女心は複雑なの
Happy Birthday To You!!
「誕生日なんて大嫌い」
今日は可愛い彼女の誕生日。
冬休み直前でほとんど授業の無い俺達はいつもより長い放課後を喫茶店でランチデートを楽しんでいた。
ランチのパスタセットを食べた後、お店の人にこっそりとお願いしたサプライズケーキを今は二人で食べている。
大きくもなく、甘さを控えめに作って貰ったケーキなのに、彼女は顔中が蕩ける様な表情で食べている。
なのに、なのに…どうして誕生日なんて大嫌いなんだ?
俺はその意味がよくわからない。
「まぁ、とりあえず、怒りながら食べるのは良くないから先に食べような」
俺は彼女に食べるようにと促した。
「うん、でも…だって…」
「まぁ、食べてからお茶をお代わりしてからでいいよ。大嫌いの理由を教えて?」
俺は彼女が大好きだという笑顔を貼りつかせて彼女を見つめる。
「うっ、うん。分かった」
彼女はポンと音を立てたように頬が赤く染まる。
ここが喫茶店じゃなければ、抱きよせてしまいたくなるけど、ここでは我慢。
はにかみながらもくもくとケーキを食べている彼女を今日も可愛いなぁと思いながら見つめていた。
「あのね…。私の誕生日ってクリスマスに近いでしょう?だから、今日お祝いするとクリスマスがないのよ」
彼女がポツリと漏らした本音に俺はホッとした。
彼女が嫌いと言った内容は俺の事では確実にないことだけは分かったからだ。
「君は、クリスマスは私と一緒に過ごしてくれますか?」
「もちろん、そのつもりだけど?何かリクエストがあるのかい?」
「何も。何もないよ。ただ…一緒にいて欲しい。それだけなの」
彼女が一緒にいてくれるだけでいいという言葉の真意を俺は知りたい。
「何か俺に隠していないか?」
「隠していない…よ」
歯切れの悪すぎる返答はどう考えても何かを隠している事は分かった。
俺はそれを聞く事が出来る関係ではないということだろうか?
それとも、俺は彼女に信頼されていないのだろうか?
俺の頭の中では、まとまらない答えがぐるぐると回っていた。
「本当に誕生日が嫌いなのは、プレゼントが一つになっちゃうだけ?」
ケーキを食べている彼女に対して俺はもう一度聞くことにした。
何となく…それだけじゃない気がしたからだ。
「だって…なんだもの…」
消えそうな声でやっと彼女は言葉を紡ぐが肝心な事が聞こえなくて、却ってイライラしてしまう。
「ごめん、ちゃんと聞こえなかった。俺の耳元で言って」
俺は彼女の耳元で囁いた。瞬く間に彼女の顔は真っ赤に染まってしまう。
その顔が可愛くて、頬に唇を合わせたくなる衝動を今はぐっと堪える。
「だって、私の誕生日がくると、差があるんだもの」
差?差ってなんだ?身長と体重はそりゃ当然だろう。
女子としては平均的は彼女と男子としては若干背が高い俺とじゃ差があるのは当然だ。
「見た目の差じゃねぇよな。その差は一体何だ?」
「だから…私が先に生まれたってのを実感するのが嫌なの!!」
彼女が言った一言で俺はようやく納得した。
彼女は俺より先に生まれている。だから誕生日が来ると先に年を取るわけで…その年齢差が嫌だと言いたかったらしい。
「それを言ったら、元も子もないだろうが」
「そうだけども、でも…。私とあなたが一緒にいると同い年に見て貰えないでしょう?だから今日はそれを痛感させられるから嫌なの」
これは…いわゆる乙女心と言うものだろうか?
これを完全に理解することはかなり難問のような気がしてきた。
「それはこれからもずっとついて回る事だな。悪いけど、慣れるしかないな」
「そうだよ。そんなこと分かっているよ」
彼女は頬を膨らませて拗ねている。またその姿がかわいい。
「けれども、そんなことで拗ねているお前もかわいいぜ。これからも俺がお前の誕生日を祝ってやるよ」
「私だって、あなた以外とは過ごしたいと思わないから」
俺にそう言ってから彼女は満面の笑みを浮かべて俺を見ていた。
今は誕生日が嫌いといった彼女が、克服してくれるのはそれから更に5年ほどたった後の事。