中編 マリッジ・ブルー!?
親愛なる息子、エリオットへ
此度はカリシムスの正式認定おめでとう。
同時に六人ものカリシムスを認定されたセイソン様の懐の深さに感謝しなさい。
セイソン様はお前を他のカリシムスと一切差をつける事なく、平等に愛してくださるだろう。
さすがはセイソンたるミチル様。精一杯お仕えしなさい。
アルブスからカリシムスが出現した事は大変な名誉である。
だが、いつまでも法皇様にご迷惑をかけては英雄の名が廃る。
アルブス領のとある島をセイソン様ご一行に用意させていただいた。是非、一度だけでもご視察いただくように申し上げなさい。
我がアルブスの所有する孤島「インスラ=アルカーヌ」は気候も良く、島民もみな穏やかである。
きっとセイソン様もお気に召すだろう。
追伸 ミチル様
此度の快適な環境を献上したのはアルブス王オルレアでございます。
我が息子、エリオットを何卒よろしくお願い申し上げます。
「……長くない?」
エリオットの握りしめた手紙を皆で回し読みした後、アニーは眉をひそめながら言う。
「国王陛下からの手紙であれば、これくらいは普通だと思うが」
ジェイが言うと、アニーはもう一度手紙をしげしげと見つめて唸った。
「なんかさあ……結局何が言いたいわけ? コレ」
「む? エリオット殿下への祝辞と、我々の拠点について大変ありがたいお申し出だと思うが」
「ええー、これがあ?」
字面でしか内容を理解できないジェイと、意味がわからないながらも文面の奥にある感情を察したアニーは、お互いの見解の齟齬について首を傾げる。
「ちょっと……怖い、です」
ルークもまた、漠然とした恐怖をその文面から感じ取っていた。
「追伸のトコ、オレ、背筋がゾオっとしたんだけどぉ……」
手紙を読み上げてもらったミチルもまた、したためられた本人なだけあって、向けられた感情を正しく受け取っていた。
「まったく、一国の主がこのような嫌味満載の手紙をよこすとはな」
ジンは腕を組んで、静かにそう呟いた。するとアニーが鬼の首をとったかのようにはしゃぐ。
「やっぱし? なーんか、トゲがあるなーって思ったんだよねー」
アニーから手紙を取り上げたチルクサンダーは、冷静にその文面の「真の意味」を紐解いた。
「つまり要約するとこうか? 『贅沢に六股などしおって、うちの息子が一番に決まっている。賄賂をくれてやるから息子を特に可愛がれ』……と」
それを聞いた一同は「ヒエエ」と震え上がった。
六人のカリシムスの中で、一番身分が高いエリオットの後ろ盾であるアルブス国王。ペルスピコーズに従う重臣的存在でもあるVIPに睨まれれば、さすがのイケメン達も身構える。
「ムッフッフ、父上の温情にたまげただろう! おい、オメーらは島に行っても所詮は居候だからなっ!」
得意満面のエリオットの言葉に、皆一様に「ええー」とぶうたれた。
ミチルが六人を平等に愛してくれるのは信じているが、資産の面でエリオットだけに大きな顔をされるのは如何なものだろうか。イケメン内でヒエラルキーが出来るだなんて言語道断。それはミチルからの愛を疑う行為である。
「アーッハッハ! さすが父上、おれのために島を提供してくれるだなんて! よっ、国王!!」
ふんぞり返って笑うエリオットが持つ封筒から、別の紙がハラリと落ちる。
ジンはすかさずそれを拾い上げて読み始めた。
「『再追伸』? 『なお、セイソン様がインスラ=アルカーヌをお気に召したなら、島の一等地を好きに活用していただきたい。皆で過ごしやすい住居を皆で建てるがよかろう。あしからず』とあるが」
「うん?」
「ドウイウ意味?」
ジェイとアニーが再び首を捻る。
「つまり、土地は提供するが居住する建物は己でなんとかせよ、という事か」
チルクサンダーの説明に、ミチルは驚いてしまった。
「えっ? じゃあ、そのアルケナイ島に行っても、お城がドーンと建ってるとかじゃないんだ?」
「……そのよう、です」
ルークも頷きつつ、ますます顔が青ざめている。そんな土地だけもらっても、と言うように。
「ヴエエエーッ!!」
ルークよりもさらに、一気に青ざめたのはもちろん親愛なる息子のエリオット。父王の筆跡を丁寧に確認するも、その手は震えていた。
「ち、ぢぢゔべぇえ……」
「なるほど。悪くない条件だ」
だが、ジンはここでやっとニヤリと笑った。
「……だな。残る五人で家をなんとかすれば、俺たちは平等だ」
アニーもフフンと不敵に素敵な笑みを浮かべる。
「ふむ。島であれば木材などはたくさんありそうだな」
