にいた前の巫女さん何処に行きました?」


 ……。


 ……。


 ……。



「……勘の良い神は嫌いだよ」


 2秒後。僕は燦に羽交締めにされました。


 羽交締めからのコブラツイスト。


 燦の柔らかい双丘が背中に当たって、気持ち……良くねぇっ!


 って、痛えっ! 超痛えっ! ちぎれるちぎれるちぎれる捻って曲げてちぎれるぅうううっ!



「何したんですか?! 何人目だと思っているんですか。此処の巫女さんが辞めて行ったのは!?」


「し、仕方ないじゃないか。僕は巫女服が大好きだ。少し解けば見えそうな胸元ボディラインが強調されないようで実は胸元は顕著に出るというスタイリング、そしてなにより和服という素晴らしき古来の先人達のエロティシズムが存分に詰まったあのデザイン。なにより処女性を重要視される期待のワンチャン制度っ! 覗きをしない方が変態というやつじゃないかっ!」


「覗きですか!? 今度もまたエラくタチの悪いことをしでかしてくれたものですね。警察によくも御用にならなかったものですよ、この外道は。良いですか? 貴方の趣味嗜好がどのようなものかはさておき、覗きは犯罪ですよ!? しかもそれを堂々となに主張してくれてんですか? 馬鹿ですか? クソですか? 恥ずかしくないんですかこのノミ野郎!」


「うるせぇっ! 着替えを覗いてた訳じゃねぇ。巫女さんをガン見してただけだよ。僕はっ! 神社にいて巫女服覗き見ねぇだなんて地球において息をしねぇのと同じなんだよ! するだろ! 全人類いや全生物が酸素取り込んで二酸化炭素吐いてんだろうがよおぉっ! そんくらい当たり前だってことだよ!」


「植物は二酸化炭素取り込んで酸素吐いてんでしょうが!? 無駄な戯言をぬかす暇があるのでしたら、小学生でも知ってる知識を頭に入れてから出直して来て下さい。よろしいですか!?」


 やれやれこいつ全然わかってねぇわ。神様と人間じゃやっぱり価値観が違うのかね。ったくよぉ。


 ここはしっかりと教えてやらねば。


 今後のこいつの地上ライフにも。そして俺の目の保養にも関わる重要な案件だからな。



「そもそも仕事着って言うのはな、求められているから着るもんなんだよ。適材適所。その服装を着ることで他に安心感を与え、己が心持ちを引き締めるものなんだよ。病院ではナース服、工場では作業着って決まっているように神社と言えば女の子は巫女服なんだよ。場に合った服装で仕事に望まないと神様に失礼だろうが!」


「……一応、私が此処の神なんですけどね」


「うるせぇっ! 神がどうしたって言うんだよ!? 何様だよっ!」


「神様ですよっ!」


「そもそもっ! お前がもし巫女さんの服を着て此処の巫女さんをやってくれなかったら四十になろうかとしているお袋がわざわざ帰国して、フリフリのフリルが付いたとても巫女服とは思えない改造された巫女姿を見ることになるんだぞ! まだ三十代なら世間的にはセーフなマニアックなメンズもいるかもしれないが、そんなのあんまりだと思わないか!?」


「良いではありませんか。哀さんお美しいですし。私よりも断然に手慣れているはずですから効率が良いでしょうに」


「お前は何も分かっちゃいないな! 良いか! あの枯れススキには何も無いんだぞ。豊満な乳も。細やかなボディラインも。麗しき美肌も。際どいチラリズムも。無欠の処女性も。何もかもだっ!」


 僕がここまで断言できるのには理由がある。


 ウチの親父も俺やご先祖様同様巫女服好きだったらしいが大きく違うところがあるからだ。


 そう、それは親父が尋常ではないほどペドコンだったことだ。


 ペドフェリアコンプレックス。通称ペドコン。


 ロリコンとは似て異なる高次元の嗜好である。


 ロリコンではなくペドコンだということを大きく主張させてもらう。


 奴は低身長、幼児体型、童顔、ツインテールの四種の神器をこよなく愛し、今現在何の用かは知らないが何故か渡米している、三十年下の女の子を嫁に貰った堪え難いど変態なのだ。


 5歳の頃に求婚し、十六歳になるまでの間、周囲の反対を押し切り、時には禁断の呪術的なものを使用してまで強行したその様はまさしく人畜。現代版、光源氏とはよく言われたものである。


 妹に間違えられる母親とはまさに悪夢以外の何物でもない。


 懇談会の時も授業参観の時もトラウマが迸りすぎて泣けてくる。


 先生の白い目が親父ではなく僕に向けられるだなんて、まさに悲劇を通り越して喜劇だよ。シェイクスピアも大爆笑するしか無いレベルだよ。


 僕にもその血が流れていると思うと吐き気を催し、毎日献血と輸血を同時並行で行いたいと思う程に煩わしい。


 もっとも。その点以外を外せば親父のことは嫌いではない。むしろ俺の嗜好に対して肯定的である分、良好な関係であるとすら思える。


 良き理解者が変態なのは悲しい限りではあるが、この呪われた血を理解するのは同じく呪われた血を継ぐ者ということなのだろう。



「お前、自分の母親のきゅるんきゅるんした巫女コスを毎日見せられる息子の気持ちを考えたことはあるのか!? しかも毎日、おはようからおやすみまでずっとずっと見守って来て『わーくん』だなんて車のメーカーみたいな呼び方をされる二十代前半の青年の気持ちを貴様は考えたことがあるのか!? 毎日だぞっ! オムライスは確かに昔は好きだったが、母親にスプーンであーんなんてされる趣味はねぇんだよ。ちくしょうがぁぁ!」


「そ、壮絶すぎてドン引きです……」


「そうだろっ! そんな自分のオカンの巫女服を見続けるくらいなら目の保養になるくらいの程良い可愛さとバランスの取れたバディをしている600歳代女性、職業神の巫女服を見たいだろ目に両指が突き刺さって痛むううううっ!」


「600歳代女性は余計ですよったく」


 僕の身振り手振りを込めた熱意100パーセントの説得が通じたのか、はたまな『仕方ないですね』と肩を竦める燦。


 本当は呆れ返られているだけかもしれないが、この際だ。そんな些細なことはどうでも良い。


 ロンギヌスさんとは対象的に両目の視力を失いそうなレベルで目が痛むけど、この痛みなんて軽い軽い。


 神社に巫女さんは必要不可欠。


 だが、募集をしている間、オカンを帰国させることになるくらいなら、此処はなんとしてでもこの案件を押し通さなければならない。



「わかりました。その仕事お受けいたしましょう。業守さんがそこまで泣いてすがられたら断ると呪い殺されそうです」


「ありがとう。わかってもらえて非常に嬉しいよ」


「では、今から着替えてきますので覗いたら……殺しますよ?」

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