Act-1 転校生
転校初日。
今日から所属することになる2年3組の教室。
その扉の前で俺は自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「今日はなんと転校生が来てまーす!」
担任の言葉に教室内の空気がざわめくのが扉越しでも伝わってきた。
「赤城くん、入って来てー」
ガラ。
扉を開けて教室に足を踏み入る。クラス中の視線を集めながら教壇に立って頭を下げた。
「横浜から転校してきた赤城悠介です。よろしくお願いします」
無難な挨拶を済ませてクラスを見渡す。
パチパチパチ。
拍手の音に迎えられてほっと胸を撫で下ろす。
「――見付けた」
「ん?」
拍手の合間を縫って届いた声の方に目を向ける。
男子は学ラン、女子はセーラーの制服を着込んだ約三十人のクラスメイト。
その中に周囲とは明らかに違った出で立ちと雰囲気の少女が一人。
メイドがつけてるようなレースのカチューシャ、左目に眼帯、スカートや袖口にあしらわれた純白のフリル、両手首には包帯のように巻かれた真っ赤なリボン、そしてその腕に抱かれたウサギのぬいぐるみ。
眼帯少女の視線は俺を捉えて逸らされることがない。
なんだアイツ?
「赤城くんの席はあそこね」
「あ、はい……」
クラスに紛れた異形の者を極力視界に入れないように、担任に指示された席に座る。
「はじめまして赤城くん」
「ああ、はじめまして」
隣の席の女の子が気さくに話しかけてくる。
笑顔が似合う可愛らしい子だ。
「わたしは田村梓。お隣さん同士よろしくね?」
「こちらこそよろしく」
とても人当たりの良さそうな子だ。
未知の物体Xについて何か聞けるかもしれない。
「ねえ田村さん」
「梓ちゃんでいいよ?」
「ねえ梓ちゃん」
「あはは、男の子で素直に返されたのは初めてだよ」
「実は女の子だからな」
「ええっ、男装少女!?」
ざわっ。
『赤城くんって女の子なの?』
『マジで?そう言われれば確かに女顔のような……』
『うっそー。なんで男の子の格好してるの?』
ひそひそひそひそ。
「みなさーん、冗談ですよー」
『あえて否定した』
『怪しいな』
『もしかして本当に……』
ひそひそひそひそひそひそ。
「はいはい、静かにしてください。赤城さんもですよ」
「先生!敬称をさりげなく『くん』から『さん』に変更しないでください!」
このクラスのノリは何なんだ。