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巳虎福(みこふく)様に祝福をっ!!  作者: 黒羽 夜咫
第三章 忘れ物は龍ですか?
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第三章 無くしたものは何ですか? はい、龍っ娘ですー4


「おかえりなさい。えらく遅かったじゃないですか、業守さん」


 ジュースとポテチを両手に持って『祝勝利』と書かれた鉢巻を頭に巻いて燦が現れた。


 おかしいな。確か晩飯前だったはずなんだけどな。



「ちょっと野暮用でな。っていうか晩飯前にそんなもの取り出してきて大丈夫か?」


「えぇ。琥珀さんには許可は取ってますよ。今日は特別らしいです」


「……家庭内での主導権奪われてんじゃねーか。そんなことはともかくお前に話したいことがあってさ」


「はて、なんでしょう」


 小首を傾げなが尋ねてくる燦に僕は靴を脱ぎながら、


「僕はこの神社の神様の名前を知っている人間がド腐れカズトだけであるという事態に深刻さを感じたわけだよ」


「うぇいうぇいうぇい。気にしなくていいですよ。そんな些細なことは。実に小さいことを気にするだなんて男としての器が知れますね」


「まあ、運営としては大きな問題なわけだよ。結局、今回のメンバーはいつも来てくれる固定なメンツだし。あの人たちが来なくなった本格的にうちの神社が廃れかねない」


 僕はあえて真剣な面持ちを作って口を開く。



「そこで神様のスーパーバイザーを連れてき……」


「しゃらああああああああああぷ!」


 僕が言おうとしたところで燦が遮ってきた。


 くそっ。もしかしてバレたってことか。さすが腐っても神。無駄に良い直感してやがる。



「しょ、正気ですか。業守さん。スーパーバイザーってことは……」


「スーパーバイザーってことは?」


「スーパーバイザーってことは私より上位の神ですよね!? 仕事を強要されるじゃあないですか!? そ、そんな不条理が許されるはずがないですよ!?」


 ……この馬鹿は何を言っているんでしょうか?



「いやいや、まさか仕事をしてなかったわけじゃあないだろうな?」


「ぎくっ!?」


「今『ぎくっ』って言ったか?」


「そ、そんなわけねーじゃねーですか。やだなーわざもちさんは」


「僕の名前、間違えてんぞ。完全に動揺してんじゃないか」


 明らかに燦の視線が右往左往している。


 変な汗をこれでもかっていうほど流してるし。


 まさかこの神社において人があんまり集まらない理由って。



「だ、だって、契約の時に言われたんですよ? 『そんなに仕事しなくても良いから神様にゆるーくなってくれ』って。だから私のせいじゃないですよーだ。貴方のところのお祖父さんが悪いんですよーだ」


「取り合えず、あの爺は後で顔面スマッシュしておくことは決定したとして。これはもうスーパーバイザー不可避だな」


「やだあああ。そんなの嫌だああああ。こ、こうなったら業守さんを殺して傀儡人形をこの神社の神主にするしかないですねぇ。げへっへっへ。そうです。そうしましょう」


「そうなるとこの神社の管理とか手続きとか全部お前がすることになるけど?」


「ああああああああっ!? この世は思ったよりもカスですね!? くそおおおおおお」


 玄関先の廊下で頭を打ち付ける燦、


 とても神様の姿だとは思えない。


 この変な人間臭さが周りの人を引き寄せているのかもしれないけど。



「そ、そうだ。こうしましょう。あの私がフルボッコにした鬼どもからみかじめ料を巻き上げましょう。奴らも人間の姿をしながらこの街のありとあらゆる場所に住んでいますからそれなりの金を持っていますし、そうしましょう、これでウハウハですよ」


