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消えたバースデーケーキ

「後は注文していたケーキを取りに行って♪」

結婚前提に同棲している彼氏の二人きりでお祝いする初めての誕生日。

彼氏の誕生日はクリスマスの2日前の23日だ。

普通にケーキを頼むと勝手にクリスマス仕様になってしまうと零していたのを覚えていた私は、お気に入りのケーキ屋さんできちんと前金で彼の大好きなチョコレートケーキをバースデーケーキとしてオーダーしていた。

今日の主役ご本人は、高校時代の同窓会に出ているので、私待っている家に帰ってくるのは6時過ぎ。

ケーキの受け取りも6時過ぎ。時計は5時を指している。

ローストビーフも焼けて今は冷ましているし、彼が好きなパンプキンスープもいつもよりおいしくできた気がする。

ビーフシチューは昨日一晩かけてじっくりと煮込んだ手間のかかったものだ。



彼からの着信音がしたので、私は携帯を取り出す。

「俺だけども、早く帰れそうだから」

「分かった。駅まで迎えに行くね」

「寒いからきちんとして来いよ。ケーキ貰っていくんだよな?」

「うん、ケーキ屋さんの前で待ってるね」

私達は簡単なやりとりをして通話を終わらせる。

急いで出かける支度をする。コート・手袋・マフラー・誕生日に私に似合うだろうって買ってくれた帽子。

玄関でブーツを履くとお出かけモードの私の出来上がり。

玄関の姿見で軽くチェックをして…よしっ、お迎え準備完了。

「いってきまぁす」

私は誰もいないのに声をかけてからドアを開けた。



待ち合わせのケーキ屋さんには私の方が先に着いた。

引き取りの時間はちょっと早いけれども、受け取ってしまおうと思って、予約表を持って店内に入る。

夕方の店内は、いつもよりも若干多いお客さんがいる。

ほとんどの人がクリスマスケーキを手にしている。

この日にバースデーケーキを手にするのは私達だけかもしれない。

チョコレートケーキでお任せにしてしまったので、出来上がりを私は知らない。

ようやく、私の前の人がケーキを受け取って私の番になる。

私はポケットに入れておいた予約表を店員さんに手渡した。

「予約していた佐藤なのですが、時間には早いんですが、バースデーケーキ受け取れますか?」

今の私はとってもにこやかな顔をしていたと思う。自信もある。

けれども、お店の人の反応は微妙なものだった。



「バースデーケーキですか?予約表を受け取ります。お待ちください」

そう言うと足早にお店の奥に入ってしまった。

ここのお店は、予約の受け取り時間に近くなるとショーケースに近い所においてあるはずなのに、それがない。

彼と付き合ってから、去年までは彼の家でお祝いをするのにこの店を使っている。

私達の付き合いは7年になるので、7個はこの日にお願いをしている。

いつもの受け取りは12時で、今回だけ18時にしていた。

店の奥ではなんだか声を荒だてた感じのトーンが聞こえる。

今まで受けた事のない対応に少しずつ私は不安になってきた。



「ただいま。ケーキ受け取ったか?」

「お帰り。お待ちくださいって奥に行ったまま店員さんが来ないの」

「大丈夫だって。一緒に待っていよう」

「うん」

私達は売り場の邪魔にならないようにお店の隅に移動して待つことにした。

いつもなら5分も待たないのに、10分過ぎてもまだケーキが来ない。

…やっぱり、おかしい。なにかがあったんだ。

二人で待っている時間がとても長くて、怖くて逃げだしたくなる。

無意識に私は彼の手を握っていたみたいで、彼が大丈夫だよ、一緒に待とうと耳元で囁く。

その言葉でようやく平静を取り戻した私は彼と再び待つことにした。



「佐藤様…いらっしゃいますか?」

暫くして、私達が呼ばれた。カウンターにいるのはさっきの店員さんではなくてオーナーさんだ。

オーナーさんは、彼のご両親の幼馴染だそうで、その縁で彼の家でのスイーツはここのお店が定番だ。

私のバースデーケーキもこの店で調達する。

「こんばんは。オーナーが出張ってきてどうしたの?」

「オーダーはやっぱり君たちだったんだね」

オーナーさんはそう言うと深い溜め息をついた。そしてこう言った。



「ごめん、スタッフの手違いでケーキを他のお客さんに渡しちゃったんだ」

「え…なに…それ…」

彼は辛うじて言葉がでるようだけども、私は何を言っているのか分からなかった。

どうして?お金払ってあるのに?ホールケーキじゃないんだよ。オーダーなのに…。

私は足元がぐにゃりと崩れていくのを感じて立っていられなくなった。

「大丈夫か?オーナー椅子貸して」

彼は私を支えるように抱き抱えて椅子を借りてくれた。

「ここで待ってて。大丈夫。俺を信じて」

彼は私の頬にキスを軽くしてからオーナーと話し合っていた。



今年のケーキは、彼と二人きりで過ごす初めての誕生日のメインだったもの。

来年入籍をするから、彼氏彼女として過ごせる最後の誕生日イベントだったのに。

彼にケーキは内緒にしていたけど、ここのケーキが食べたいって言ってたからそれだけは守っただけなのに。

どうしてこうなったのか?なぜ私達のケーキなのか?それが分からなかった。

胸がきゅうっと締めつけられる痛みが襲う。

さっきまであんなに浮かれていた自分はどこにいってしまったんだろう?

