第十八話 学校見学
ロボはカルノーと共にヴァンスレイン騎士学校に到着した。聞いた話では王都でもかなり有名な学校らしい。
どうやらそれは本当のようだ。
前に行った王立工業学校も大きいと思っていたがこの騎士学校は比べものにならなかった。広さは三倍はあるだろうか、そして、校舎などの施設も真新しいかのように綺麗でそびえたっている。
やはり、この国を支配するのは戦士と魔法使いのようだ。きっとこんな学校があと何校もあるのだろう。
「ロボ、感銘を受けているとこ悪いがさっさと行くぞ。学長が待ってる」
そういうとカルノーはさしたる感慨もなくすたすたと歩き出してしまった。ここに何回も来たことがあるのだろう。
ロボは少し気になっていたことを聞いた。
「あのー、よくは知らないんですが普通こうゆう高級な施設は魔法使いの管轄なんじゃないんですかね、なんでクリエイターに仕事を依頼してきたんですか?」
「ああ、その通りだ。普通はちょっとした施設だって俺達には指一本触れさせねえのが貴族ってもんだが、ここは違う。とゆうか、唯一の例外と言っていいな。ヴァンスレイン騎士学校は王都では珍しい完全な実力主義の学校なんだ、優秀なら貴族だろうが平民だろうが誰でも受け入れる。また逆に劣等生なら王族だろうが受け入れない、それがヴァンスレイン騎士学校だ。その考えは経営方針にも現れている。安く、しっかり機能するなら相手がクリエイターだろうがその商品を買う。まあ、正直俺たちクリエイターにとったらとんでもなくありがたい商売相手ってわけだ。だから、設備の点検だけで王立工匠が動くってわけだ」
そんな所もあるのだなとロボは驚いた。
ふと、メリーベルならこんな学校に感動してきっと入学したいと思うだろう。そういえば忙しくて忘れていたがメリーベルが手紙を送ってくれる前に王都に来てしまったので彼女がどこの学校に通っているか全くわからない。
もしかしたら、父さんが自分の事をメリーベルに伝えてくれているかもしれない、そうすればいつか分かるかもしれないな。
そんな事をかんがえていると校舎に入るための扉の所に来た。
その扉は一風変わっていた。どうゆうわけだか取っ手がついてないのだ、なかなか大きな扉なのでこれでは開けられない。
しかし、カルノーはお構いなしに進んでいく、ロボはどうするのか後ろから眺めていた。
すると、何が起こったのかカルノーが扉の前に立つと扉が独りでに開いたのだ。
ロボは誰かいたのかと扉の向こうに目を凝らしたがやはり誰もいない。
一体どうゆう事なのだ。
カルノーはそんなロボをやれやれという感じで見た。どうやらロボのこのような反応は予測できていたのだろう。
「ロボいちいちそんな驚くな、こんなの魔法を使えば朝飯前だ。自動ドアなんかで驚いてたら一級品の魔法具なんてみたら心臓発作起こすぞ」
その言葉でロボはオイラー博士が持っていたいくらでも入る鞄を思い出した。確かにあれの方がすさまじい物ではあったが、こんな普通のドアにも魔法が使われていることにも驚きであった。
きっと校内も魔法を使った不可思議な物で一杯なのだろう。ドアぐらい自分で開ければ済む話なのにわざわざ魔法で開けているぐらいなのだから。
そんないきなりロボの度胆を抜いたドアの先には上品ではあるが豪奢な内装に彩られた校内であった。
廊下には紅い絨毯がしかれ、綺麗なガラスの窓から入る日光で輝くような調度品が光っている。各教室も広く机一つとっても気が行き届いているように見える。
その雰囲気に圧倒されながらロボはカルノーについていくと目的の部屋にたどりついたようである。
二、三度軽くノックすると中からどうぞという声が聞こえた。失礼しますといいカルノーが中に入る。
中には白髪が混じった初老ほどに見える男性がいた。初老に見えるとは言ってもそこには弱弱しさなどなく今だに鍛えているのだろうしっかりとしたがたいと年齢からくる落ち着きと知性を兼ね備えていた。
「どうも、空調設備の調子が悪いと聞きまして点検に来ました」
「やあ、どうもどうもカルノーさんよく来てくださった。いやあ、そうなんです。いくつか動かないへやがありましてな。ん、ところで、その少年は?」
男性は気品のある動作で尋ねた。ロボはなぜだか緊張してしまった。
カルノーが代わりにロボの紹介をしてくれた。
「ああ、こちらはロボっていいます。まあ、そうですね工房における弟子のようなものです。今日はいい経験になると思って手伝いもかねて連れてきたんです」
男性は少々驚いたようだ。
「ほほう、王立工匠は弟子という制度はないと記憶しているのだが、方針を変えたのかね」
「ロボは特別ですよ」
カルノーはほとんど説明になっていないような返しをした。これはロボの出自をあまり詮索されたくないという意思表示に思える。相手もそれを理解したのか特に何も聞いては来なかった。しかし、その目は茫洋としているが鋭く物事の本質を見抜く目をしていた。
「なるほど。初めましてロボ、私はこのヴァンスレイン騎士学校の学長、フーリガン・ゾンテだ、よろしく。この学校はこの国でもあまりない魔法と科学が共存している場所だ。いい勉強になるだろう。職員の邪魔にならなければ自由に見て回って結構だしっかり学びなさい」
ロボはこの人がこの学校の長と聞いてここに来てから何度目かもうわからない衝撃を受けた。これほど、えらい立場にあるのにこの見るからに平民で下っ端の少年にも礼儀を怠らない姿にロボは彼の優しさというより誰にも隙を見せない様な厳しさを失礼ながら感じてしまった。
「ありがとうございます」