「それも良い考えだな」


「でしょ? だったら……」


「だが、断る」


「な……何でですか!?」


 靴を脱いだ後、座布団に座る僕の後ろを燦がついてくる。


 こいつぁ何もわかってやしないな。


 逆に上位の神様を呼び出すことを恐れているくらいで良い。むしろ完璧だ。



「それだと根本的に変わらないだろうし何より鬼たちが可愛そうだろ。あいつらは今回は敵だったってだけで僕たちやこの街を害しない限りは手を出さないでいてやろうや」


「なに善人ぶってんですか。顔面どつきますよ?」


「獣みたいな目で恐ろしいことを言うなよ。ガチで怖いじゃないか」


「とにかく私は反対ですよ。上位の神を呼び出すなんてそんなことをしてはいけません。私の為だけにそんなことをしたら10月の神様の集まりの際、私が全方向高圧力嫌味攻撃を受けることになるんですよ。ほら、早まってはいけません。お菓子あげますから」


「実はもうお呼びしているんだ」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 敵モンスターの最後の断末魔みたいな声を出す燦。


 今度は壁に頭を打ち付け始めたぞ。なかなかこの反応を見ているだけで面白いな。



「ちょ、ちょっち待って下さいよ。神様の規定で神様は常に正装を着ていないとダメってものがあるので」


「お前、普段巫女服かジャージだよな? 今もジャージだし」


「あれ暑いから嫌なんですよ。夏でも五重で着重ねるうえにその後、体中に暑っ苦しいオーラみたいなのを纏うだなんて勘弁して欲しいですからね」


「それにも意味があると思うんだが、まあ良い。どうぞお入り下さい」


「ああああああっ!? 畜生っ!? まだオーケーって言ってないのに!? くっそ、くっそ! 業守さんまじふぁっく! ふぁああああああああ!」


 問答無用とはまさにこのことで襖の扉が容赦なく開く。



「ど、どうも。私がスーパーバイザーの天乃禊神です。ど、どうぞ、よろしく」


 禊ちゃんの顔を見て十秒停止する燦。


 そして、全てを理解したように満面の邪悪な笑みを浮かべて、


「ウェルカム」


「ア、アンタね!? 私の顔見て『こいつなら大丈夫だ』だって思ったでしょ!?」


「いえ、そんなことを思ってませんよー。チョロ……禊さんなら私を更なる高みへと押し上げてくれそうだなーって思っただけですよー」


「チョロ!? チョロいって言いそうになってたわね!?」


「まあまま、いいじゃないか。結果オーライってやつでさ!」


「良くないわよ! アタシはナメられっぱなしてのは嫌いなのよ! よーく覚えておきなさいよ、バカ守っ!」


 人差し指をビシッと僕に向けて声高々に叫ぶ禊ちゃん。


 すると、燦はふと目を丸めて、


「禊さん。初めて他人の名前を呼びましたね?」


「なっ!!」


 顔を真っ赤にして仰け反る禊ちゃん。



「いやいや、僕も名前はバカ守じゃないぞ!?」


「そ、そうよ! なんでこのアタシがこんなクソ神主の名前を呼ばないといけないのよ!」


「似たようなもんだと思いますけどねぇ」 


 明らかに本心を隠したような笑みを浮かべて禊ちゃんを見つめる燦。


 燦は間違っている。


 初めて禊ちゃんが名前を呼んだやつは……。



「僕より先に燦の名前を出してたから違うよな。禊ちゃん」


「そ、そうよ。だからって……バカーッ!? 何言ってんのよ!? そ、そんなこと言ってないわよ!? 聞き間違いじゃないかしら!?」


「『アタシが帰ったら燦が嫌がる』って言ってたから僕は提案させてもらったんだけどなぁ。勘違いならこの話は無しってことで……」


「あーっ!! ばばばばばあばああばかああああ!」


「私、百合はノーサンキューなんですけどねぇ。まあまあ、ファンの気持ちは受け取っておきましょうか」


