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巳虎福(みこふく)様に祝福をっ!!  作者: 黒羽 夜咫
第三章 忘れ物は龍ですか?
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第三章 無くしたものは何ですか? はい、龍っ娘ですー1①

          1


「過労です☆」


 ベッドで床に伏せる僕ににこやかな笑み全開で燦が告げる。


 当然のことながら医者じゃないけど、神様の眼力はアテになるもんだ。



「やっぱしな。僕はどうやら体力の限界を迎えていたようだ。例えるならHP 1 の状態って感じ?」


「HP 1 ですか? まだ戦えますね」


「どこのポケットなモンスターのトレーナーの発想だよ。HP0は瀕死って世界観じゃねぇんだよ。死ぬんだよ? お分かり?」


「……こうして、むざむざと死んだ業守さんは野良犬に己が死体を食われるのですね」


「いやいやいや、死んだら丁重に墓地に埋葬してくれ。なんで死体がノン供養で野ざらしにされなきゃならないんだよ。戦国時代じゃないんだからさ」


 埋葬もされずに神主が神社の境内に放置されてたらそれこそ色んな意味で大事件だ。



「じゃあ鳥葬にしましょう。これは由緒正しき葬儀ですからね。そうしましょう、うんうん」


「野良犬から鳥に変わったたけじゃねぇか!? この国の一般的な葬儀にしてくれ。鳥についばまれるなんてごめんだ」


「くっ。だったら火刑ですね……」


「それは死刑の方法だぁ!」


「わざもりぃ! 生きてっかぁっ! 精のつくもの作ってきてやったぜ!」


 お盆を片手に扉を大胆に開けて入ってくる琥珀。


 倒れた直後は泣きべそをかいていたとは思えない元気さだ。


 まあ、琥珀は元気なのが一番だ。変にショボくれられてもこちらとしても申し訳ないし。



「ありがとう。琥珀。助かるよ」


「えへへぇ、褒めるなよぉ。照れちまうよぉ」


 顔を真っ赤にしながら照れる琥珀。


 絶妙なバランスでお盆の上のお椀をこぼさないでいるのがまたすごいな。



「おやおや、琥珀さん。良妻アピールですか? いやはやお熱いですねぇ。ミスホットマンですねぇ」


「おい、ミスとマンで訳のわからないことになってるぞ?」


「そ、そうだぞ、燦サマー! 誰がポットマンだ! ウチはポットじゃないんよ!?」


「ツッコむところはそこじゃねぇし地味に間違ってるぞ。琥珀」


「おやおや、これは失礼しました。で、それは何ですか? 見たところお粥のようにも見えますけど」


 燦の指差した先はお椀だ。


 確かに見た目はお粥だ。


 でも、ぷにぷにとした固形状の白子みたいなのが中に入っている。


 琥珀の料理は創意工夫が凝らされてるからな。単なるお粥のままってわけじゃないんだろうけど。


 ……何処かのインスタント神と違って……心を読んで目潰しをするのはやめてくれますかぁ燦さんっ!?


 目がぁぁぁぁ目がぁぁぁぁっ。



「これはね、ウチら鬼が傷付いた時に食べるオオイヌフグリっちゅうやつが入っとって。これを食べたら活力、元気 100 パーセントになるんよっ!」


 胸を張って腰に手を添えて琥珀は自慢げに答えた。


 オオイヌフグリ……ってあの道端でよく咲いている植物だよな。


 あの草ってこんな実をつけるんだな。いやはや勉強になった。


 ウンウンと納得しながら僕は白子のような物体を頬張ってみせる。


 しかし、うめぇ。ほどよく柔らかい食感と歯ごたえが絶妙なバランスで混ざり合ってる。



「はて、私の知識によればオオイヌフグリはて植物の筈ですがどうもこの見た目、植物とはかけ離れているようですが?」


「それはそうよ。なんたってオオイヌフグリは4足歩行の生き物だからなっ! いやはや、ジタバタと逃げ回るんで捕まえるのに苦労したんよ!」


 僕は思わず手を止めた。


 ぬっ……なに? 今捕まえるとか言ったか?


