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ファンタジーロボティクス  作者: 岡田 浩光
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第十五話 オイラーの報告書

「やあ、久しぶりだね。元気にしていたかい?私はあっちに行ったりこっちに行ったりで世界の果てから果てまで旅してきたみたいだよ」


 オイラー博士の部屋に入ったロボはそれほど長い間というわけでもないのに何だか何年も会わなかったかのような気持ちになった。それだけ、この王都で過ごした時間は濃密でロボにとって驚きの日々であったのだ。


「お久しぶりです。ええ、元気で過ごしていました。カルノーさんには怒られてばっかでしたけど」


 ロボがそう言うと博士は満足そうに頷いた。


「はは、そうか。まあ、彼の仕事は怒ることみたいなものだ。きっと、君を成長させてくれただろう」


 そう話す博士はロボの目から見ると、とても疲労しているように見えた。いつものように綺麗で格好の良いスーツに身を包んでいるが顔色は悪かった、それほど旅はハードなものだったのだろうか。

 そこまでした目的は何なのだろうか。


「博士疲れてませんか?また、後日にここに来させてもらいますから、今日は休んだ方がいいですよ」


 博士は自嘲気味に力なく笑った。


「そうか、君の目から見ても明らかなほど私は疲れているか。いや何、心配はいらない。ちょっと張り切りすぎただけだ。そんな事よりも一刻も早く君に渡したい物があってね」


 博士は言うが早いか鞄から紙の束を取り出した。なにかの書類のようだ。ぱっと見ただけでその紙にはびっしり文字が書かれていた。

 博士の整った綺麗な字で書かれたそれを博士はロボに手渡した。


「それは私の旅の成果といっていい。古代高度文明の話はしたな。それは歯車だけでなく世界各地に存在するオーパーツを詳しくまとめた物だ。恐らく、魔法使いも目を光らせているからな彼らに封鎖される前に出来るだけ調べておきたかったのだ」


 それを聞いてロボは思わず書類に目を落とした。

 その中身は歯車だけでなくまだ正体すら掴めていない摩訶不思議な物体の詳しい図解や写真などが張ってある。ぱっと見た限りだと何の変哲のない棒であったり、少し大きな箱にしか見えない物も多かったがロボにはこれが尋常の物でないことは写真からでも容易に想像がついた。

 ロボは吐息のように思わず


「すごい」


 そう呟いていた。

 博士はそれを聞き少し元気になったようだ。


「うむ、だがそのすごさを理解してくれる研究員は君ぐらいか。いやあと一人いたかな。とにかく、ここの研究員はオーパーツなんて古代の異物には興味を持ってくれないんだ。まあ、あの事件を知っていれば無理もないが」


 博士は一人ごとのようにつぶやいた。博士といえどもこの問題に対して他の研究員には強くはでれないのだろう。

 やれば睨まれ、解に到達すれば殺されてしまう、そんな研究。

 それでも、果敢に真実を求める博士にロボは一層深い尊敬を抱いた。ロボは後ろ髪を引かれながら書類を博士に返そうとした。

 すると


「いや、返さなくていい。実は今日君を呼んだのはこのためだ。それを渡そうと思っていたのだ」


 ロボの驚きの表情を見て、博士はその顔が見たかったかの様に微笑んだ。


「もちろん、君がそれを重たい荷物と考えるのなら別に返してもらってもかまわん。君が選びなさい」

「ぜひ、ください」


 ロボは間髪いれずに答えた。博士が書いたオーパーツの報告書。そんな物見ないなんて選択肢はない。

 博士はロボの答えにますます満足したようだ。


「よろしい、ではじっくり読むといい。だが、あまり見せびらかさない事をお勧めしよう。ところで、ロボ。君は最近どんな事をして過ごしているのかい?教えてくれ」

「えっ、はい。まあ、そんな大した事はしていませんけど。今はカルノーさんに頼まれた資料の整理や雑用をやってますね。あと、個人的には計算機を作ってみたいなと思ってますがあんまり上手くはいってないですね」


 それを聞いて博士はにわかに興奮し始めた。


「ほう、計算機か。しかし、なぜ計算機を作ろうと思ったのかな。カルノーに任せられた計算が大変だったのかい?」


 ロボはライトとの事を博士に話した。そして、宇宙の研究は魔法使いにとって禁忌であるので行き詰ってしまった事を話した。

 オイラーはなるほどとつぶやいた。


「君がそれを聞いて宇宙について消極的になるのも無理からぬ事だが、私は別に気にすることではないと思うぞ。魔法使いの禁忌であって、クリエイターの禁忌ではないからな。しかし、君は魔法使いに喧嘩を売る宿命を背負っているようだな。全く小気味良い」


