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ちょっと待て!今日は俺じゃないぞ!!

恋愛フラグがチラチラしつつある二人です(申し訳ない)


幼稚園の建て替え工事前に突如届いた同窓会の葉書。親からメールで内容を送って貰った俺は、卒園以来14年振りに幼稚園に電話をかける。

「同窓会の出席の連絡をしたいんですが」

「はい、お名前を教えてもらえますか?」

「平成××年卒園の吉野卓也です」

「えーっと、吉野さんね。ありました。今は進学で家を出ているのね。それなら連絡先……幼稚園のホームページのメールを使ってアドレスを送って貰ってもいいかしら?」

「メールアドレスですね。分かりました。もしも他に必要なものがあったら送るアドレスにメール下さい」

俺は簡単なやり取りをして電話を切った。

今の俺が進学の為に地方に出てきている。仲の良かった幼稚園の友達も一人もいない学区の小学校だったから皆、全員に会うのは何年振りだろう。

人によっては、習い事とか塾で一緒だったり、親が未だに連絡を取って合って集まる時に一緒に着いて行ったりしていたメンバーもいたけど、それだって中学二年になってからは参加をしていない。高校から自宅を出て寮で暮らしていたので、今回の同窓会があるからいつもより少し早めに実家に戻る予定を俺は立てることにした。


「で、卓也。今年は実家に戻るのが早くないか?」

「地元の幼稚園で同窓会があるんだよ。来年に一度園者を解体するからって。」

「そうなんだ。その間幼稚園は?」

「地域の小学校の空き教室を間借りするんだって。10月には出来上がるらしい」

「ふうん、そんなに早くできるのか?」

「良く分からないけど……できるんじゃないか?」

ゼミの教授に実家に戻る旨話していた事を、こいつ……俺と同期の高梨は聞いていたようだ。

「お前、地元こっちじゃないのか?」

「関東だ。高校から一人でこっちに来たけどな」

「どうして?」

「一人で暮らしたかったから」

「お前……それでよく親が認めたな」

まあ、そうだよな。俺が寮のある高校を選んだ理由……。

「年の離れた妹が生まれるからだよ。俺の夏休みの後に親が妊娠したんだよ」

「えっ?それはまた……」

「確かにいろいろあったわけさ。勉強している時に妹が泣いて五月蠅いなんて言えないだろ?だから、その頃から大学は北海道って決めていたから高校から行きたいって事にして実家を出たんだよ。仲が悪い訳じゃないさ。久しぶりの子育てだから夫婦で頑張って貰おうと思って」

「成程。だから連休になると実家に戻っていたのか」

「ああ、妹もようやくお兄ちゃんって言ってくれるようになったからな。最初は人見知りされるし、知らない人だったからマジで凹んだぜ」

今となっては昔話だけど。たまにしか戻らないからお兄ちゃん大好きってくっついて逆に遊びに行けない事も多いが、今の内と思って楽しむ事にしている。

「だから、たまにデパートの子供服売り場にいたのか。一時期お前がロリって噂があったからな」

「勘弁してくれよ。もちろん俺の子でもないし」

「で、妹ちゃんの写真は無いのか?」

「あるぜ。両親と一緒に写っているやつが」

俺はスマホを操作して、入園式の妹の写真を高梨に見せた。

「妹?」

「妹。それがどうかした?」

「そっか……何でもない。お前も」

「女装したらこうなるんだなって言いたいんだろ。妹とそっくりで何処が悪い」

俺が女顔というのか、妹が男顔なのか……分からないが、とにかく俺達姉妹が似ているのは事実だ。

妹の幼稚園の入学式には俺も参加したが、園長先生も卓也君に顔は似ているわね。でも女の子よと言ってから苦笑していたから俺の制服姿を妹に当て嵌めたのだろうか?だとしたらかなり残念な話だ。

「まあ、そのまま年明けたら帰ってくるんだろう?」

「ああ、ブルートレインが廃止になる前に乗りたいから乗って帰ってみようかなと思ってな」

「はあ、それはそれで楽しそうだな。それじゃあ気を付けて帰れよ」

そんなやり取りをして俺達はゼミ室を後にした。


「では、皆さん。グラスを手に持って……乾杯」

園長先生の乾杯の音頭で同窓会が始まる。今回は卒業生が一斉に集まるタイプになっていて、俺達の左胸には卒業年度が分かる色紙に名前をプリントされた名札が付いている。俺達の学年はライラック色というものらしい。

