孤独な夜
気が付いたのは病院のベッド、痛みは治まり、点滴が腕に刺さっている
あぁ、病院か、どこの病院だろう、これは痛み止めだろうか、罰を受けるつもりが、まさかこんな事になるなんて
思っていたよりもガンの進行が早い、もうこんな激痛が走る程なのか、それともこんなのは序の口で、更なる激痛が待ち受けているのか
病室で寝ていると思い出される三ヶ月前の記憶、自分の赤ちゃんが死んでしまったあの日―
また涙が溢れる、手術が終わってもうお腹にいないと理解したあの瞬間の絶望感、忘れてはいけないが思い出したくないツライ記憶
動く事もできずに泣き濡れる、恋人は心配しているだろう、鞄はどこだろう、連絡しなければ、そもそも今は何時で、自分は一体、どれくらい眠っていたのだろう
目まぐるしく色んな事を考える、とにかく、今出来る最良の策はナースコールだろう、点滴の刺さっていない方の手で、ナースコールを探る
探り当てたと同時に、誰かが入って来る音がする、物音の方向に目を向けると、そこには恋人が立っていた
「気が付いた?」
恋人は不安そうな顔をして自分を除き込む、まだ乾いていない涙を拭いてくれ髪を撫でながら、続ける
「職場から倒れたって連絡があってビックリしたよ、まだ痛む?」
どうやら一緒に救急車に乗り込んだ同僚が、うちの固定電話に連絡を入れたらしい、恋人はまだ帰っていなかったが、留守電を聞いて一連を把握したようだ
病院はどこまで恋人に話したのだろう、もう恋人は、ガンの事を知っているのだろうか
どうしていいかわからず何を喋るのも怖くなり、「ごめんなさい」とだけ答える
「子宮がね、炎症を起こしてるって、子宮内膜症だって。昨日無理させちゃったね、ごめんね」
恋人は尚も優しく話す、どうやら病院は、ガンの事は告げていない様だ
「今日は1日入院して、明日一緒に帰ろう。付き添い許可は貰ったから、一緒にいられるよ」
恋人は自分の手を握りながら、ベッドの端に座る、もう片方の手で頭を撫でながら、頬をくっつける
「心配したよ」
恋人の優しい声とぬくもりに、一気に安心する、この人は本当に、何て丁度よく温かいんだろう
「ゆっくりして、一緒にいるから、痛んだりしたらすぐ教えて」
簡易ベッドを引き出しながら、恋人は話し続ける、言われた通りに休む事にして、目を閉じる、恋人が自分の手に触れる、触れた手を繋ぎながら恋人を見ると、恋人は簡易ベッドに腰かけて私を見つめている
「ごめんね心配かけて、大丈夫だから寝て」
そう言うと恋人は、点滴が終わったら知らせないといけないからと、まだ眠れない様子で答える
自分も点滴が終わるまで待つことにする、今日はちゃんとご飯は食べたのかとか、とりとめない事を話す
30分程経ち、点滴が終わる、恋人はナースコールを押し、到着した看護士に点滴を外される
「明日の朝、先生からお話があります」
看護士はそう言い残し病室を後にした、自分の代わりに恋人がわかりましたと答える
「一緒に話を聞くからね、とにかく今日は、もう休んで」
恋人が一緒に話を聞けば、ガンの事を恋人に知られてしまう、自分は焦りどうすればいいのかわからず、病院の固いベッドで眠れない夜を過ごした




