第十四話 書庫整理の罰2
「たしかに、司法長官はその手の魔法がお得意ですからね。埃と神話を嫌っていなければ、司書になっていただきたかったくらいです」
「実は、兄さんが秘密裏に持ち出していたという可能性はありませんか?」
キアランがそうたずねると、キアスは不思議そうに眉をしかめた。
「言いにくいことですが、この書庫にある本は古すぎるあまり、下手に魔法をかけることができません。そのために、厳重に管理されているとは言い難いのです。博士号を持たなければ入れないという制限はありますが、持ちだそうと思えば、誰でも簡単に持ち出せるのです。しかし、なぜ、司法長官が私にたずねておきながら、そのようなことをする必要があるのでしょうか? 秘密にしたいのであれば、司法長官ほどの方ならばいくらでもできるでしょうに」
その反論に答えることはできなかった。
「キアラン様、グリーンヒルでのことは聞きましたか?」
はっと顔を上げると、キアスは見通すような茶色の瞳でキアランを見つめていた。
「実は、娘のリゼルもそこにいたのです。あの子がドラゴンの都について尋ねてきたのは、あの後からです」
キアスは静かに言った。
「他にも様々な噂話がここにはやってきます。私は司書長官として、噂話にはふりまわされないようにしていますが、どうやら、あなたはその渦中にいらっしゃるようですね」
「いえ、私はただの傍観者にすぎません。それなのに、渦巻く波に目を回して、足下さえおぼつかなくなっているだけなのです」
キアランは自嘲するように言った。
「リロウとレリアは、今、礼拝堂にいるようですよ」
「礼拝堂ですか」
「セリン司祭長官がお二人のことを見ているようです」
「セリン様はリロウの師でもありますからね。そこにいるなら安心ですよ」
「リロウは司祭官になるのですか?」
「まさか」
キアランは笑った。
「彼は伝承や古いものが大好きなだけで、信仰心はありませんよ。ただ、セリン様の話を聞くのが好きなだけのようです」
「ああ、たしかに彼は古い話をよく知っていますからね。司祭にしておくのはもったいないほどです。しかし、リロウの貪欲さには、彼も苦労したことでしょう。私もリロウの姿を見ると、思わず身を隠してしまいたくなるほどですから。彼に捕まると、図書館中を歩き回らされて、老体にはこたえますからね」
とキアスも続けて笑った。
「そんな彼が本を読むこともできずにここにいるのは、さぞ辛かったでしょう」
「そうですね」
とうなずいて、キアランは何か引っかかるものを感じた。
「リロウの知識欲は悪いものでしょうか?」
「まさか、知識を求める心が悪いものであるはずがありません」
「それが、混乱を引き起こしたとしても?」
キアスは懸念を浮かべた。
「何が言いたいのですか? まさかあなたも、王都の騒ぎはリロウのせいだとでも……」
「いや、そういうことではないのです」
キアランは素早く否定した。
「すいません。やはり私は混乱しているようです。自分でも何を言いたいのか……」
「突然呼び戻されて、休息もとっていないのでしょう。少し、お休みになられてはいかがですか? レンクス司法長官もまだ戻られないようですし」
キアランはうなだれた。自分ができることは、何もないのだろうか?
「そうですね。お忙しいところありがとうございました」
「いえ、何かあればいつでもお越しください。むしろ、歓迎しております」
そのとき、ふと心に浮かんだ疑問をキアランは口に出した。
「リロウに書庫整理をさせるという罰を考えたのはあなたですか?」
キアスは首をふった。
「セリン司祭長官ですよ」