「吉野。久しぶり」

「ああ。中学三年の最後の授業だから5年振りか?」

「そうだな。お前、今どこにいるんだよ」

「俺?高校から北海道。大学も北海道。このまま根ざすかもしれない」

俺と同じ塾だったヤツが俺を見つけて話かけてきた。こいつは昔から人懐っこい笑顔なところは昔と変わらない。

「本当だ、卓也君が来ている。いつ帰って来たの?」

「昨日。年明けまではこっちにいる予定。こっちは暖かいけどこれでも寒いんだよな」

「そりゃあ、北海道に比べたら話にならないって」

「そうだよな」

俺達は互いの近況を報告しながら談笑を続ける。俺はまだ成人していないからソフトドリンクだが、一部の同級生はビールの入ったコップを持っていた。

「あれ?卓也まだ未成年」

「ああ、俺は年末。後数日した位だし」

「私、卓也君の誕生日覚えているよ。ねえ、今年はこうやって本人がいるんだからカラオケオールで遊ぼうよ」

親同士が今でも仲が良い皐月ちゃんが提案すると、あっという間に参加者が増えていくが、その中には俺も誰か分かっていない奴もいたりする。

「幼稚園の頃から面影が変わった人も多いから、皆当時の写真を持ち寄ること。それと今回はオールだから親に一言言ってくる事」

皐月ちゃんはテキパキと忘年会の様なカラオケオールをセッティングし始めた。

会場は19時からフリータイムの設定ができる店をパーティープランの料理で貸し切る事が出来たと言う。

「卓也君は、当日は妹ちゃんとしっかり遊んでおくように。そうじゃないと夜にお兄ちゃんはいないとダメってダダを捏ねられちゃうと困るから」

確かにそれはそうだ。妹は我儘姫では決してないけど、私も一緒がいいのにって言われると良心がちくちくと痛むのだ。

「分かったよ。皐月。俺の前日は萌ちゃんだから一緒に誘ってやったら?」

「本当?あの子も会場にいるから、後で言っておくね。当日参加したい人は私のツイッターに参加するってツイートしておいて」

そう言うと、皐月ちゃんは自作の名刺を同期に配り始めた。ってか、俺達の同期って全員で90人いるはずなのだが?全員が来たらどうするんだよ?

「大丈夫。全員には回さないよ。せいぜい卓也君と同じクラスだった人と習い事が同じだった人位だよ」

それを聞くとホッとする。そうなると多くても40人いるかいないかに変わってくるし、夜通し遊ぶ事になるから実際にはその半分位になるだろう。

楽しかった同窓会は、あっという間に終わって、俺を迎えに来たと言って親に連れられた妹に強制的に回収されてしまったのだった。


そして飲み会の当日。19時10分前に待ち合わせのカラオケ前に行くと、25人位集まっていた。メンバーの中には萌ちゃんを祝いたいって子もいるらしい。俺はもうどうにでもなれって感覚でいたから何とも思っていなかった。

時間になって、皆でパーティールームに移動してドリンクを注文して揃ったところで皐月ちゃんによる乾杯の音頭になった。

「皆でこうやって会うのは同窓会ぶりだけどいいよね。今夜は卓也君の誕生日。皆でお祝いしようね」

ちょっと待て、俺は今日じゃねえ。それは萌ちゃんだ。俺は明日だ。

「俺じゃねえ。今日は萌ちゃんだ。俺は明日だ。オールだから日付が変わったら言わってくれよ。今は萌ちゃんおめでとう。乾杯」

皐月ちゃんが茫然としている所からマイクを奪って乾杯の音頭を取ってしまった。

皆呆気にとられていたけど、どっちにしても祝えるからいいよねとか、さっちゃんどんまいとかいろんな声が上がって俺達の忘年会を兼ねた誕生日会が始まった。

カラオケを歌いながら、パーティープランの料理を食べながら楽しんでいると萌ちゃんがやってきた。


「ちょっといい?」

「ああ」

「ごめんね。皐月ちゃん……私と卓也君の誕生日逆に覚えていたみたい」

「まあ、いいじゃん。大したことじゃないよ。二十歳おめでとう」

「ありがとう。私の方は……卓也君がその時におめでとうを言いたいんだけど……いいかな?」

俺の誕生日は午後1時過ぎだ。こんな風に夜通し遊んでいたら難しいと思うけどな。

「無理しなくてもいいよ。気持ちだけで十分だよ」

「卓也君は昔からそう。お家の事を考えて家を出たんでしょう?」

「そこは偶然が重なっただけさ。俺が卑屈で家を出た訳じゃない」

「分かっているよ。でもね、いきなりそれを言われて私辛かった。大学は北海道だと分かっていたけど、高校はこっちだと思っていたから」

そうだ、萌ちゃんは俺が北海道に行く前の日にどうして教えてくれなかったのって泣かれてしまったんだ。

「あの時は……ごめん。でも母さんの負担を考えたらあれで良かったと俺は思っている。萌ちゃんは妹の世話をたまにしてくれたんだって?ありがとう」

「私は……幼稚園の先生になりたいから。幼稚園実習も妹ちゃんのクラスだったのよ」

「だからか……萌ちゃん先生だったらなんとかって妹が言っていたのは」

「そうかもね」

「ってことは、萌ちゃんは短大?」

「うん、春からは私も幼稚園の先生になることが決まったの。何処だと思う?」

「もしかして?」

「うん、私達の幼稚園に採用が決まったの」

「そっか。夢を叶えたんだな。これからは頑張れよ」

「ありがとう。あっ、誰かが呼んでいるから私は行くね」

そう言って萌ちゃんは俺から離れて行った。


「何、萌ちゃんと仲いいのか?」

「家が近いのと、親が仲がいいからだろ?」

「そっか。それで何だって?」

「夢を叶えたんだって。俺も負けてられないな」

「そうだなあ。就職とかそろそろ考えないとな」

「俺は……大学院で研究かな。まだまだかかりそうだけど」

「お前の夢は明確じゃないか。だからいいんだよ。頑張れよ」

俺達が他愛のない話でふざけている片隅で、萌ちゃんが明日頑張るって握りこぶしを作っていた事を俺達は知らなかった。


これもまあ……ありがちな話でしょう。

翌日に萌ちゃんが頑張ったかどうかはノープランなので今はご想像に任せます。

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