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はじめての中二病  作者: 泉
7/7

Act-7 宮原先生



 転校して1週間も経つ頃にはクラスメイト達ともずいぶん打ち解けることができた。

 その最たる存在と言えば俺の前の席の住人、中根聡である。


「悠介くんはサッカー上手いんだね」


「前の中学じゃサッカー部とか色んな運動部に混ざって体動かしてたからな」


 3限目の体育が終わり、聡と並んで校庭をたらたら歩いて横断する。


「そんなことして平気だったの?」


「部の奴らは概ね歓迎してくれてたよ」


 ただし顧問に見つかればお説教は免れない。ほとんど見つかったことはないけど。


「赤城!」


 昇降口でジャージ姿の堤に出くわした。次は堤のクラスが体育か。


「お前、何点取った?」


「2試合で3点」


「じゃあ俺は4点以上取ってやる!」


「おー、頑張れ」


 気のない返事で堤を送り出してやり過ごす。


「よく堤くんに勝負を挑まれてるのは何で?」


「その理由は俺が知りたい」


 直接尋ねてみたりしたがはっきりした返答は得られなかった。

 とりあえず俺に勝負事で勝てれば良いらしい。


 勝って満足するならわざと負け続けている内に飽きてくれないだろうか。


「そういや次の授業ってなんだっけ?」


「理科だよ」


「あー、先週はずっと自習だったな。先生が研修に行ってるとかで」


「宮原先生っていうんだけどね。生物学界では結構有名な人らしいよ」


「ふーん」


 なんでそんな人がこんな普通の公立中学で教師やってんの?

 別に中学教師を否定してるわけじゃないけどさ。


 でもまあ何やらすごい先生みたいだし、おろしろい授業が期待できるかもしれねーな。





◇◇◇◇◇





「静かにしろ、クソガキ共」


 で、期待した結果がこれだ。帰りたい。


 2年3組の教室から理科室へと場所を移しての授業。

 理科室に入ってきた宮原先生の第一声は不機嫌そうな罵倒だった。


 恐らく四十代で細身、痩けた頬には無精髭の男性。

 どちらかというと教師ってよりは博士とか研究職の人っぽい見た目だった。


「じゃあ授業を始めるが、その前に新顔がいるそうだな」


 宮原先生が理科室を見渡す。

 視線が右から左へ、左から右へ。それを3往復ほど繰り返して宮原先生がこう漏らした。


「…………どいつだ?」


 どうやら生徒の顔を覚えていないらしい。

 仕方ないので自分から名乗り出る。


「新顔が転校生を指してるなら俺ですけど」


「お前、名前は?」


「赤城悠介です」


「じゃあ赤城、好きな塩基配列の順列はなんだ?」


 あるかよんなもん!考えたことすらねぇ!


「……強いて言うなら“ナンセンス”なんて名付けられた終止コドンは不遇だな、と思わなくもないです」


「ほう。だがなフレームシフト突然変異において終止コドンが……」


 俺が苦し紛れに絞り出した返答に宮原先生が食い付いた。

 そして入ってきた時に比べて若干血色の良くなった顔でシークエンスについて語り出す。


 当然そんな専門的な話についていける生徒がいるはずもない。


 しかし宮原先生はそんな生徒達を置き去りにして語り続ける。

 完全に自分の世界に突入していた。


「――と、そうだ赤城」


「なんすか……?」


 逆に端から見た俺はちょっと窶れてる気がするが。空腹と頭痛のダブルパンチで軽い目眩を覚える。

 そんな俺に追い討ちをかけたのは他ならぬ宮原先生だ。


「お前は見所がありそうだ。特別にこの研究資料を拝見させてやろう」


 宮原先生が教壇の下部の収納スペースから大量の紙の束を取り出した。

 もう嫌な予感しかしない。


「この分厚いレポート用紙の束は?」


「俺が独自に考えたキメラの塩基配列だ。なに、データはすでに媒体に移している。持ち出しに関しては心配するな」


 誰もそんな心配はしねぇよ。むしろお前の頭の方が心配だ。

 キメラの塩基配列を独自に考えたって要するにそれただの妄想じゃねーか。


 そんなもんにどれだけの時間を費やしてんだよ。レポート用紙を全部重ねたら標高50センチはありそうなんだけど。

 この男、頭は良いかもしれないが、間違いなくバカだ。


「じゃあ続きはまたの機会にして授業を始める」


 またの機会が一生訪れないことを祈る。


「すごいね、赤城くん」


「何が?」


 レポート用紙の束は譲り受け、これをどうやって堤に運ばせようか思案しながら丸イスに着席した俺へ、梓ちゃんがそんな言葉をかけてくる。


「宮原先生ってかなり気難しい人で有名なんだ。なのに初対面で気に入られちゃうなんて」


「う、嬉しくねぇ……」


 そしてあれは気難しいとはまた別方向の問題じゃないか?


「むしろ先生に気に入られたってのにまったく得した感がない方がすげーよ」


 脱力感に苛まれ力なく項垂れる俺を見て、梓ちゃんは控え目にくすくすと笑う。

 その仕草もまた可愛いなちくしょう。




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