景色
西暦2727年8月 地球統合本部本部長室
「本日も何も変化は現れておりません」
レジェ・シノハラは今日も同じ報告を、本部長であるコウゾウ・オオカワに言わなくてはいけなかった。
「あれから3ヶ月か」
オオカワはデスクの後ろの窓から外の景色を見ていた。高台にある統合本部からは海を見下ろすことができた。わずかに波を立てる海面は夕陽を浴びてオレンジ色にキラキラと輝いていた。
オオカワは斜陽のこの景色が好きだった。
「この時間のこの風景を綺麗だとは思わんか」
予期せぬ言葉にシノハラは返事に困った。
「あ、自分は、その、そのようなことを感じる余裕がなくて・・・」
オオカワはシノハラの答えを期待していた様子を見せずそのまま続けた。
「数百年前、この景色を取り戻した人類は、これで地球を救えたと思った。しかし、一見美しく見えた景色の中に凶悪な小さな汚染物質が大量に含まれているとは想像もしなかっただろう。数十年前、その存在に気付いた人類は愕然とした。それは、すでに取り返しのつかないほどの不可逆的ダメージを、人類に、いや地球そのものに長期にわたって与えてしまっていた」
海の端に太陽がゆっくりとその姿を沈めてゆく。オオカワの好きな景色が濃紺に染まる。
「人類の進化は環境の汚染だと言ってもいいだろう。その一方で浄化することも行ってきた。つまり、人類の歴史は、汚染と回復がセットで繰り返し続いてきたわけだ。しかし、今となっては、もうセットではなくなってしまった」
オオカワは振り返るとシノハラを見た。
「所詮、過去を変えるなんてことは、夢物語なのかもしれんな」