私の彼の想いまでも奪われてしまった様な錯覚に陥る。

目からどんどん涙があふれてくる。

泣きたくないのに、どうしても止まらない。

感情のセーブが完全に効かなくなってしまって、私は両目からポタポタと涙を零し始めた。



「ごめん、俺がお前にケーキの予約を頼んだのが悪かったんだよな」

「ち…が…うっ。私も…早め…にもう一度…確認…すれば…良かったの…。だから…」

「もう、いいよ。それよりもどうして泣いているんだい?」

「わた…しの、き…もちが…、うばわれ…うわーん…」

私は彼にしがみ付いて泣きだした。

私には、この店で満足にお買いものができないというのも悔しかった。

それに、なにより気持ちを奪われた気持ちは分かって貰えたのだろうか?

彼の手が私の頭を優しく撫でてくれる。

混乱していた心がゆっくりとだけど、確実に落ち着いてくる。



「落ち着いたか?悔しかったな?ごめんな。お前がオーダーの前に電話しておけば良かったな」

「もう…いい。もういいよ。帰りたい。待っていても、ケーキ帰ってこないもの」

「そうだな。オーナー、とりあえず今日は帰る。悪いけど、何か見繕ってくれない?」

「あぁ、そうだね。折角の誕生日に申し訳ないね」

「俺は別にいいけどさ。でも…オーナー次はないからね?分かってる」

「分かっているさ。お金はいいから。今日の事は後日改めて伺います」

オーナーさんは彼にケーキの箱を渡してくれる。

彼に促されて私はゆっくりと歩き出した。



「ごめんな。あの店、たまに今回みたいなミスをやらかすんだよ」

帰り路。私の右手をしっかりと恋人つなぎで繋いだ彼がゆっくりと話しだした。

「そう…」

「俺のバースデーケーキが消えた事件は実はこれで3回目なんだよ。ここまでくるとどんなどっきりだよってこっちも言いたくなるぜ」

私は彼の言った言葉に唖然とする。

1回目でもかなりショックなのに…平然と3回目だしという彼に驚く。

駅前でそこそこおいしくて、おしゃれなケーキ屋さん。

隣にはお花屋さんもあるから集客はいいはずだ。

うっかりだとしても、流石に3回もケーキが消えてしまうのは大問題だと思う。



「今回は、君を泣かしたって事で、ペナルティーを出すことにしたから」

「ペナルティー?どういうこと?」

「それは秘密さ。とりあえず悪い様にはしないからさ」

「うん」

「それにさ、ケーキは無くなっちゃったけど、お前が俺を想ってケーキを頼んだ気持ちはちゃんと貰いましたから」

丁度信号が赤に変わって私達は立ち止まる。

彼が私に向かって微笑みながらゆっくりと顔が近付いて、唇が重なる。

私もゆっくりと目を閉じて、彼を感じることにした。

外を歩いているから重なった唇は冷たいけれども、彼の想いは私を溶かす程あついものだと良く分かった。



「なぁ?今回のトラブルで本当に誕生日が嫌になった。この気持ちはどうしたらいいと思う?」

「そうね…叫んでみる?」

「それもいいかもな。誕生日なんて大嫌い!!」

彼は私が提案した通りに叫び出した。

けれども、ここは車の往来の激しい所なので彼の叫びはかき消されてしまった。

「でも…私は好きよ。だって、あなたが生まれたことで私が会えたんだもの」

「そうだな。親たちがお前の隣に家を立てなければ会えなかったか。分かった。大嫌いは止めて嫌いにしよう」

「でも…嫌いなの?」

「今日はまだ好きになれない。お前を泣かせた原因だからな。とにかく、俺達の家に帰ろう…な」

彼の握っている手から熱を帯びたのを感じる。

きっと照れているんだろうなぁ…かなりの照れ屋さんだから。



来年の彼の誕生日には、私の名前は彼の名前に変わる。

20年前に私の隣の家に引っ越してきた男の子が運命の人になるとは思わなかった。

独身最後の彼の誕生日のお祝いがちょっと後味が悪くなっちゃったけど、これだって後何年かしたら笑い話になるといいなぁ?

ねぇ?大好きなあなた?





ネタ元…23日が誕生日な元夫(笑)

亡くなったケーキ…家族の誰か(名誉のために伏せておきましょう)

ベースは事実のコンボになってますが、シチュは事実ではありません。


っていうか、元夫の誕生日って夫婦になってからしかお祝してないや(笑)

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