 しかも4足歩行? 植物だよな?



「ちなみにですが、琥珀さん。今業守さんが食べていらっしゃるあれは?」


「ん? ありゃあオオイヌフグリのオスの局部やけど?」


「ぶはたぁぁたっ!???」


 吹き出してしまった。


 思わず咳き込んだ僕に琥珀は『大丈夫か?!』と背中をさすってくれる。


 元はと言えばコイツの所為だが、善意でしてくれたことだ。文句は言うまい。


 でもくっそ、くっそ、くっそおおおっ!


 なんていうことでしょうか。この僕がまさか……まさかぁぁ。



「……業守さん」


「な、なんだよ。い、今は話せる状態じゃ……」


「ナイス尺八」


「うるせぇわっ!! 尺八とか言うんじゃねぇ! 変なこと意識しちまうじゃねぇかっ!」


「いやはや、ベテランの男優もウットリのザク顔でした。もしかすると業守さん、あっちの仕事の方が天職なんじゃ……って、痛ぁぁぁっ! レディの頭を殴るだなんてなに考えてるんですか!?」


「ゴタゴタうるせぇ口はどの口だぁあ? 今俺は非常に気が立ってるんだ。生きてるんだったら神だって殺してみせる」


「い、一人称変わってるじゃあないですか!? あと神主が神様を殺すだなんて罰当たりも甚だしいとは思いませんか!?」


「はっはっは! なんとでも言うが良いっ! さあ、今生に別れを告げ……」


 僕は手首の違和感に気づいた。


 妙にひんやりとした金属。これは……手錠っ!?



