慣れ慣れあくまと私‐帰宅編‐
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
ともかく学校へ行くよりも、家で腰を落ち着けて悪魔改めワルと色々話をした方が有意義である。別に家以外でも会話をすることは道中散々しているのだが、はたから見れば私一人が何もない空間に向かって喋りかけているだけのヤバい光景になってしまう。
その為家が良いのだが……家族が喧しいのは目に見えているけれど、致し方あるまい。
「あれ?つーちゃん学校はどうしたの。今日って午前終わりだっけか」
「否、サボりだ。…父、挨拶がないのが寂しい」
「サボッ、おかえりつーちゃん。そんな、サボリなんて非行に走り始めた第一段階じゃあ―――その後ろのヤツに影響されちゃったの?」
家へ帰って最初に迎えてくれたのは、エプロン姿で宙に浮く、膝から下が薄くなり向こう側が見えているいつもの父であった。
「こんにちはお義父さん」
「だっ、誰がお義父さんじゃああああぁ!!おと、おとーさん認めないよ!?悪魔が息子になるなんて認めないよ!??」
興奮して声が上ずる父は玄関にある物を手当たり次第に浮かせ、ワルだけに当たるよう投げつける。私に被害が無いので止める必要性はないのだが、ここで止めなかったことが後々明るみに出ると叱られるのは確実だ。
「ワルは協力者であって未来の息子ではない」
「へ?」
「つい先程だが、私の将来の目標というものが定まってだな。それがワルの目的と合致したので手を組んだのだ」
「……………つーちゃんに夢が出来たのは嬉しいけど、でもっ」
「そんな事よりもだ父。そろそろ月一の町霊会議なのではないのか?遅刻するとじじ様の機嫌を損ねてしまう」
「うぐ…解った。詳しい話は凪さんが帰って来てから一緒に聞くからね」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってきます」
納得いかない、という顔だがじじ様こと祖父は機嫌を損ねてしまうとそこからが異常に長い。祖母を焚き付けないと何時まで経っても不機嫌なままなのだ。
それを知らない訳がない父はしぶしぶ玄関の扉をすり抜けて出掛けて行った。
「お義父さん元気だね…死んでるけど」
「家で一番喧しいぞ……死んでるがな」
蓮野家の婿は長女が生まれると程なくして死ぬ。
死んで、妻の守護霊となるのである。
※※※※※※
でもさ、とワルが我が物顔で私のベッドを占領しながら話そうとするので蹴り飛ばす。
「何勝手に人の指定席に座っているんだ貴様は。床か椅子の上に座れ」
「はいはい」
「……まぁ良い。で、なにが「でも」なのだ?」
「お義父さんのことだよ。守護霊ならお義母さんのところのに居ないとマズいんじゃないの?」
勉強机の上に座るワルの言うことは最もだ。私もその昔父に聞いた事がある。
「詳しい仕組みは解らんが、以前父が「死んだことにより肉体の枷から解放され能力の幅が広がった」と言っていたのと関係しているんじゃなかろうか」
こればっかりは父か祖父でない限り上手く説明できないだろう。母が生前に父にワル達のような存在を上手く説明できなかったのと同様に、こればかりは身をもって知らないとどうしようもない。
「へぇ………人間ってのも不思議なもんなんだね」
「私からすればワル達の方がもっと不思議なのだがな」
「そ?でもこれで、噂の真相が解ったわ」
「噂?」
ワル達のような存在の中でも私の家族はそれなりに有名で、ある時期を境に近づけなくなる理由の真相を皆知りたがっていたらしい。
「母やばば様曰く、運命の人とやらを見つけて心を通わせればそれが破魔の効力を発揮するらしいな。私はそういった人が居ないからよく解らないが」
「――――運命の人がいないの?」
「居ない、というのではなく」
ヤツらから身を守ってくれるからその人を好きになるのか?そんなもの、本当に好きだといえるのだろうか。
それに相手が私を好いていてくれるとは限らないし、何より利用しているようで嫌だ。
それに結局は………殺してしまうのだ。
「潔癖ぃ」
「何とでも言えば良いさ。それになにより人自体を好いていないからな、別に居ても居なくとも私には関係のないことだ」
「でもそれだと一生ツルは……ああ、魔界化に成功しなかった場合と仮定して。一生俺達みたいなのに付きまとわれちゃうってことだけど」
「そうならないように魔界化を目指すんだ。成功しないとか不穏なことを言うんじゃない」
不満の声を隠さずそう返すとワルはニヤリと笑った。
「俺もついてることだし、まぁ大船に乗ったつもりでいてよ」
「泥船でないことを祈るとするか。――――さて、そろそろ本題に入るぞ」
「本題?」
「お前が持っている情報を全て開示するんだ」
毎夜悪夢を見ない為にと枕の下に忍ばせていた小袋をワルに向かって投げつける。それをぶつけられたワルは机からズリ落ち、身動きが取れなくなった。運が悪かったのか小袋はズリ落ちたワルの身体の下敷きとなり……つまり布越しとはいえ触れている状態なのである。
邪なるものの力を封じる為の所謂「ありがたい系」のアイテムに。