ジェイはすでに自分で建てる心積りで呟いたが、チルクサンダーから厳しい声が飛ぶ。
「新参者の我らが現地の環境を破壊してみろ、嫌われるぞ」
「むっ、なるほど……」
意外な優しさ(?)を見せるチルクサンダーに、ジェイは困りながら黙ってしまった。
そこへジンからの建設的意見が届く。
「まったく脳筋はこれだから困る。野蛮な腕力で掘立て小屋程度を建ててどうする。そこはきっちり、大工を雇って頑丈な住居を建てるのだ」
「何? よくは知らんが、かなりの金がかかるのではないか?」
チルクサンダーがそう問うと、今度はジンがふんぞり返る番であった。
「ふっふ。元役人の退職金を舐めるな。資材費と設計費くらいは儂が出そう」
そんな自慢を聞いて、ミチルは呆然としつつ考えた。
ジンは汚名を自らかぶって隠居していた。きっと皇帝から莫大な年金をもらっていたんだろう、と。
「はいはーい! マフィア御用達の俺の貯金が火を吹くぜ! 大工の賃金は任せてくれよ」
アニーの挙手を見て、ジンは満足げに笑う。
「フッ、貴様ならそう言ってくれると思ったぞ」
チルクサンダーを除けばジンとアニーは年長者の部類である。その二人の資金力を持ってすれば、七人が平穏に暮らせる住居を建てるのは難しい事ではない。男二人はガシっと握手で讃え合う。
「私は没落貴族なので……」
「我、何も資産がないので……」
こうなるといたたまれないのはジェイとチルクサンダーの巨体組。だが、そこに抜かりがあるアニーではない。
「とは言え、だ。人件費ってのはかなりかかるし、節約するならここしかない。だから、ジェイとチルクサンダーはその馬鹿力で大工十人分の働きをしてくれよな」
その言葉に、二人の表情はパッと輝いた。
「なるほど、承知した……!」
「フッ、我の力を顎で使おうとは不遜だが、仕方なかろう」
超絶ブラックな肉体労働を要求された二人だが、多分大丈夫なんだろうなあ、とミチルはぼんやり考える。
なんだかトントン拍子で話が進んでいるけれど、ミチルはまだ実感が湧いてこない。
「あの……ぼく、何すれば?」
恐る恐る手を挙げてルークが尋ねる。するとジンが口端を上げて答えた。
「貴様の実家は何だ?」
「……ああ! わかりました、家財道具、内装、父さんの伝手で用意します!」
ルークの実家は泣く子も黙る貿易商。雑貨でも家具でもなんでもござれである。
新婚生活に必要だと言えば、家一軒分どころか城ひとつ分ほどの調度品を父・マグノリアは用意するだろう。
「完璧だ……完璧に平等だ」
アニーはジンと立てた計画に自画自賛が止まらない。
「ふっ、忙しくなるな……」
ジンはすでにやる気に満ちている。
「ミチル? どうした?」
だがミチルは。
「……」
エリオットに声をかけられても、答えられずにいた。
それでも、何かを言わないといけない。そうしてミチルが選んだ言葉は。
「なんか……不安……」
「不安? 何が」
エリオットは目を丸くしている。他のイケメン達も意外そうな目でミチルを見ていた。
ミチルなら、「ふおお」と興奮して喜んでくれると思っていたからだ。
「オレだけ、なんにも出来てない……」
イケメン六人からの、平等な献身。
それにオレは本当に平等に愛を返せるのか?
みんなの事は大好き。この気持ちに偏りも大小もない。
みんな、みんな、大好きだ。
みんなとずっと一緒にいたい。一緒にいるための計画に。
オレは何も出来ることがない。
貰ってばかり。ずっとみんなから貰ってばかり。
だって、オレはこの世界に何も持たずにやって来たから。
オレがみんなのために出来る事って、何?
ミチルはそこまで考えて頭を上げる。
六人の愛しい男達。
ミチルがそう聞けば、「側にいてくれればいいよ」と言うだろう。
でも、それは。言葉を選ばずに言えば。
「スパダリに甘えて何もしないただの平凡受け」なのではないだろうか!?
スパダリに依存して。
スパダリのためだけに生きて。
そこにオレの、オレ自身が感じる「存在意義」があるのか……!?
みんなを平等に愛す。
そのためには、オレもみんなと対等にならないといけないんじゃないかなっ!?
「ああーん!!」
ミチルは泣きながら走り出した。
不安で不安でたまらない。
あっ。
もしかして、これが、噂に聞く「マリッジ・ブルー」!?
「誰か助けてー!!」
ミチルは無我夢中で走った。
遠い背後でイケメン達が「ミチルー!」と呼ぶ声を振り払って。
「誰か教えてー!!」
オレはどうすればいい?
「教えて、えぇじいちゃーん!!」
頼れるのは、ノンデリでもたった一人の家族……!