「はいはい。榊先輩。殺人未遂で現行犯逮捕するっすよ」


 そこにいたのは身長 145 cm程の婦警さんだった。


 斜めに切られた独特の前髪が印象的な彼女を僕は知っている。



「おやおや、枕木ちゃん。ジョークだよ。僕がそんな酷いことをする人間に見えるのかい?」


「えぇ。少なくとも、巫女服姿の女子高生をガン見し続けて一度通報されたことがある方なので、こういう犯罪ごとに関しての先輩への信頼は皆無っす」


 ……こいつは酷いな。僕をなんだと思っているんだ。



「お、おい! こ、この女は誰なんよ! わざもりぃ!」


「私から紹介しましょう。この方は枕営業の方です」


「な、なにを言ってるんすか。あなたは! 自分は枕木まくらぎ 志木しき。職業は警察官で榊先輩の高校時代の後輩っす!」


 敬礼を決めて堂々とした自己紹介をしてみせる枕木ちゃん。



「職権の乱用をしちゃって始末書ナンバーワンという噂が後を絶たない婦警さんでもある」


「にゃー! な、なんでそんなことを知ってるんすか! と、盗聴!? ストーキング!? 罪状がありすぎてどれで逮捕したらしてやりましょーか!」


「いや、少なくともキミに目をつむってもらったおかげで補導で済んだ男がここにいる」


「何を堂々と恥ずかしげもなく自分で言ってるんですか、この男は。人間の屑ですね」


「わざもり。……犯罪は犯罪だぞ!?」


 冷めた目で僕を見つめる燦とは対照的に感情を爆発させる琥珀。


 犯罪が犯罪じゃなかったら一体何なのさ。琥珀よ。


 まあ、今の優先順位はそれをつっこむことじゃない。



「それはそうと、枕木ちゃん。僕に何か用があったんじゃないのか? それじゃないとわざわざこんなところに来ないだろ?」


「おっと、自分としたことが。今日はおりいって先輩にお頼みしたいことがあったのでした」


「それは大変じゃないか。でも、僕とすれば実に困ったな」


「と言いますと?」


「いやあ、僕さ。実を言うと人の相談事を受ける時には右手を腰に添えないと話の二割も理解することが出来ないんだよ」


 爽やかな笑みで返答する僕に枕木ちゃんは物凄い剣幕で詰め寄りながら、


「ば、馬鹿な! い、以前、私が相談をした時にはそんなことしていなかったじゃないですか!」


「あーおばあちゃんの皺の数が何本あるかって話だったっけ?」


「こ、この人ガチで理解してないっす……」


「枕木さん。この人間の底辺に相談するくらいなら良い相手を紹介しますよ」


「えっ!? 誰ですか!?」


 目を輝かせる枕木ちゃんの目の前に燦はそっと置いた。



「ーー榊 乃枝さんです」


「……既に人間ですらないじゃないっすか」


「勝手に僕の親戚を作るな。人の悩みを聞く力を枝に負ける僕の神主としてのプライドが……」


「あったんですか?」


「あったんすか?」


「あったん??」


 三人が声を揃えて言いやがった。


 これはもう僕首を括っても良いんじゃないかと思うんだけど、駄目かな?



「わかりました。じゃあ手錠を離しましょう」


「サンキュー! あぁ、手首がスーッとした。久しぶりのシャバだぜぇ。へっへっへ」


「発言が既に犯罪者のそれっすね。それはそうと、話というのはですね、最近近所から起こっている苦情のことです」


「そういうのは警察がやってくれよ。僕に何の関係もないじゃないか」


「わざもりぃ。もしかしたら昨日の件じゃないか。……鬼たちの悲鳴が世間の皆々様に……」


 僕と琥珀は視線を燦に向ける。


 燦はとぼけた顔をしながら艶っぽい唇を尖らせそっぽを向いている。


 口笛を吹こうとしているんだろうけど、音が一切出てない。不器用かっ!



「いえいえ。警察で対応するにはオカルト的な内容なんすよ」


「オカルト?」


「ここ最近、この街を賑わす……」


「スタンドですか?」


「違うっす。怪奇現象みたいなものです」


 怪奇現象……か。


 まあ、よくある話なんだけどな。呪いの人形を神社で供養してほしいとか、心霊写真をお祓いしろだとか。


 そんな力があれば神主やってねぇってのって思うような案件を持ち込んでくる人たちがいるけど、正直気休め程度にしかならないんだけどな。


 もっとも、気休めでもなんでもそんな平穏が一番欲しいもんなんだろうけどな。人間って。



「で、どんな怪奇現象なんだ? 人形の髪でも伸びるのか?」


「いえ、そういうわけではなくっすね。最近、妙に町のはずれにある古井戸から妙な気配がするという相談が相次いでるんすよ」


「この気配……殺気っ!?」


「どこのバトル漫画だよ。自重しろ。琥珀。でも、気配を感じるくらいならその古井戸に近づかなければいいんじゃないのか?」


「それがっすね。その古井戸に近づいてからというものの、その変な気配がまとわりついてくるような感覚がするらしくてっすね。体の重さが取れねーからどうにかしてくれってことなんすよね」


 ……それは病院の管轄のような気もするけど。



「警察に言われても困ったもんだとは思っているんすけどね。あまりにも訴えてくる件数が多いのでこちらとしても見過ごせないわけなんすよ。上はどうにかしろって言ってくるっすしね」


「で、僕に相談に来たと?」


「そういうことっす。榊先輩は神主さんですから、こういう心霊現象やお祓いごとには強いかと思った所存っす」


「報酬は出るのか?」


「もちろんっす。上に掛け合ってそこらへんの了承は得てるっす。なんせこの神社は昔からこういう関係のお仕事は金を取るって有名なんすよ」


 悪名高過ぎるだろ、禊神社。


 まあ、そのおかげで多少ふんだくっても文句は言われなさそうだ。クククク。



「オーライ。まあ、後輩の頼みだ。何とか出来たら何とかしてみるよ」

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