償いの日々
死を覚悟した日から、休日は外食していたのをやめて恋人と一緒に自炊する事にしている、恋人の好きな物だけを、休日には一緒に作る
恋は盲目と言うが恋人はとても綺麗な顔立ちをしている、優しくて穏やかな性格で、自分がいなくなった後もすぐに誰か優しい人を見つけて不自由はしないとは思うが、料理をしない恋人が、せめて好きな物だけは自分で作れる様に、自然とレシピを覚える様にする為だ
同棲という物を自分は初めて経験した、こんなに楽しくて幸せな毎日だとは思ってもみなかった、自分は少し神経質に怖がりな所があり、夜道や家の中にいても夜が怖かったが、それも解消された
何をするにも二人で考え一緒に決める、おうちに帰れば好きな人と過ごせる安心感、少し束縛が過ぎるきらいも恋人にはあるが、それも自分にとっては愛されている証拠と、嬉しく思える
自分がいなくなった後の恋人の事を考える、寂しがり屋なあの人は、すぐにまた違う誰かを探すのだろうか、それとも破局となった原因に悩み、しばらくは落ち込むのだろうか
今自分が受けている優しさが他の誰かに向けられる事を思うとやりきれなくなる、ずっとそばにいて、向けられる優しさに精一杯応えて行きたかった
恋人と自分は、いつか結婚する約束をしている、それは妊娠がわかる以前からの約束で、結婚でなくても一生一緒にいると、恋人は私に誓っていた
付き合っている間の約束事など別れてしまえば何の役にもたたない事はわかっている、こちらが破棄する前に、恋人が自分を捨てるかもしれない
恋人は今、自分の事をどう思っているだろう、自分はあの人の子供を殺した女だ、最後の最後まで説得したにも関わらず、その申し出を受け入れずに信じなかった女なのだ
産めなかった理由は恋人にもあった、お互いにお互いの事情があり、自分は自分の事情だけを一人で乗り越え、恋人の事情が解決するのを、子供を産みながら信じて待つ事ができなかった
もちろん恋人は自分を責めない、ずっとずっと、初めて出逢った頃から変わらず優しさをくれる、だけどそれは、中絶したとはいえまだ不充分な状態で妊娠させてしまったと、責任を感じているだけなのかも知れない
今の幸せから一転、一人病魔に襲われながら死を待つ事になる自分の未来を想像したら、自分は狂ってしまうのではないかとさえ、思う
それほど好きになった大切な恋人の未来を出来るだけ心配のない物にするのも、自分の身辺整理の1つだ、服やアクセサリーなども、もう一切買わなくなった、働ける間に働いて、予想される寿命分の生活費の貯金と恋人との別れかたを、病気が進行しきってしまう前に準備しなくてはならない
償うべき人相手は二人いる、あの子には死を以て償う、そして恋人には…
恋人には、出来うる限りの誠意と優しさで、償いたい




