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 所は変わり、


「良いのかい?学校サボっちゃって」

「………お前、変な悪魔だな」


 普通人間をダメなほうへもってくのが悪魔という存在ではないのか?

 銭湯の煙突から梯子を使って自力で降りようとしたら慌てて抱き抱えた悪魔に降ろしてもらい、その足でやってきたのは二駅離れた大きな図書館。


「だいたい私に何故構う?あれか、情報提供料を寄越せというやつか」

「違うよ。目的が同じなら手を取り合って協力した方が良いだろう?」

「先程言ったが悪魔と手を組んだら自滅しそうで嫌だ」

「目的が同じならば、キミを自滅させるのは俺にとってデメリットでしかないよ。俺は人間界に干渉できる事が制限されてるからね」


 悪魔の言ってることも解らなくはない。これが悪魔でなければ申し出を受け入れることも容易いのだが……。人間では知り得ない知識を持っている悪魔は魔界化させる為のヒントを持っている可能性がある。


 そして多分、この悪魔。


「――――貴様かなり高位の悪魔だろう。制限されてる事柄の方が少ないんじゃないのか」

「…………………驚いた、そこまで解るんだ?」


 この図書館を訪れる為には必ず通らなければならない大通りが存在している。しかしやっかいな事に昔からその通りにはかなりの大物が住み着いていて、通ろうとする度に襲いかかってきた。だが、今日は。


「貴様が私にまとわりつくようになってから全く異形に絡まれなくなったからな」


 私の―――正確には悪魔を認識した瞬間逃げ出したのだ。

 ほかのものに関しても私を見つけ、襲い掛かってくる前に近くにいる悪魔に気づくと一目散に逃げ出していった。


「キミの方だって俺と組んだ方がメリットが大きいって気付いてるのに」

「知識と…貴様以外に絡まれなくなる、ということか」

「特に後者はかなりのメリットだと思うけれど」

「………………貴様の思惑が不明確というのが些か問題ではあるが…まぁ、この際言ってられないか」


 例え自滅する未来になったとしても、普通の人々が奴らを認識干渉されてしまうようになる世界になればそれで良い。死ぬその瞬間、人々が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれてしまえばそれだけで万々歳だ。


「解った」

「ん?」

「協力を申し出る。悪魔、私と手を組んでこの世界を魔界と融合させようじゃないか」

「――そうこなくっちゃ」


 初めて握った悪魔の手はひんやりと冷たくて少しだけ気持ち良かった。


※※※※※※


 これといっためぼしい収穫もない図書館からの帰路、ふと気が付いた。


「そうだ。何時までも貴様を貴様と呼ぶのもどうか」

「名前教えても良いの?」

「……やはり名乗りというものは貴様等にとって重要なものなのか」


 代々異形との生活を余儀なくされてきた我が家系。否応なしに向こうの規則のようなものも頭に入れざるを得なく、その中でもこれだけは覚えておかなければならないというものの一つがこれだ。


「キミ、ちょいちょい物知りだよねぇ。騙しにくくて仕方ないよ」

「残念だったな」

「名乗り合えば契約成立だったのに」

「そもそも契約とはどういうものなんだ?」

「それは知らないんだ。種族毎に契約の意味は違うけれど、俺達悪魔の場合は基本的に魂の献上を意味して」

「あぶねー!!!!」

「悪魔は契約者の為にその力を使うけれど契約者の願いが叶う、若しくは死んだ場合にその魂は契約した悪魔の物になるっての」

「絶対貴様の名前は聞かん」


 奴らにとっての「名乗り」は契約を意味するとても重要な儀式の一つらしい。ただ「名を知る」のではなく「本人の口から名乗られる」ということが絶対条件で、人から聞いたり紙に書かれたものから読み取って知ったのでは意味をなさないものである、と私は教わったが本当にそうみたいだ。

 しかし「貴様」のままでは不便だしどうしたものか。


「悪魔のあっくんとかどう?」

「心を読むな。安易すぎる却下」

「えぇ…人の考えを安易すぎるって」

「人ではないだろうが。そうだな――――悪魔だからまーくん」

「却下!!」

「ふむ」


 我ながら親しみやすい良い名だと思ったのだがダメらしい。


「ならばワル」

「………はい?」

「悪、をワルと呼んでみた。かっこいいぞワル、すごく悪っぽいぞワル」

「…まぁいいか……。それで?俺はキミをなんと呼べばいい?」

「好きにすればいい」


 こちらも好きに決めたわけであるから向こうにも好きに呼んでもらわなければフェアではないだろう。それにワルの声が聞こえる人自体、ここ周辺では母と祖母。それから……父と祖父ぐらいのものだから仮にひどい呼び名だったとして、害はあるまい。


「それじゃあツル」

「……」

「ツル?」

「……………おいクソ悪魔」

「ワルじゃないのかい」

「どっからどうしてその呼び名が出てきた」

「どうしてって…なんとなくだけどダメ?鋭い眼光が鳥の鶴っぽいし」

「いや…好きにすればと言ったのは私だし……良いだろう」

「そ。それじゃあ改めてよろしく」

「ああ、よろしく…頼む」


 そうか、改めて思い返すともう十年も前になるのか。


「うん?どうかした?何だか遠くを見る目になってるけど」

「何、歳をとったと思ってな」

「まだ高校生だよね……どういうことなの…………」


 背後でぶつぶつ呟くワルは放っておいて。

 少しばかり肩を落としながら家路へつくのであった。

 

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