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【BL】くしゃみ二周年記念番外編 DIVE into Honey Moon Accident!(全3話)  作者: 城山リツ
DIVE into Honey Moon Accident!

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3/4

後編 イケメンをオレにください

「じいちゃぁあーん!!」


 ミチルの叫びはペルスピコーズ中……いや、カエルラ=プルーマ中に響いたかもしれない。

 そんなマゴのSOSを、マゴ溺愛おじじ(見た目はコドモ)が聞き漏らすはずはなく。


「うえーん、じいちゃーん!」


 ノックもせずに執務室に乱入してくる愛しのマゴを、法皇エーデルワイスは咎めずに、かと言って「おー、よちよち♡」とかも言わずに、()()()フラットに接した。


「如何した、ミチル?」


「あのねっ、あどで、おで……おでっ」


 可哀想に、大きな瞳に涙をたくさん溜めて……とか思ってはいる。それでも法皇はマゴの前で尊厳を崩さない。

 ここにいる限り、ミチルが傷つく要因はない。であれば、またくだらないワガママで泣いているに違いないからだ。

 

 つまり、正しくは「阿呆で可哀想に」となるのだが、「阿呆な子ほど可愛い」とも言う。

 エーデルワイスのミチルに対する愛情はそんな感情から来ている。


「何をそんなに泣く? 話してみなさい」


 ここでようやくエーデルワイスは椅子から立ち上がって、泣くミチルの手を取った。

 自分より背丈も手も大きいマゴを、慈愛を込めて慰める。些か妙な気分であった。


「アアーン! お、オレ、はあ……ッ! なーんも出来ないよー!!」


 肉親の体温に触れたミチルは、いっそう豪快に泣き出した。

 何も出来ない、とはどういう意味で言っているのか。エーデルワイスは辛抱強く、ミチルの言い分を聞いてやった。




「ふむ、そうか。アルブス王の進言なら、ワタシの所にも来ている。ペルスピコーズは本来修行の場、僧達の邪魔にならぬように、また異世界から来たお前が気兼ねなく暮らせるように、と例の島の提供を申し出ている」


「うん、それは……ねっ、すごく嬉しい、ずびび、よっ、でもべ、ぶびびっ」


 鼻水ズビズビのミチルは、辿々しくも曽祖父に訴える。


「あんね、おで、島で暮らず、のに、なんも、出来ない……ゲホゲホ!」


「ふむ……島の件は、まずお前がその土地を気に入るかが先だ。アルブス王が何もかも用意すると言ったのだが、それでは王子が大きな優位性を手に入れてしまう。だから、土地以外の判断や暮らすための手法はカリシムスに任せよ、とワタシが指示したのだ」


「……! じいちゃんも一枚噛んでたの!? ひどいや、黙ってたなんてええ!」


 エーデルワイスは丁寧に説明してやったつもりだった。だが、ミチルが気にしたのはそこではない。裏に曽祖父がウッシッシといたような状況に憤慨した。もちろん、大袈裟な妄想による濡れ衣である。


「いや、黙っていたというか、一昨日出たばかりの話でな……」


「ああーん! じいちゃんもオレには何も出来ないって思ってるんだあぁあ!」


 思ってるか思っていないかで言ったら、まあ、思ってはいる。

 だが、それは当然であって仕方がない事である。カエルラ=プルーマに無理矢理召喚されたミチルに、異世界での生活能力を求めるのは酷というもの。幸いにもミチルには六人も下僕(夫♡)がいる。彼らに任せておけば、愛するマゴは安泰……だとエーデルワイスは思っていた。


 ミチルの未来はこれからだ。

 ゆっくり馴染んでいけばいい。カリシムス達と暮らしながら、そのうちに何か「生きる糧」のようなものが見つかるだろう。それは物理的な労働でもいいし、精神的な趣味でもいいと、エーデルワイスは楽観視していた。だってワタシのマゴは阿呆だから。


