第二十二話 モーズリー工房
カルノーがロボを引き連れて来たところは王立工匠の敷地の外れにある工房であった。
「モーズリー工房」と無機質で愛想のない看板を立てているだけのなんの変哲のない小屋であった。
扉を開けて中に入ると所せましと見たこともない機械が置いてあった。黒光りするそれらの装置は無機質で堅牢で怪物のように鎮座していた。
一体これらの機械は何に使うものかとしげしげとロボが眺めていると
「おい、なにうろちょろしてるんだ。どこのガキだ」
いきなり怒られたロボは声の方を向くとそこには赤い髪にそばかすの目立つ少女が立っていた。歳はロボとあまり変わらないように見える。
「どうも初めましてロボって言います。今日はカルノーさんに紹介したい人がいると言われて」
「カルノーさんの知り合いか?一体何のようだ」
ロボの声を遮るように少女は喋った。かなり短気のようだ。
「作ってほしい物があるんだ。ところでこの機械って何するものなの?」
「なんでお前にいちいち講釈たれなきゃいけないんだ。まあ、まえ来た変な奴の仲間じゃなさそうだ。あんまりそのへんいじんなよ」
「変な奴?」
変な奴とは誰だろうと思ったが機械の事も教えてもらえそうになかったし聞く気にはなれなかった。
「おい、何してんだこっちこい」
カルノーがロボを呼んでいる。慌ててロボはカルノーの方に向かった。
カルノーはあまり手入れの行き届いていない髭を蓄えた老人と話し合っていた。
「モーズリーさん、どうもご無沙汰しています」
「何の用だ」
どうやらこの男性がこの工房の長であるモーズリーのようだ。カルノーの丁寧な挨拶よりも加工した金属片の方が気になるようだ。かなり偏屈な人なのだろう。
そんなモーズリーの対応もカルノーは予想できていたようで気にした様子もなく続けた。
「加工をお願いしたいものがありまして。私達の手には少し余ってしまって」
「図面を見せろ」
カルノーが目で促してきたのでロボは慌てて自分の持っていた図面をモーズリーに渡した。モーズリーはそれをじっくり眺めた後、にやりと笑った。
「おいおい、カルノーの坊ちゃん。オーパーツの劣化版でも作って政府に喧嘩でもふっかけるつもりか?」
「私が作りたいわけじゃないんです。こちらのロボからの依頼です。それにそれはオーパーツの形状を模倣しただけですから」
「そんな言い訳が通じるかね」
呟きながらモーズリーはじっと図面を見ている。
「これは結構やっかいだな」
「難しいですか?」
問うロボにじろりとモーズリーが視線を移す。
「ああ、難しいな。まあ、もちろん手はなくはないがな」
モーズリーは顎に手を当て少し考えた後
「おい、アンナいるか?こい」
「はい!」
先程の女の子が元気に返事してやってきた。
「これ見てみろ」
モーズリーは無造作に図面を女の子に渡した。彼女もまたそれを無造作に受け取る。
「何ですかこれ?」
「お前これ作ってみろ」
「えっ」
ロボとカルノーと女の子は同時に言った。
「モーズリーさん失礼ですが彼女は?」
「俺の弟子のアンナだ。腕はまだまだだが」
モーズリーはにやりと笑い続けた。
「こいつで十分だろ」