ロボはそれを言うだけで精いっぱいだった。
「お心遣いありがとうございます。それでは、パイプの点検から始めたいと思います。ロボいくぞ」
「は、はい」
カルノーは足早に行こうとした。意外だがカルノーもフーリガン学長から得もいえぬプレッシャーを感じていたのかもしれない。
学長はにこやかにゆっくりとよろしくお願いしますと言った。
***
「カルノーさん僕は何をすればいいですか?」
ロボはカルノーに聞いた。カルノーに思いつきのようにこの連れてこられたのでこれから点検するらしいパイプが何かもよく分かってない。
カルノーがそれを聞いてああ、そういえばみたいな顔をした。
「そうだなー、正直お前に出来る事はないし、俺一人で仕事は十分だ。よし、学長の許しは得たしロボこの学校の設備、特に魔法使いがらみの奴を見て回ってこい。俺たちは魔法使いに何が負けていて何が勝っているのかそれを肌で感じてこい」
カルノーは正直最初からロボに仕事を頼む気はなかったのだろう。
ロボも魔法には興味があったので願ったりかなったりである。
「わかりました。ありがとうございます」
「そうだな、二時間ぐらいしたらさっきの学長室の前にこい。そのぐらいには俺の方も終わってるだろ」
そう言ってロボはカルノーと別々の方へと向かった。
***
ロボは騎士学校の中を歩き回っていた。
意識的にみるとこの学校はいたる所に魔法の技術が使われていた。
目立つ部分では明かりが魔法の産物であった。王都に来る前によったトレモンにあった街灯と同じ原理だろう。蝋燭などの光と違って均質で安定した光を放つ光球が外観を害さないように浮いていた。こういった物は簡単に作れるのだろうか。そうだとしたらクリエイターの作る光なんて使われる余地がない気がする。
こうして、校内を歩き回ると王立工匠の内部からは魔法というものは意図的に排除されているのだろう、魔法関係の物はオイラー博士が持っていたあの鞄ぐらいしか見たことがないのだから。
それは魔法使いに対する敵対心なのかそれとも魔法使いとの折り合いが悪くて導入できないだけなのか。おそらく両方とも理由だろうが主な理由は前者の理由な気がする。王立工匠の人間で魔法使いに対して良い感情を持っている人なんて見たことがない。
ここに連れてきてもらったのは本当にカルノーさんに感謝すべきだろう、実際に魔法が日常に溶け込んでいる現場を見る事は色々と考えさせられた。
やがてロボは集会にでも使うのであろう大広間に続く階段に辿り着いた。その階段は紅い絨毯が敷き詰めてあり、金の糸の見事な刺繍がほどこされていて大広間の荘厳な空気にぴたりとはまっている。そのあまりに美しい造りよりもロボが驚いた機構がある。なんとこの階段、各段が次々と勝手に上に向かって動いているのだ。これによって自ら階段を上っていく必要がなく階段が上まで運んでいってくれるんだろう。
こんな事をしなくても足を使って上がればいいじゃなかと思うけど人間というものはどこまでも楽を求めて技術を贅沢に投入するものらしい。
ロボはなんとか魔法の仕組みが分からないかしげしげとその自動階段を眺めていると
「おい君そこで何をしているんだい?」
急に声をかけられた。
後ろを振り向くとそこには白いシャツと黒いズボンという一応礼儀はわきまえようとしているがそこまでかっちり着込みたくないというような格好の男がいた。
男は輝くような金髪でどこまでも澄み切った青い瞳だった。貴族の見本のような顔だがなにより彼が貴族であると思わせるのは彼の腰に差してある剣だろう。それはロボがみたどんな剣よりも立派なものであった。白に金で装飾を施している礼装用かと思われるような鞘に納まっているので刃は見えないが相当の業物だと推定できる。
「僕は王立工匠から空調設備を修理にきたカルノーさんの助手です」
「へー、王立工匠から。そりゃご苦労さん。あれでも君一人なの?」
「はい、僕初めてこの学校に来たので少し中を見せてもらっているんです」
「なるほど、なるほど。で、今はこの階段を見てたのかい?これってどうなの、王立工匠の目から見て。これ僕がここの生徒の時からあるからもう見飽きちゃってるんだよね。どう?すごい?」
ロボはこんなにくだけた感じで話しかけてくる貴族に初めて会った。ここには普通とは違う貴族しかいないのか。
「そうですね、すごいと思います。ただ」
そこでロボは口をつぐんだ。変な事を言ったら貴族を怒らせてしまうかもしれない。
しかし、彼は見逃さなかった。
「ただ、何?何か問題でもあるの?」
ロボは仕方なく言った。なんとなくあてつける気持ちがあったのかもしれない。
「こんな階段を作れる技術があるならこんな普通に歩けば登れる所に作っても仕方ない気がするんですよ。どうせなら、歩いてはいけない場所、例えば」
そこで宇宙と言いそうになってあわてて口をつぐんだ。これは貴族にはまずい言葉だ。
貴族はにやりと笑った。まるでロボの心を見透かしたかのように。
「ははは、なるほどいいねそれ。面白いね君。そうか、それもそうだよなこんな短い自動階段を作っても仕方ないよな。くくく」
なにがそんな面白かったのか貴族はお腹を抱えて笑っている。
「うん、君のこと気に入った。この学校を案内してあげるよ。僕と一緒ならどこでも歩きまわれるよ」
「はあ」
正直ロボは一人で回っていたかったがそんな意見は通る雰囲気じゃない。
「あ、そういえばまだ名乗ってなかったね。ごめん、ごめん」
そう言って貴族はこれでもかと不敵に笑い大胆に胸を張って名乗った。
「僕の名前はキース・オルドレート。以後よろしく」