 そんな事を他人事のよう言うが村での実験は博士の策略といって差し支えないとロボは思っていた。

 博士は続ける。


「まあ、計算機で行き詰っているという事だが。そういう時は色々な知識を仕入れてみる事だな。一体どこに活路があるかなんてわからないからな」


 博士はにやりと不敵な笑みを浮かべた。その顔を見てロボは博士はすでに答えを見つけたのだろうと確信した。

 そして、それをロボには教えてはくれないだろう事も。


「ありがとうございます。色々考えてみます」

「うむ、もし計算機が出来たら私にもぜひ見せてくれ」

「はい、約束します」

「約束だよ。ああ、しかし疲れたな。少し休むとしよう。それではな、また会おう」

「はい、お疲れさまです」


 簡単に挨拶を済ますと博士の部屋から出た。あまり長いすると博士の体調に悪い。

 それに、この資料にもゆっくり目を通したかった。


 ***


 ロボは王立工匠に割り与えてもらった自分の部屋に戻ってきた。基本的に図書館や研究室にいるのでここには寝るぐらいしか使ってないので生活感というものがまるでない部屋だ。

 机とベッドと箪笥しかない部屋で机に座り、資料を広げる。

 その内容はロボも良く知る歯車を含め六種類のオーパーツについて書かれていた。


 歯車、軸、エンジン、モーター、バッテリー、爆破場


 これらがオーパーツの名称だ。見た目ではよく分からない物は地名にちなんで名づけられたらしい。

 最初のページに以上五つのオーパーツの簡単な説明が載ってある。


 歯車

 オーパーツでは珍しい対で発見された物である。その見た目から歯車と呼ばれている(詳しくは歯車の項を参照)。対で発見された事から組み合わせて使う物と推測される。


 エンジン

 エージ地方で発見される。非常に複雑な機構が見られる。いくつかの管があることから排気と吸気を行っていたのではないかと推測される。内部の構造も見てみたいがミスリル*1によって作られているので今の技術では解体は不可能である。


 モーター

 モタ地方で発見される。破損が激しく元の形はまだよくわかっていない。しかし、一部に強力な磁石が付いておりそれだけしかこれが何であるかを判別する材料がない。磁石の利用については王立工匠での研究に期待するしかない。


 バッテリー

 バッテ地方で発見される。箱状のオーパーツ。蓋があり中を確認することができる。内部の面には付着物が付いており(何かの薬品と考えられる)、蓋には二本の棒が付いておりこれらを薬品に浸していたのではないかと推測される。


 爆破場

 発見されたオーパーツの中では最大の物。物というよりはもはや場所である。目的は分からないが何かを爆破させた後の様に考えられる。何かの儀式でも行われていたのだろうか。

 なお、この爆破場のあった地域の住人はここを危険な場所と考えており。言い伝えではここに足を踏み入れた者は髪が抜け吐血して死んでしまう呪いがかかると伝えられている。


 注釈

 *1ミスリル:オーパーツに使われている未知の物質の総称。バッテリーの付着物も今だ正体が分からないのでミスリルと言える。


 ロボは驚いた。こんなにオーパーツの種類があるとは思ってなかったのだ。各オーパーツの項を見るとさらに詳細な情報が書かれていた。恐らく、今現時点で判明している事は全てかいてあるのだろう。

 ロボは博士がこんな貴重な資料を自分にくれた事が嬉しかった。オーパーツを研究している者にとっては(そんな者はいないだろうが)宝物であろう。

 とりあえず、ロボは歯車の箇所を見てみた。そこには、自分がオイラー博士と撮った写真があった。他にも様々な測定結果を図解で鮮明に書いてある。

 この報告書によると博士は歯車を歯によって噛み合わせる事で使うという仮説で論を進めているのが分かる。

 歯と歯を噛み合わせるために必要な幾何学的要素を丁寧に導出し、それに実際の歯車が一致しているとして仮説を補強しているのだ。カルノーに色々な資料をまとめさせられたおかげでロボは複雑な数式も抵抗なく読むことができた。

 オイラーは歯車は回転運動の伝達と回転速度の減速、加速に使えると資料の中で指摘している。確かに、歯車の半径を調整することで回転速度を変えられる。

 ロボは博士の論理的な大胆ではあるが決して飛躍しない論の進め方に感銘をうけ、まるで物語を読んでいるような余韻を感じた。

 加減速機として歯車を使ったら何に使えるだろうか。というより、古代の人は歯車を何に使用していたのだろう。

 博士の予想通りなのだろうか、それとも自分達には予想もできないような使い方をしていたのだろうか。

 その時、博士に計算機の事を行った時の事を思い出した。何が活路になるか分からない。それはつまりこの中に何か答えがあるということなのかもしれない。


「そうか」


 ロボは雷に打たれたかのようにひらめいた。歯車の回転速度の違いを利用して十進法を表現すればいいのではないか。十対一の回転速度を持つ歯車を用意することで後はそれを決められた回数回す機構を作ればいいのだ。

 やはり、自分を導いてくれるのはいつもオイラー博士だ。

 暗い夜道を照らす月明かりの様に。

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