「ファン!? 私の扱いファンなの!? じょおおおだんじゃああないわよおおおおおお。ぶ、ぶちのめしてやりゅう!」


 頭を抱えながら絶叫する禊ちゃん。


 どうやらよほど恥ずかしかったらしい。


 燦も燦でクスクスと爽やかに笑っている。


 これで良い。これで良かったんだ。


 誰も悲しむことなく皆で笑え合える日常が一番良いもんだ。



「おやおや、騒がしいと思ったら皆帰って来てるんやね」


 台所から暖簾をくぐって琥珀が現れる。


 シャツとジーパンに着替え、エプロン姿にお玉とフライパンを持って、まさに主婦という恰好をしている。


 ……エプロン姿?



「何故、エプロン姿なんだあああ!? 巫女服は!? みごほっごほっ!」


「いやあ、だって料理してたら撥ねることもあるから着替えといた方がいいんかなって」


「た、確かに汚すのはダメだけど、も、問題でござるよ。巫女服なら四千着あるから! 多少なら職人に任せてシミを落としてもらうからああああ」


「はぁっ!? アンタ達、アタシの頃にはそんなんに巫女服無かったわよ!?」


 禊ちゃんが驚愕を露わにしているようだけどそんなことは関係ねえ。


 そのことは分かっているせいなのか、燦は口出しをせずにやれやれと肩を竦めている。



「この一族、本当に馬鹿ですよね。巫女服に命を賭けすぎですよね」


「アンタの前に、この馬鹿を矯正した方が良いのかもね」


「あんっ!? 巫女服が似合う年になってから言うんだな。お嬢ちゃん」


「ああっ! また、バカにしたあああ! アタシはこの中でも最年長なのよ!」


「はいはい! 戯言はご飯の後にするんよ! お腹減っとるからイライラするんや」


 琥珀がお玉でフライパンを軽く叩いて音を鳴らしながら暖簾を上げる。


すると、ダイニングには色んな高カロリーな料理がテーブル一面の並べられている光景が広がっていた。



「う、うわあ、美味しそうですけどすごい茶色いですね。どれも」


「唐揚げとフライと春巻き……総カロリーを計算したら倒れちゃいそうね」


「ま、まあお祝いだからな。でも、よくもこの量をあの短時間で作れたもんだな」


「うちが帰って来たあとサンガさんとこの部下の皆が手伝ってくれたんよ」


 微笑みながら手を向ける琥珀。


 何人ものガタイの良い鬼たちが親指を立てて自慢げにこちらを向いて歯をむき出しにしながらどや顔をしている。


 こりゃあすごい光景だな。一瞬にして男臭い空間が出来上がっている。


 いや、別に良いんだけどな。料理は男が作ったらいけないってルールはないわけ……ちょっと待て。



「おい。お前らその服は……」


「へい。服が汚れちまうといけないんで奥のタンス部屋の服を借りました」


「パツパツだったんでちょこっとちぎれちまいましたが何とか着れましたぜ」


「いやはや、今時割烹着だなんて渋い趣味してますな。アニキ」


 これまた男臭い笑い声を出しながらお互いの徒労を称えあっている鬼ども。


 割烹着? そんなものはうちにはねぇよ。



「お前らな。その赤い袴は何だと思う?」


「袴ですかい? こりゃあ裁縫ミスのエプロンかと思って引きちぎりましたが違いましたかね?」


「違うどころじゃねぇ」


 僕は溢れんばかりの血の涙を抑えつつ、


「そりゃあ巫女服だあああああああああ! オッサンの巫女服なんざどこに需要があるんだごるあああ! 一人残らず息の根止めてやるから覚悟しろや、ボケどもおおおお!」


「業守さん、落ち着いて下さい! まだ巫女服はあるじゃあないですか!」


「うるせぇ! 野郎どもには巫女服と同じ思いを味合わせてやらないと僕の気がすまねえ!」


 この晩、燦の為の祝勝会が血の宴になったことは僕は忘れない。


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