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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第十三話 礼拝堂4

「たとえばの話だよ。もしも、ミレスアロナで習った神話とは異なるものがあったとしたら……」

「リロウ! こんなところで何を言い出すの?」

「また何かに影響を受けたのですね」


 セリンは落ち着いて言った。気分を害した様子はなく、むしろ慈悲深い笑みでリロウを見つめていることに、レリアはほっとした。


 自重するようにとリロウをにらみつけたが、彼は心ここにあらずというように、礼拝堂の中を見回していた。

 やはり、まだ体調が戻っていないのではないだろうか、とレリアが思っていると、リロウはひどく冷静な瞳でセリンを見つめた。


「セリン様は、ドラゴンの都について何かご存じでしょうか?」

「ドラゴンの都ですか?」


 セリンはささやくように言い、天井を見上げた。その瞳には何か影が映った。それは、祭壇に置かれたろうそくの火の影であるようだった。

 セリンは視線を戻し、揺れる炎をしばらく見つめると、静かに二人に目をやった。静寂までもを虜にしたような眉目に、レリアははっと息をのんだ。


「はるか昔、精霊と魔法使いは契約を結び、良き友として共に生活をしていたそうです」


 セリンは神話を語るかのように静かに話しはじめた。


「契約ですか?」


 レリアがたずねると、セリンはうなずいた。


「セリン様はそのころの話をご存じなのですか?」

「ええ、少しだけですが」


 と言って微笑んだ。

 たしか、司祭長官がこの任についたのは、百年以上前だと聞いたことがあるが、いったい、彼はどれほど生きているのだろう、とレリアは疑問に思った。


 セリンほどの魔法使いならば老人の姿をしていてもおかしくはないが、その肌にはしわひとつなく、老いも若ささえも超越したような瑞々しい容姿を保っている。魔法によって姿を変えている者も珍しくはないが、セリンの美しい容姿はまやかしとは思えないほど神聖で気高く、ときに畏怖を覚えるほどの麗しさだった。


「精霊と魔法使いは互いに尊重しあい、よき友として共に暮らしていました。魔法使いは精霊との契約によって、魔法を発展させましたが、それは、精霊と共にこの世界の自然を守るためでした。ところが、いつしか、魔法使いたちは精霊を疎ましく思うようになり、諍いが起こるようになりました。精霊たちは居場所を追われるようにして、精霊の国に引きこもるようになりました。そして、ドラゴンの都が滅びると、完全にこちらの世界との交流を絶ったとのことです」

「それは本当の話ですか?」


 レリアは思わず聞いた。ミレスアロナでも礼拝堂でもこんな話を聞いたのははじめてだったからだ。

 レリアはポケットの中で眠るシーをちらりと見て、


「魔法使いと精霊は仲が良かったのですね」


 と言った。

 ところが、セリンは切れ長の目をふっとうつむけると、


「はるか昔の話です」


 と言った。


「セリン様はお詳しいんですね」


 リロウが言う。

 その声にはどこか緊張した様子があった。


「僕はつい先日、その話を本で読みました」

「本ですか?」

「はい、はるか昔の本です。僕はその内容について、どこまでが真実なのか計りかねています」

「神話に疑問をもったのもそのためですね」


 リロウは顔色を変えずにうなずいた。


「残念ながら、私たちにはそれを確認するすべはありません。伝えられた言葉をひたすらに信じるしかないのです。しかし、いくら灰にまみれようとも、真実は真実でしかありません。それが本当に価値のある真実だとすれば、おのずと明らかになるでしょう」

「待つしかないということでしょうか? 僕は何とかして真実を暴きたいと考えているのですが」


 過激な言葉にレリアは緊張感を覚えた。そのとき、太陽が雲に隠れたのか、礼拝堂に影が落ちた。か細いろうそくの明かりだけでは足下は暗い。


「リロウ」


 ヴァリムの忠告を思いだし、レリアはリロウの腕をつかんだ。


「レリ、ドラゴンの都はこの国にあったんだ。それは、精霊と魔法使いがつくった都だった」

「精霊と魔法使いが?」


 突然の話にレリアは首をかたむけた。


「そうさ、この国にはたくさんの隠された歴史があるんだ」

「リロウ、またそんな夢見がちなこと言って」


 レリアが呆れて言ったが、それをさえぎったのはセリンだった。


「また新しい古の書を呼んだのですね。あなたは実に優秀な魔法使いです。さすが、王家の血を引き、偉大なる魔法使いの孫であるにふさわしい」


 セリンは感心したように瞳を輝かせた。

 その高揚した表情にレリアは驚き、そして、なぜか胸がきしんだ。


「いえ、真実にたどり着けなければ、知識など道に転がる小石と同じです」


 リロウは無表情で言った。

 レリアはふと疎外感を覚える。

 何もかもがおとぎ話のようにしか感じられないのは、自分の知識が足りないせいなのか。それとも、すでに踏みこんではいけない場所に立っているせいなのか。

 レリアは急に箒を手にしたくてうずうずとした。

 何も考えずに、ゴミも埃も謎も何もかもを捨ててしまいたい。でも、そのためには、ここは暗すぎる。

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