「オレだって、みんなのために何かしたいよお! ううん、しなくちゃいけないんだよおお!!」


 ところがいざ窮地に立って、マゴには急速に自立心が芽生えようとしている。

 これにはエーデルワイスも感動せざるを得ない。救いようのない甘ったれだと思っていたら、意外と考えられるのだなあと、マゴ可愛さに曇っていたエーデルワイスの意識は突然晴れの兆しを見せた。


「オレはァ! みんなに大事にしてもらうんだから、オレも同じようにみんなの役に立ちたいのぉお!」


「エライッ!」


 急に轟くエーデルワイスの声。ミチルは驚いて泣き止んだ。


「その意気やヨシ。だが落ち着けミチルよ、焦る必要はない」


 せっかく芽生えた成長の種。焦って暴風に曝し、摘み取られてはいけない。

 こう考える時点でエーデルワイスはかなり甘やかしている。


「何も出来ない自分」を見つめ直すのはいい。それを家族に泣きついてどうする。自分で考えて一人前だが、阿呆のミチルにそれを望むのは厳し過ぎる。

 こうも考えるエーデルワイスはミチルを完全にナメている。


 だから、この程度でもエーデルワイスは感動するのだ。そして我がマゴがいっそう成長出来るように、いそいそと助言してやるのが溺愛おじじ・えぇじいちゃんなのである!


「まずはカエルラ=プルーマの環境に慣れなさい。お前はお前のカリシムスを頼っていいのだから。そうしてから少しずつ、彼らに返してやるといい」


 だが愛するマゴはワガママなのだ!


「ううう……やだあ! オレも今、なんかしたいんだぁ! でないと不安なのぉ、こんな気持ちじゃ、みんなと孤島でラブラブ生活なんて出来ないよお……!」


 こんな様子の人間を見た事がある。そう、結婚前の若い娘だ。環境が変わるのを恐れて、漠然とした不安に押しつぶされている。

 今のミチルもそうなのだろうとエーデルワイスは思った。


 結婚か……

 まあ、似たようなものか。


 途端にエーデルワイスはもの寂しい思いに打ちひしがれる。ミチルを未だここに留め置いているのも、エーデルワイス自身がミチルを手放したくないと思っているからだ。

 だが、ここらが潮時。阿呆の子に芽生えた自立心を信じて、羽ばたかせる時なのかもしれない。




「ミチルよ……お前が不安を感じているのは、心残りがあるからではないか?」


「心、残り……?」


 ミチルは涙が渇き始めている瞳をぱちくりさせて聞き返す。

 ああ、なんて可愛らしい仕草。ワタシのマゴは世界一。エーデルワイスはそんな想いとともに、一際険しい谷へマゴを導く事を決めた。


「お前は、まだカリシムス達に出来る事……成すべき事が残っているのではないか?」


「んん……?」


「お前のくしゃみ転移はまだ不完全。意図しないタイミングで、あるいは志半ばで放り出してきた事もあるだろう?」


「ああ……ッ!」


 言われてミチルは、今のモヤモヤした不安が形を取って現れるような気がした。


 例えばカエルレウムで。

 ジェイの命を狙っていたのは誰だったのか。


 続いてルブルムで。

 アニーの両親は何故、死ななければならなかったのか。


 アルブスで。

 エリオットと父王を、ウツギを使って誰が仲違いさせていたのか。


 フラーウムで。

 ジンの汚名はまだ晴れていない。


 ラーウスで。

 ルークにかけられた呪いの正体は。


 チルクサンダー。

 彼の失った記憶とは。


 解決出来なかったイケメン達の大切なこと。

 このまま孤島に行ったら、全て有耶無耶になってしまう。

 イケメン達はそれでもいいと言うだろう。

 でもオレは良くないっ!!




「わかったよ、えぇじいちゃん!」


 ミチルの瞳が蒼く光る。希望を灯して立ち上がる。


「オレ、もう一度みんなの国に行く!」


「おお……ミチルよ」


 頼もしい姿にエーデルワイスは感動が止まらない。人前で泣かない修行をしてきた法皇で良かった。


「大好きなみんなの周りにあった、全部の心配事をオレがキレイに解決するんだ!」


 で、出来るかな……? エーデルワイスはほんのり不安にもなった。

 だが、走りだそうとするミチルはもう止まらない。


「それで、みんなが安心して島で暮らせるように。みんなの周りの人にお願いしてくる!」


「お願い……?」


「うん! イケメンをオレにください……って!」


 結婚の前に、ちゃんとご挨拶しなくっちゃ。

 大丈夫、オレが幸せにします……ううん、みんなで幸せになりますって!


