表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーロボティクス  作者: 岡田 浩光
9/22

第九話 サニーパール号にて

「うわー、なんだこれ」


 ロボの前には壁があった。そびえる様に立っている壁が。だが、実際はもっとすごいのだ。

 それは船だ。圧倒的な質量を持ってそこにある船はわずかな隙間もなく組立てられた木によって適切な浮力と重力の釣合を実現させ水の上に浮いている。正直浮いているのがありえない様に感じる。船嘴には女神の彫刻がされており帆にはネール王国の神獣とされているドラゴンが描かれている。

 その船はあらゆる装飾が調和を保っていてその威厳を余す所なく表現していた

 博士は自信に満ち溢れた顔でにやりと笑った。


「凄まじいであろう、これが王立工匠の技術の粋を結集させ作った高速船サニーパール号だ。その速さ、丈夫さ、快適さ、すべての要素が最高級なのだ」

「いやー何度見てもこれはすごいね。こんな物を作れる人間の可能性とやらに感心するよ」


 全くだとロボは思った。こんな物を作ってしまう王立工匠に自分の居場所はあるのだろうか。かなり心配になってくる。

 そんな不安を見透かしたかの様にサラがロボに話しかける。


「ロボ、そんな不安そうな顔をしちゃだめだよ。君はオイラーに認めてもらったんだからすぐに王立工匠で迎えいれてもらえるさ。それにね、驚き終わるのはまだ早いよ。みててごらん」


 そしてサラは二本の指を咥えピューっと口笛を高らかに響かせた。

 すると、船の前方の川がぐんぐんと盛り上がってきた。その持ち上げられた水の山はまるで巨大な卵の様だ。そして、その全長10メートルの水の卵が重力により割れてその水のベールから現れたのは。

 それは物語でしか語られた事のないドラゴンだ。深く蒼い鱗に覆われた長い首の先には立派な髭のある牙の並んだ口があり他の動物が持ちえない威厳があった。首から下は水の中にあり見えないが首から上だけでこれほど大きいと下半身はどうなっているのだろうと思う。


「ふふん、これこそ王立農学団自慢の水龍だよ。サニーパール号に負けず劣らず凄いでしょ」


 もはやロボには声を出す事すら出来なかった。村から一歩でただけでこんな空想の産物としか表現できない物を立て続けにみてしまってはまるで異世界だ。

 しかし、水龍を珍しがっているのはロボだけではなかった。水龍の登場に見物人がかなり集まってきている。少し博士はばつが悪そうだ。


「ふむ、調子に乗ってしまい見物人が集まってしまったな。もう、乗り込もう」

「はい」


 博士は急に急いで船へとつながるタラップを駆け上がった。それにロボも付いて行って上った。


 ***

 船内も素晴らしい趣向に凝らされていた。広々とした甲板にはしっかりしたマストが備えつけられ地べたに無造作に置かれているはずの樽やロープまでもなにかの規律に従っているかのように綺麗に存在している。船室もシンプルだが機能美に溢れたどこか上品さすら感じる家具が置いてあり居心地のよさそうな部屋であった。


「では、これから3日間王都に着くまでここで過ごしてもらう。まあ、船酔いでもしないかぎり快適だろうさ」


 まあ、その通りであろう。ここは村にある自分の部屋よりも豪華な物なのだ。むしろここに住みたいぐらいである。


「ありがとうございます。僕には勿体ないぐらいの部屋です」

「ロボ、上に来て。出航の準備を手伝ってほしいんだ」


 サラがロボに呼び掛ける。


「はい、今行きます」


 サラの声に従いロボは甲板に上がった。


「よし、じゃあ水龍とこの船を結びつけるからこの鎖をそこの突起に引っかけて」


 ロボは見たこともない程太い水龍に手綱の様に繋がれている鎖を言われた突起にしっかりと備えつけた。その間にサラは色々な所にロープを張ったり水龍の様子を見たりあわただしく動いていた。その動きは素早いが正確で船旅に慣れている事が容易に想像ができた。

