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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第二話 リロウと書庫整理2

「でも、その罰が書庫整理なんて、リロウにはむしろご褒美なんじゃないの?」

「そう思うだろう?」


 リロウは語気を強めた。


「ところが」


 そう言って、リロウは手近な本を一冊とって開こうとした。しかし、いっこうに開かない。


「何してるの?」


 その滑稽な様子にレリアは顔をしかめた。


「このとおり、魔法書を開くことができない魔法をかけられているんだ。これじゃあ、ごちそうを鼻先にぶら下げられた豚になった気分だよ。こんなの拷問だ。牛の世話のほうがずっとましだよ」

「たしかに」


 レリアは同情してうなずくと、リロウが持っていた本を手に取り、開いてみせた。古びた羊皮紙のにおいがつんと鼻についた。


「かわいそうに。たしかにリロウには拷問よね」


 と意地悪く笑った。

 すると、リロウはその本を奪うように素早くつかんだ。


「ちょっと見せて」

「禁止されているんでしょ?」

「別に読むことを禁止さているわけじゃないよ」


 と言って、頁をめくった。


「頁はめくれるのね」


 レリアは本をのぞきこんだ。しかし、書かれている文字はまったく読めなかった。


「なるほど!」


 突然、リロウはぱっと顔を明るくする。


「これはきっと神様のお導きに違いない。レリが本を開いてくれれば、僕は本を読むことができるんだ!」


 そして、レリアの手を情熱的に握った。


「ありがとうレリ。僕の天使。あと二ヶ月、ともにここで暮らそうじゃないか!」

「絶対に、嫌!」


 レリアは反射的に手を払いのけた。


「なんで私までこんなところに閉じこめられなきゃいけないの? しかも三ヶ月の謹慎って、いったい、何をやらかしたの?」

「いや……ちょっと、精霊の国から精霊を呼び出してみようとしただけだよ」

「精霊? こっちの世界にだって妖精はたくさんいるでしょ?」


 レリアはシーを思い出して胸ポケットをのぞきこんだ。こんな騒動があったというのに、シーはすやすやと眠っていた。


「別に妖精が欲しいわけじゃないんだ」


 リロウもつられてシーをのぞきこんだ。


「こいつはいつも寝てるね」


 と指で突こうとしたので、レリアはその手も払いのける。


「そういういい加減な気持ちで古魔法を試そうとするから失敗ばかりするのよ」

「別にいい加減な気持ちじゃないさ。それに、こっちの世界の妖精と精霊の国の精霊は違うものだしね」

「もとは一緒のものでしょ? 精霊の国の精霊がこっちに住み着いて生まれたのが妖精なんだってこの前、授業で習ったけど」

「全然違うじゃないか」

「何が?」

「それを確かめるために呼ぼうとしたんだ」


 リロウはむっとして言った。


「とにかく、私はもう帰る。今日の夕食は鹿肉のクリーム煮とレモンパイなんだから」

「肉」


 リロウは恨めしそうにつぶやいて、唾を飲んだ。


「僕の食事はしばらくパンとスープだけだ」


 とうなだれた。毎日、パンとスープを小間使い妖精が運んできてくれるのだという。


「おかげでこんなにガリガリだよ」

「それは、前からでしょ」


 レリアはにべもなく言うと、梯子の上の扉をどんどんと叩いた。


「あのー、誰かいませんか? 私、中級科のレリア・クラリウスです。ちょっと間違ってこの中に閉じこめられちゃったんですけど、出してもらえませんか?」


 しかし、どれだけ大声で叫んでも何の返事もなかった。


「無駄だよ。言っただろ? ここは最下層の書庫室で、博士号をとらないと入れないんだから。滅多に人なんて来ないよ」


 リロウは積まれた本をかきわけはじめた。周囲に埃が舞い、レリアはむせる。リロウはそれにもかまわずに本の山の中に入り、ごそごそとあさっている。

 ちゃんと書庫整理をしているのだろうか、とレリアはいぶかしく思った。

 リロウは白い埃をかぶって本の山から顔を出すと、赤い革の表紙に銀細工がほどこされた一冊を取りだした。


「出れないものはしょうがない。君が出られるくらいなら、僕はとっくに抜け出しているからね」


 と言い、


「だから、あきらめて、この本を開いてくれない?」


 と満面の笑みを浮かべた。


「嫌です」

「強情なんだから」


 二人はしばらくにらみ合った。

 しかし、先にレリアのお腹がぐうっと鳴り、同時にシーが目を覚ました。空っぽの胃の中を思うと、急に悲しい気持ちになった。


「私、ここで死ぬんだ」


 レリアは膝を抱えてうずくまった。シーが空腹をうったえてキィキィ鳴いている。

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