マジで恋する5秒前。
「お願い!!」
あぁ私は…。
「今日1日だけでいぃから!!」
なんてことをしてしまったのだろう。
「私の彼氏になって!!」
よりにもよって、飛鳥にこんなお願いをすることになるなんて。
「……帰れば?」
そうくると思った!!
ことの発端は2日前、中学の時の友達からの電話だった。
『私彼氏できたの!も〜ラブラブッ』
『マジ!?おめでとー!』
『ありがとう。ところで琉依は?』
『えっ何が?』
『彼氏!できたの?…あぁ、無理だよね、琉依は。だって』
ここでカチンときた私は思わずこう口走っていた。友達の言葉を最後まで聞かずに。
『私だっているから!彼氏!なんなら会わせてあげようか!?』
言ってしまってから後悔の嵐。
『……………マジで?』
『マジで!!』
『じゃあ…会わせてよ。あさっての日曜日、いつものファミレスで。11時ね』
『分かった11時ね!!』
勢いのまま電話を切ったが、よく考えたら私は彼氏などいない。よく考えなくても彼氏などいない。そもそも生まれてこの方出来たことがない。
焦った私はとっさに思い浮かんだこの男――……目の前でいやそ〜にしている、幼なじみの飛鳥に彼氏役を頼みにきたというわけだ。
現在時刻は9:30。
土下座までしているのに飛鳥は首を縦にふらない。 いい加減ムカつく。
「いいじゃない!!会ってる間だけなら!!」
「……………………」
「無視してんじゃないわよ!!」
「はぁ〜…………」
「!!!OKしてくれる!?」
「……うざっ」
「………ッッ!!もーいいよっ!帰るッ!」
あんたなんかに頼んだ私がバカでした!!――この冷血人間!!
そもそもコイツは昔からこーゆー奴だ。人が困ってる姿を見て楽しんでんのよ!!「じゃーねッ!」
乱暴にドアを閉めて階段をかけ降りる私の背中に、飛鳥の声がかかった。
「待てよ。やってもいいけど」
「…ホント?」
「あぁ。その代わり…」
「“昼飯おごれ”ね?任せて!」
「……じゃあ時間になったらおまえン家行くから」
「合点承知の助!!ありがとっ」
そうして1時間後、私たちは待ち合わせ場所のファミレスに向かった。
道中ずっと黙り込んでいる飛鳥をほっといて、私はボロがでないか今日の会話をシミュレーションする。
「久しぶり〜。これが私の彼氏よ☆うふ☆」
「……………キモッ」
何か聞こえたけど潔く割愛。
「さぁ〜着いた着いた!」 …席を探すのに夢中な私は気づかない。
後ろの飛鳥が、苦しそうで哀しそうな表情をしていたことなんて。
4人がけのテーブルとイスに、向かいに友達の由香とその彼氏。左隣に飛鳥。
「え…てか、飛鳥くんじゃんどこが彼氏?」
「かかかかか彼氏じゃんどっからどう見ても」
「どっからどう見ても琉依と飛鳥くんは幼なじみでしょ。…本当にくっついたの?」
そこで由香は意味ありげに飛鳥に視線を送った。というより…目配せ?
何さ!!私が信じられないのか!!
「…本当だよ」
飛鳥がもの凄く小さな声で言う。
何か…家出たときより機嫌悪くない?
「じゃあ聞くけど…どっちから告白したの?」
オイ由香!!
ふつーそこ聞く!?
細かいとこまで考えていなかった私はそりゃあもう焦った焦った。
「――俺だよ」
「え」
飛鳥?
「俺が告白した」
「………………ホントに?」 由香の目が真ん丸くなる。
「飛鳥くん…頑張ったのね。オメデトウ!長かったでしょ」
……はぃ?由香さん?
「琉依鈍いもんね。16年間の片思いがようやく実ったんだぁ〜」
――何の話?飛鳥が…片思い?
そのまま由香と飛鳥(と、たまに彼氏くん)は会話を続ける。店を出るその時まで私はただ呆けていて、由香に声をかけられるまで気づかなかった。
「琉依!」
「あ…なに?」
「飛鳥くん、大切にしなよ。あんたに16年間悪い虫がつかなかったのは飛鳥くんのおかげなんだから」
それはつまり…今まで1度も彼氏ができなかったのは、コイツのせいってこと?
「じゃーね」と別れの言葉を口にして、由香と彼氏は去っていった。
とりあえず当初の問題は解決したらしい。
…けど。
「え〜と…………」
ちら、と斜め後ろに飛鳥を見る。
「あんたって私のこと好きだったの?」
「………そうだけど悪い?」
衝撃の事実。
「……彼氏役頼まれて嫌だったんじゃない?」
好きな相手に“ふりだけ”頼まれるなんて、絶対つらい。
「そうだけど、他の奴に彼氏役やられるくらいなら俺がやる」
それだけ言うと、飛鳥はまたフイッ、とそっぽを向いてしまった。
「…そっか…飛鳥は私のこと好きなんだ」
…なんでだろう。嫌じゃない。
むしろ、嬉しい気さえする。
「…どうしてくれんの?あんたのせいで私今まで独り身だったんじゃない」
照れ隠しに言ってみる。 …なのに。
「いいんじゃない?代わりに俺が手に入ったんだし」
飄々とコイツは…。
――飛鳥の顔が近づいてくる。唇は、そのまま重ねられた。
――……あぁ。きっと私は、、この直後には恋に落ちている。
まさに今が、『マジで恋する5秒前』ってやつなのだろう。
“逃がさないから”
――声が、聞こえた気がした。
『あんたにも一応赤い血が流れてたんだ』
『……ケンカ売ってんの?』
END




