VN-2082
ヴァリアブルシップ内 メインルーム
アイナたち4人は、生命体への意識挿入時の視界の記録から、生命体の形態及び行動の解析とともにこの時間での干渉について話し合っていた。
「この時代の表記に従うと、南北アメリカ大陸、アジア大陸、ヨーロッパ大陸、アフリカ大陸がほぼ同じ状況だと考えられる」
大型モニターに表示されたこの時代の地球全体の地図を見ながら、アス、シロウそしてユーリがアイナの説明を聞いている。
初期の頃に5箇所で光っていた大きな赤いマーカーは小さなものとなり、その代わりそれぞれの大陸全体に広がり全てを赤く染めていた。
「残りはオーストラリアと小さな島々だが、地球はほぼ壊滅状態と見ていいだろう」
「わずかな干渉という話でしたが、とてもわずかとは思えませんね」
「あくまでも時間への干渉だ。その流れから見たらほんのわずかなのだろうが・・・」
アイナはアスの言うことももっともだと思った。これがわずかな干渉なのだろうか。
「でも、この生命体がこのまま生存を続けたら、人類そのものが滅亡し、我々の存在も消滅するのではないでしょうか?」
シロウは未だに理解が十分出来ていないタイムパラドックスを心配していた。
「わたしたちの時代に今回の干渉からの変化が生じれば、生命体はその時点で強制終了される。その心配はないと思うが」
作戦進行中に突然自分自身の存在がなくなる・・・、それはアイナも気にかかっていたことだった。
「回収の紐が引っ張られるのを待つしかありませんね」
この空間では、自分たちは何も出来ないのだ。
「あ、形態と行動の解析が終わったようです」
ユーリはレンダリングされた生命体VN-2082をモニターに映し出した。
「うわ」
その姿を見て、ユーリが思わず声を出した。
他の3人にしてみても、それは意識の挿入時に何度も視界に映っていたものだったが、いざ詳細な3D画像で見るとその凶暴な姿に背筋が冷たくなった。突然こんなものが目の前に現れた人々は、どれだけの恐怖を感じたことだろう。
ユーリは生態学を専攻していたので多種の生物を見てきたが、VN-2082の形態はあまり気分の良いものではなかった。目を背けながら生命体の画像を小さくすると、その横に大きく形態学的な特徴のテキストを表示した。
VN-2082 形態的特徴
体長 10~13メートル 尾長 5~7メートル
体高 3~5メートル
被毛 短く光沢を帯びた黒
骨格 過去に存在したトカゲのような体系をしているが四肢がやや長い
前肢後肢ともにかなりの筋力を持ち、前肢の爪は鋭く破壊力が高い
また、四肢によって行う飛距離は、垂直方向50メートル、水平方向100~150メートルを超える
感覚器 目は赤く、その行動から視力は高いと考えられる その他は情報不足
消化器 情報なし
生殖器 情報なし
生態的特徴
繁殖 情報なし
寿命 情報なし
社会性 情報不足 一つの目標に向かうことから集団行動を取る可能性あり
知能 情報不足 行動様式から高い可能性あり
『こいつらは、一体なんなのだろう・・・』
アイナはパンドラから発生したこの生命体の存在が不思議でならなかった。
本来、生物は長い歴史の中で進化、分化を繰り返しその時々の環境に合った形態へと変わってゆく。しかし、VN-2082は、いくら自然発生と言ってもそのきっかけはヒトが造ったもので、またその特性も正規のルートで獲得したものではない。そんな生命体が、これからどんな行動をとるのか想像も出来なかった。
『もしも奴らが人類を全て滅ぼして地球上の唯一の生命体となったら、ひょっとしてわたしは奴らの進化した子孫となるのだろうか』
アイナは自分の中にVN-2083の凶暴な姿が隠れているような気がして吐き気がした。
「アイナ隊長。気分でも悪いのですか? 顔色が」
ユーリがアイナの変化に気付き心配した。それにはアスも気付いていた。
「いや、大丈夫だ。いろいろあって少々疲れたかな」
アイナは取り繕うように言うと、姿勢を正した。
「VN-2082の行動に注意。特に繁殖の行動が見られたら神経再構築の発現のチャンスだ」
「了解」
アイナはすぐにいつもの調子に戻った。
モニター上のVN-2082を示す無数のマーカーは、いっときに比べ移動の動きが落ちて来ていた。