「そうか……」


 エーデルワイスはその言葉に心から安堵する。

 さすが、ワタシのマゴ。世界一の()()を持っている。




「みいぃーちぃいーるーぅうううう……ッ!!」




 突然バッタンと扉が開く。

 六人の号泣イケメンが雪崩れ込んで来た。


「シウレンよぉおお! 立派だぞぉお!!」

「ミチルゥ! 我は感涙が止まらぬぅう!」

「ミチルー! 俺はいつでもお婿に入るよぉ♡」

「むおおぉ……! やはりミチルより尊いものはないっ!」

「ミチル、兄さん言ってた、これがけじめ……ッ!」

「よく言ったぜ、さすがおれ達のミチル!!」



 

「みんなぁ♡」


 六人のイケメンがいれば。

 オレに怖いものなんか、ない。


「よぉーし、行こう! イケメンの故郷(ふるさと)へ」


 凱旋(ハネムーン♡)だーっ!!







 ……と盛り上がっている所、申し訳ないが。


「どうやって?」


 ミチルは両手を挙げたまま、はたと止まった。


「そうだな……」


 法皇としての修行の賜物、いち早く冷静に戻っていたエーデルワイスが考えながら答える。


「アルブスとカエルレウムであれば、ペルスピコーズの転移術で移動が可能だ。それ以外の国とはあまり国交がないのでな……」


「フラーウムはこことは陸続きだが、間のアーテル帝国が邪魔だな」


 ジンもまた冷静に立ち直し、そう続けた。


「ラーウス、結構離れてる。大きな河、くだります」


「ルブルムなんてもっとだ。海の向こうだもん」


 ルークもアニーも、途端に落ち込んだ。


「我の……故郷って、ドコ?」


 チルクサンダーの問題は置いておくにしても。


「むむう……! 泳ぐしか、ないのか……ッ」


 ジェイの脳筋思考はないものとされた。




「ハイハイ、無駄な思考、ごくろーさん!」


 そこへ(グルース)の一声、ではなく百舌鳥(ラニウス)の一声。エリオットの華麗なる考察が披露される。


「おれはさっき、ミチルにキッスしまくった」


 だから!? と他のイケメンは少しばかりのジェラシーで返事する。


「可愛すぎたから鼻も食べてみた♡」


 それで!? と他のイケメンはギリリ歯ぎしりで続きを促す。


「ミチル、よおーっく思い出せよ。おれがお前の鼻♡をあむあむしたらどうなった?」


「ふえっ、ええーっとお、色々ムズムズしました……」


 ぽっと頬を赤らめるミチル。他イケメン達はますますジェラシーに飲まれそう。

 しかし、エリオットはそれを意にも介さず、にまぁと笑って言う。


「そお。ミチルはくしゃみをしかけたんだ」


 つまり?


「ミチルは、おれ達が鼻♡をあむあむすると、くしゃみ転移出来るんじゃねえかなっ!?」


 な。

 なな。

 ななな。


「何ですってー!?」


 法皇もまとめて、みんなでびっくり仰天。

 かくして、ミチルの「イケメンに鼻♡をあむあむされたら転移出来ちゃうよ」修行が始まるのであるッ!!




 その修行の成果やいかに……




 そしてミチル達は無事にそれぞれの故郷(ふるさと)凱旋(ハネムーン♡)できるのか。






 DIVE into Honey Moon Accident!

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― 新着の感想 ―
えぇちゃん、ミチルは可愛いアホと思ってるんだなw でもミチルも成長して嬉しそう。 そして1.5部へ自然に誘導(笑) そう、ミチルの戦いはこれからだ!がんばれ!
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