火竜のお腹の中
「お、この洞窟少し湿っているけど程よく柔らかくて座りごこちがいいな」
「そう? 私の所はベタベタして気持ち悪いけど」
それもそのはずです。二人が洞窟だと思って休んでいるのは実は火竜の口だったからです。つまり、火竜が大口を開けてのんびり昼寝をしている口の中にシンとティナが入ったってことになります。
「ん? なんじゃ?」
火竜は寝ぼけ眼で頭を持ち上げます。何しろ体長数十メートルある竜が首を持ち上げたのです。口の中にいるシンとティナは洞窟だと思っている口の中でごろごろ、ごろごろっと右へ左へと転がり回ります。
「ティナ! じ、地震だ!」
慌てふためいているシンの横で妙に冷静に転がっているティナがボソリとつぶやく。
「私たちが入ったのって洞窟じゃ無くて火竜の口だったんじゃない?」
「な、な、な、何だって!!!!」
シンは驚きのあまりその場でのたうち回ります。
「は、は、は、早く出ないと…………」
シンがドタバタ動き回ったのが余計にいけなかったのでしょうか。火竜はおもわず、
ゴクリ
と二人を飲み込んでしまいました。
「ティナ! ティナ! もしかして俺たち火竜の腹の中にいるのか!」
シンの大声がドームのようになっている火竜のお腹に響き渡る。
「うっさいなぁ。そんな大声でやいやい言わないでよ、耳が痛くなっちゃうわ」
「だってさ! 俺たち火竜に飲み込まれたんだぜ!」
「だから、うるさいって言っているでしょう。飲み込まれたしまったものはしょうがない。落ち着いて考えるのが一番よ」
「落ち着いてって……そんな……」
ティナはその辺にある適当な物を引っ張ってきてその上に腰を下ろします。
そんなティナを見ていっそう不安になったシンは意味もなく右往左往、バタバタして落ち着きが無い。
「こんな時にバタバタすると人間が出るわよ」
「そんなこと言ったって……」
シンは泣きそうになっている。
「あー、そういえば、あなた、さっきお腹空いたって言っていたわよね。ちょうどいいわ。ここで何か食べましょう」
「な、な、な、何、呑気なこと言ってんだよ!」
ティナはシンの言葉に耳を貸すこと無く手際よくシンの持っているバッグからサンドイッチと飲み物を二人分取り出し片方をシンに渡しもう一方を自分で食べ始める。
もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ
ゴクリ
もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ
ゴクリ
「こんな時によく食べ物が喉を通るな…………」
「こんな時だからこそしっかり食べてお腹に力を入れるんじゃない」
「そうか?」
「そうよ。大変な時にお腹をこわして力が出ない様だと困るじゃ…………」
話していたティナの口が止まり何かを考え始めました。そしてバッグから何かを取り出すとシンに半分渡して言います。