 そんな感じで出航の準備を整えていった。

 そして遂に


「よし、準備が整ったね。そろそろ出発しようか。問題ないねロボ」

「ええ、勿論大丈夫です」


 ロボはやり残した事など本当になかった。


「いい返事だ。それじゃ、お立合い」


 そんな風にサラはおどけた調子で口笛を吹いた。その音は先ほど水龍を呼んだ音とは違い、もと長く、甲高く、真っ直ぐにのびのびと響き空に溶けていった。

 その音が消えるのと同時に水龍が一声鳴くと船は水龍に引かれてゆっくり進みだした。しかし、ゆっくり進んでいたのは最初の一瞬だけで船はぐんぐん加速しあまりの速さにロボは突風を受けて立っているのもやっとという感じになった。

 サラはそんな中、船首に操縦席の様にすわり風に首元ぐらいの髪をたなびかせていた。


「ヤッホー、ロボどうだい、サニーパールと水龍の走りっぷりは爽快だろ」


 とても気持ちよさそうにしている。ロボはなんとか周りの景色を見ると今朝まで乗っていたあんなに速く感じていた馬車とは比べものにならないくらいのスピードで後ろに遠ざかっていった。この川がこれほど広くなければこんなスピードはだせないだろう、狭かったらとっくの前に事故を起こしているだろう。


「二人ともお疲れ様。ごはんにしよう」


 博士が下からやってきた。


「おお、オイラーの手料理久しぶりだな。楽しみ」

「博士が作ってくれたんですか」

「ああ、こう見えてもなかなか料理は好きで結構自信があるんだ」


 にこやかに博士は言って手招きした。

 博士の作った料理は魚をメインディッシュにした船によく合った物だった。とてもおいしくロボは舌鼓を打った。


「んー、やっぱオイラーは料理が上手だね。とっても美味しいよ」

「本当においしいです。こんなに美味しい物食べた事ないですよ」

「ありがとう。さて、これからの話をしようか。まず、このまま川を真っ直ぐ下って王都に行くこれはサラ、君に舵はまかせる。そして、その間にロボには聞いてほしい話がある」

「話ってなんですか」

「ふむ、まあそれは長くなってしまうのだが。簡単に言えばこの船旅は堂々とした密航の様なものなのだ」


 ロボは堂々とした密航というのは語義矛盾を含んでいるようにしか思えなかった。


「それはどうゆう意味ですか」

「まず私はロボの村へ遺跡の調査という名目でいったのだ。遺跡とは知っての通り歯車の事だ。これは国に許可をもらっているので問題ない。王都に私が帰ってくるのも勿論問題ない。むしろ滞在しすぎたので早く帰ってきてほしいとせっつかれている。では、何が問題かと言うと、わかるかな」


 ロボは考えた。そして一つしか答えが思いつかなかったがそれは理解できない物だ。


「もしかして、僕の事ですか」


 博士はその答えにゆっくりとうなずいた。

 ロボは焦った。


「えっ、どうゆう事ですか。僕が王都に行くと何か不都合でもあるんですか」

「王都に行くと不都合というより君が私の手引きにより村から王都に移動したと知られる事が問題なのだ」


 ロボの頭の中はこんがらがってしまった。そもそも、王都に行こうと言ったのは博士である。問題があるのならなぜそんな事を言い出したのか。


「ロボ、今君は混乱しているだろうから一から説明する。まず、君が村で成功させたあの鋳型なしで剣を作るという行為は王都では暗黙の了解としてタブーだ。基本的に王都ではそんな事は思いついてもやらない」

「そんな、僕そんな事して良かったんですか」

「あくまで暗黙の了解なのだ。別に法律で禁止されているわけでもない。ただ、昔鋳型なしで物質を生み出すという研究を行っていたある研究者達が軒並み処罰されたのだ。なんの前触れもなしにだ。彼らは悪事など何もしていなかった。それ以来、王都のクリエイターはその行為をタブーとして自粛した」


 何て事をやらせるんだ。ロボはその話を聞いて少し憤った。


「まあ、ロボ私に言いたい事が山ほどあると思うがとりあえず私の話を聞いてくれ。私もその研究者の一人だったのだが運よく災難を逃れた。そしてその研究への情熱はまだ燃え続けている。そのために私は歯車を調べたのだ。あれは私の問いであり答えだ。君が毎日見に行っていた歯車は古代高度分明(オーパーツ)と呼ばれていてな」


 そして、博士はガウスに聞かせた話をロボにも聞かせた。ロボは頭が追いつかないのか呆けた顔をしていた。無理もなかった。自分の世界といえば村の中だけであった少年には話が大きすぎた。


