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インサート 2


 土煙が舞う中、崩れた建物が瓦礫となって広がっている光景を視界が捉えていた。

 その間を数え切れないほどのトカゲのような黒い巨大な生物が、あるものは瓦礫の上を這い、またあるものはかろうじて形の残っている崩壊したビルを飛び、凄まじい速さで移動していた。

 目に映っている巨大な生物は、意識を挿入した自分の姿なのだ。

 「こいつらがやったのか・・・」

 急にアイナの目の前に空が広がった。

 「飛んだ」

 アイナが意識挿入した個体がジャンプしたのだ。

 すぐに地面が迫った。

 「運動場? いや学校の校庭だ」

 着地したと思うと、すぐに校舎目掛けて再び飛び上がり、腕を振り下ろすと壁を破壊した。

 大きく壁が崩れ、土煙が舞う。

 風が土煙を追いやると、穴のあいた校舎の中には驚きそして恐怖で泣き叫ぶ小さな子供たちがいた。

 そして、その直後、子供たちは一瞬にして消えた。

 続けてさらに校舎を破壊する。逃げ惑う子供たち。それも、また一瞬にして消えた。

 振り返る。校舎から校庭へと逃げる子供達が見えた。教師が必死の形相で誘導している。

 全て、消えた。

 「これが捕食なのか? それとも吸収?」

 アイナは自分の意識に飛び込んでくる光景に戸惑った。


 アスはショッピングモールの駐車場にいた。

 人々は押し寄せる得体の知れない生物にパニックになっていた。

 子供を庇いながら恐怖に怯える女性と一瞬目が合った。懇願しているようだった。

 すぐに視界が流れた。

 次に目に入ったのは、子犬を抱えながら泣き叫ぶ少女だった。

 また視界が流れる。

 老人を押し退け逃げようとする男性。その直後その男性は転倒し、別の男性が踏みつけた。

 みんな一瞬で消えた。

 視界に別の生命体が見えた。足元には逃れようとする人々。

 生命体が大きく口を開いた。

 その直後、周囲の人々が跡形もなく消えた。

 「口を開くと消える? 食べているということか?」


 シロウが初めて見えたものは、4車線の道路上で動かなくなったたくさんの自動車だった。

 車を諦めて次々と道路に飛び出す人々。

 バスも動かない。バスの出口から、押された老婆が転げ落ちた。横たわる老婆を気にかけることなく逃げる乗客たち。

 「何をしている」

 そう思った瞬間に、人々は消えた。

 視野が動き、放置されたトラックにタンクローリーがぶつかった。火花が飛び、タンクから液体が漏れる。そして引火。火柱が上がった。

 それも一瞬に消えた。


 「隊長。これは、一体何が起こっているのですか?」

 「次々と人を消している・・・」

  アスもシロウも声が震えていた。

 「動揺するな」

 アイナは自分に言い聞かせるように言った。

 「これがわたしたちがここに来た目的だ。今逃げ惑っているこの世界の人々が、未来のわたしたちを苦しめているのだということを忘れるな」

 アイナが吐き捨てるように言うと、校舎を全て破壊したアイナの個体は次のビル群に向かって動き出した。学校にはもう誰も存在しなかった。

 「わたしたちの行っている干渉は、この時間にわずかな歪みを生むに過ぎない。人々はこの瞬間に消えただけで、時間の流れの中で完全に消滅したわけではない。どこかのタイミングでいずれ復活する。大きな時間の流れの中で見れば、消えるのはほんの一瞬のことだ」

 アイナはノジマ所長から聞いたことを思い出していた。しかし、その説明が十分に理解できているわけではなかった。いや、ほとんど理解できていないと言ってもよかった。

 『この怒りに理解なんていらない!』

 それはこの世界の人々にとって理不尽な怒りだった。しかし、アイナにしてみれば十分な理由だった。

 『・・・わたしを否定するな!』

 急に視界が横に流れた。生命体が振り返ったのだ。遠くに戦車が見えた。すでに砲弾を撃ち出しており目の前に迫った。

 『当たる』

 すぐにまた視界が流れた。そして少し離れたビルが砲弾によって破壊されるのを見た。

 「あの弾を避けたのか」

 その瞬間に生命体は大きくジャンプし、右腕の巨大な爪を戦車に突き刺し破壊していた。

 アイナは生命体の驚異的な俊敏さに驚いた。

 「隊長。上空に大型の輸送機が数機。生命体が見上げています」

 「こちらでも確認。自分の個体はビルを登っています」

 リアルな視界に、3人は実際にその視野の世界にいるように感じていた。

 アイナの個体も反応したようだった。視界の中には上空を見上げる幾つもの生命体が見え、高いビル近くの個体は素早い動きでビルの壁面を登っていた。

 周囲を見渡したアイナの個体は一つの高層ビルを見つけそこにジャンプし壁に取り付くと、すぐさま登り始めた。周囲の個体も一斉に上を目指す。

 やがて最上部に到達すると、輸送機が下部ゲートを開いたところだった。格納庫内がはっきりと見えた。

 「あれは、核だ。核を使うつもりだ!」

 アイナが思わず叫んだ。

 「ここで核を使うなんて、どうかしてる」

 シロウも核を確認したようだ。

 「汚染は成れの果て物質となり未来へ続くのだぞ」

 アスの声は怒りに満ちていた。

 「今の状態では生命体をコントロールできない。阻止できない!」

 見えるだけで何も出来なかった。

 そして、核爆弾が投下された。

 『これではかえって未来の状況を悪化させるだけだ・・・』

 アイナは唇を噛んだ。

 急に視界が流れる。

 落下する爆弾が目の前に迫った。アイナの個体が大きくジャンプしたのだ。

 「なに?核に取り付いた?」

 徐々に視界が暗くなる。次々と生命体が同じように取り付いて来ているのだ。

 宙に浮くように落下スピードが急激に落ちた。

 「核に張り付いています。何をする気だ」

 地上から見上げるアスにはその状況がはっきりと分かった。

 「爆発するぞ」

 しかし、大きな塊を纏った核爆弾は、爆発のタイミングを逃し緩やかに地面に落ちた。それと同時に塊は弾けるように周囲に飛び、その一つ一つは何事もなかったかのように次の目標に向かって進み出した。

 アスファルトの道路には、核爆弾がそのままの姿で転がっていた。

 一瞬の出来事だった。

 次に投下された核爆弾も同様だった。

 「不発弾?」

 「いや違う。これが変数内の値に入っていた吸収のプログラムだ。核の反応前にそのエネルギーを全て吸収したのだ」

 アイナはこのプログラムを仕掛けたノジマと、それを忠実に進化させたこの生命体に強い畏怖の念を感じざるを得なかった。

 「ユーリ、挿入を解除してくれ。他を見たい」

 「了解。エクストラクトします」

 3人の意識はC・コクピット内の本来の肉体に戻った。

 「いいぞ。すぐに送り出してくれ」

 「スキャン。別個体補足。インサートします」

 そして、すぐに別の生命体に意識が挿入された。

 こうしてこの地球上で起こっている信じられないような出来事を、次々と事実として確認していった。

 



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