第三章 無くしたものは何ですか? はい、龍っ娘ですー3①
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夕日が神社の境内を血を零したように一面を真っ赤に染め上げる。
周囲は水を落としたようにシンと静まり返り、呼吸する音ですら聞こえてくるようだ。
そこに僕を含めて四つの人影が伸びている。
僕、燦、琥珀。そして禊ちゃんだ。
「そ、そんな……。こんなことって……」
ガックリとうなだれた様子でその場に座り込む禊ちゃん。
カズトが帰った後に一人も参拝客は来なかった。
1日の間に何人も人が来る神社じゃないのは昔からだしこの可能性は大いにあり得るということはわかっていた。
わかりきっていたことだけど。でもさ……。
「ハハハ……。そうよね。皆、アタシのこと覚えているわけ無いよね。月日って本当に恐ろしいわ」
禊ちゃんはふらっと立ち上がって、
「ごめんなさい。アンタ達には迷惑を掛けたわね」
「本当ですよ。こんな出来レースは二度とゴメンです」
燦は髪を掻き上げながらふてくされたように言った。
燦はゲスい神様だけど、普段はこんな突き放すような言い方はしない。
それ程までに今回の比べ合いは真摯に向き合って燦も燦で疲れたのだろう。
結果的に一人しか自分の名前を知らなかったのだから、その緊張は計り知れないだろうしな。
「そ、その……禊ちんはこれからどうすん?」
神妙な面持ちで尋ねる琥珀に対して禊ちゃんは大きく伸びをしながら、
「ま、呑気に山で籠っておくわ。そっちのほうがのんびりとしててアタシの性に合ってるだろうしね」
「ま、それも悪くはないかもしれませんね。ま、電気もネット回線も繋がっていない山奥で籠るなんて私には耐えられそうに無いですけど」
「アンタね……。まあ良いわ。今はアンタの時代なんだしアンタの好きなようにすれば」
そのまま歩き出した禊ちゃんは僕とすれ違い様に静かに微笑んで、
「それじゃあ、業障のひい孫、せいぜいこの神社を潰さないように頑張りなさいな。潰したら一生呪ってやるんだからね」
「禊ちゃん。僕は……」
話しかけようとした時にはもう彼女の姿はなかった。
恐らく、自ら姿を消したのだろう。
これで全てが終わったのだ。燦がいて琥珀がいる、そんな何事も無い日常へと戻るだけだ。
でも、これで良かったのか。本当にみんなが……いや、僕が納得して元の日々を過ごせるのか?
「さて、琥珀さん、今日は神様就任決定祝いになんか美味しいものでも作ってくれませんか?」
「お、おう! 任せて!」
「ありがとうございます。業守さんはどうなさいますか? 久しぶりにマリオカートでも一緒にしますか?」
いつもの軽々しい口調で燦が尋ねてくる。
「馬鹿野郎。神主は暇じゃないんだよ。ちょっと待っとけ」
「そうですか。わかりました」
片方の手を肩を添えて肩を軽く回しながら家に戻っていく燦。
その後ろを琥珀は何度か僕の方をちらちらと見ながらついて行く。
「業守さん」
燦が立ち止まって背を向けたまま話し掛けてきた。
「どうした?」
「虫刺されには気をつけて下さいよ。茂みには虫が多いですから」
「……あぁ。わかった。サンキューな」
「いえ。なんのことはありませんよ。神様として当然の心配をしただけです」
再び歩を進めて燦と琥珀は家へと帰って行った。
伊達に神様じゃねぇってことか。
「……さてと。片付けやら事後処理やら忙しいなあ」
あんなテレビ番組にでも使われてそうなセットを置いていきやがって。ほとんど使ってなかったじゃねえかよ、ったく。
あーあ。邪魔だ。倉庫まで引っ張っていくのもダルいしな。
かと言って放置してたら何言われるかわからないしな。粗大ごみとかのたまり場になるのも嫌だし。
「ーー円満解決するのに龍の手でも借りようかね」