「つまり、この研究が成功したならば我々クリエイターは物質創造という強大な力を手に入れられる。この力があればどんな事も可能になる。想像してみたまえ、自分の想像のままに物質を生み出せるのなら出来ない事などないだろう」


 博士は一人で盛り上がっていた。

 そこに、ぱんっと手を打ち合わせる乾いた音が響いた。


「はいはい、オイラーの夢と野望の話はおしまい。ロボを見てご覧よ全く話について行けてないよ。それにせっかくの料理が冷めちゃうよ」


 今まで黙っていたサラが話しに割り込んだ。語りに熱の入っていたオイラーは少し残念そうだったが一理あると思ったのだろう。


「そうだな、少し興奮してしまった様だ。とにかく、君が成功させた実験はクリエイターの未来がかかっていると言っても過言ではない。そして、この実験を恐れ私の仲間を処刑した魔法使い達に君の事を知られるわけにはいかないという事を理解してもらえたかな。とりあえずの実験の事に関しては私とサラと君の父親以外はしらない。この事を誰にも言ってはいけないよ。約束してくれ」

「わかりました、気を付けます」


 ロボは魚をつつきながら考えた。実験の危険性やクリエイターの未来などあまりぴんとこなかった。自分はなんとなく王都に行こうと考えてしまったのではないか。ここまで博士が自分に期待しているとは考えていなかった。自分が王都に行くことを考えたのは変えたかったからだ。今の現状を、停滞した人生を変えたかったからだ。だが、それは博士の夢に比べればとてつもなくちっぽけに見えた。


 ***


 夜。夜空には星が輝いて、月は真ん丸になって浮いている。その光を受けている水龍は昼の間走った疲れを癒すため今は寝ている。

 ロボは一人で甲板に立っていた。川は川とは思えないほど広く、周りには何もない。

 世界でたった一人だ。ロボはそんな風に感じた。

 でも、勿論そんな事はない。


「ロボどうしたの?眠れないのかい。疲れたろうから早く寝た方がいいよ」


 サラは船のヘリに座り水龍の様子を見ていたようだ。


「眠れないわけではないんですけどなんとなく外の景色をみたくて」

「ふーん」


 サラはそれほど気にしてないようだ。じっと、月光に照らされた水龍を見ている。


「ロボはなんで王都に行きたいの?オイラーに誘われたから」


 サラは何気なく聞いてきた。それこそ、明日の天気を聞いてるだけだと言わんばかりに。


「それもありますけど」

「けど?」

「自分を変えたかったんだと思います。さえない自分とか上手くいかない日々とかそんなちっぽけな理由だと思います」


 言っててロボは気恥ずかしくなってしまった。夜でよかったと思う。明るかったら自分の顔が真っ赤なのがばれてしまうから。

 自分はやはり不安に飲み込まれているのだろう。こんな事をあったばかりの人に話すなんて。

 サラはやっとロボの方を見た。


「それはほんとにちっぽけだね」


 暗闇ではっきりとは分からなかったがサラは微笑んだ様に思える。それはからかうつもりでもなくただそのままロボの言葉をうけとっただけのつぶやきであった。

 ロボは昼の騒がしい港町もよかったがこんな静かな夜の方が自分の性に合ってると思った。そういえば最後にメリーベルとしゃべったのもこんな静かな夜だった事を思い出した。


「だめですかね。やっぱ、王立工匠に入るなら世界を変えるぐらいの夢がないと」


 サラは考え込む様に指を唇に当てた。それは驚くほどに魅力的な仕草だった。


「ロボ、大きい小さいは相対的な問題なんだ。相対的って分かるよね。比べる事によって物事が規定されるということ。つまりねあなたの夢は小さいけどそれはオイラーの果てしなくおおきな夢と比べるとって言うこと。でもそれは仕方ないことだよ、あなたとオイラーでは背負ってるものも立場も違いすぎる。あなたの夢は小さいかもしれないけど身の丈にあったすばらしい夢だと思うよ」

「そう、ですかね」

「うん、もし君が大きくなってもっと大きな夢を見られる様になったなら」


 サラはにっこりと笑った。


「その時に世界でもなんでも変えてやればいいじゃない」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