終章 ~エピローグ~
「行ってらっしゃい」
キスをして送り出す、自分達は晴れて結婚し、2年が経った
「行ってくるね」と自分を抱き寄せ、自分の顔下辺りに抱かれている小さな頭を撫でてあの人は仕事に出掛ける
自分達は結婚後間もなくして、子供を授かった、ずっと子供を産む事に抵抗があり作らない方向に気持ちは向いていたが、欲しい気持ちも勿論あり、妊娠がわかった時には泣ける程嬉しかった
今度こそ必ず無事にこの世に迎え出す、お腹に預かった我が子を少し神経質が過ぎる程、大切に守った
子供が苦手だった自分は我が子と触れ合ってからも変わらず、子供が苦手だ、どうしていいかわからず、朝夜問わず盛大に泣きあげる我が子に、全ての体力を奪われた
泣かないでと抱きしめながら、泣き声にあの日の事を思い出す、痛かったろう、辛かっただろう、子供の泣き声は未だに自分を暗闇に引きずり込むが、子供の笑顔は心から、自分をしっかりしろと持ち上げてくれる
自分は見た、初診の日、お腹の中で眠る我が子の姿を
もう人の形がわかっていて頭を下に、腕と足を曲げる様に縮こまって見えた
胎児としての正しい姿だったが自分には、医者と自分の会話を聞いて怖がっている様にしか見えなかった
あの姿は絶対に忘れない、最初で最後のあの子の姿だった
自分は自分自身の中で、償う事を強くなる事とした、困難があっても逃げず弱音は胸に押し留める、どんな辛い事も、受けとめ、泣きながらでもとにかく最後まで努力する
弱かった自分はまだ今でも充分に弱いが、もう二度と命を投げ出す事はしないだろう、投げ出す事は償う事さえ、放棄する事になる
あの人への償いも忘れない、忘れなくとも自分は自然に、幸せな姿を見せられるのだが
あの時のあの人からの償いの要求が、プロポーズだった、自分は承諾したのだから生涯約束を守り抜く
あの人にそっくりなあどけない顔で自分を見つめる我が子をソファーに座らせ自分は床に座る
「パパにそっくりで、本当にかわいいね」
頬に触れると、本当にこの世の物とは思えない幸福さで笑ってくれる
幸せは次なる困難の姿をより一層困難に思わせる、そう思って自分は、幸せも素直に受け入れる様になった、困難ばかりを受け入れていたら、それが当たり前となって困難とは思えなくなる
こうして自分は、幸せと償いを自分の中に同居させている
幸せも悲しい経験も、全てがかけがえなく自分自身そのものなのだと思う
お腹にいたあの子を自分の胸の中に抱き、産まれて来た命を腕に抱きしめ、強くなろうと、毎日を生きている




