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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第十一話 亡霊との戦い4

 炎と影をまとった亡霊が嵐のように襲いかかってくるのを、夢でも見ているかのように見つめていた。


「リロウ!」


 きらめく稲妻が矢の大群のように背後から降り注いだ。

 はっとして振り返ると、そこにはマリンたちがいた。


「リロウ・クラリウス、しっかりしなさいよ」


 マリンに叱咤され、リロウはびくりと体を震わせる。


「この子たちは私が守るわ」


 レリアとリリがびしょ濡れになって倒れていた。そのかたわらに立ったリゼル・メミニーは懐から何種類もの石を取り出すと、結界を張った。すると、彼女たちの姿は忽然と見えなくなった。


「あの子は亡霊や悪魔から身を守る術にかけては一流なのよ。慣れてるから」


 驚いているリロウにマリンは片目をつむってみせる。リロウは緊張の糸がほぐれ、微笑みを浮かべるほどの余裕を取り戻した。


「君、アクアマリン持ってる? 肺を少し焼かれたみたいなんだ」

「ヘマしたわね」


 マリンはマントを脱ぎすてた。ネックレスの一つから水色の美しく透き通ったアクアマリンを外し、リロウに渡した。


 リロウはそれを胸にあてた。そして呪文を唱えると、アクアマリンは氷が溶けるように胸の中にすっと入っていった。

 リロウの灰色になった顔色が少し良くなった。


「ちゃんと弁償するよ」

「ダイヤモンドでお願いね」


 リロウが文句を言おうとすると、稲妻で金縛りにあっていた炎の亡霊たちがようやく動きだした。マリンの魔法をまねるかのように、矢のように鋭くなって襲いかかってきた。

 その前にふらりと立ちはだかったのはミオンだった。

 彼は全身を炎にかえて、矢の雨をのみこんだ。


「彼は赤の魔法使いだったね」


 リロウは感心したが、


「でも、あの子、あれしかできないのよ」


 とマリンはあきれたように言った。


「十分だよ、今はね。マリン、サファイヤとトパーズもくれないかい?」


 マリンはため息をついて、青いブレスレットと懐の袋からピンクトパーズのかけらをリロウに渡した。

 リロウはサファイヤと氷で剣と盾をつくり、悪魔払いの力があると言われるピンクトパーズで装飾した。


「ダイヤモンドのほうがいいんじゃないの?」

「僕はこっちのほうが相性がいいんだ」


 マリンは袋からターコイズの玉をひとつ手にとると、それを宙になげた。それに稲妻をあてると、稲妻は青い光を帯び、亡霊たちに向かって四方へ飛び散った。

 その光を避けるように亡霊たちが細く分かれたところをリロウが素早く剣で切り落とす。今度は霧のように散ることはなかった。


「浄化の魔法は効かなくても宝石は効果があるのか。贅沢なやつらだな」


 そうつぶやきながら、リロウは亡霊の懐部分へと切りこんでいった。

 炎がリロウをまとう。再び炎は内蔵に入りこんでこようとしたが、心臓に取りこんだアクアマリンがそれを防いでくれた。

 勇気を取り戻したリロウはさらに亡霊の奥へと踏みこんでいき、心臓部を探した。しかし、亡霊には芯となる魂や石などが存在するはずだったが、見あたらない。

 リロウは戸惑い周囲をめぐった。そこは、誰かの夢の中に迷いこんでしまったかのように、漠然とした不安で満ちていた。


 ――ここは、どこだ?


 炎が肌を焼く熱よりも、心細いような何かが心に落ちた。

 リロウは剣を振り回し、不安を払うように炎を切り裂いた。そのわずかな隙間に、何かの面影が見えた。


 ――なんだ?


 リロウは炎の幻影でできたカーテンを切り裂くように剣をふる。すると、切り裂かれた隙間に次々と何かの記憶が通り過ぎていった。

 そのとき、リロウは見覚えのある姿を見たような気がした。

 その隙間に手を入れて、のぞきこんでみると、そこにいたのは、幼い面影を残すリロウ自身だった。


 ――僕? いや……。


 その隣に走ってきたのは、レリアだ。

 今よりもずいぶんと幼い子供の姿だった。リロウは本を読みながら歩いている。足下の石に気がつかずにリロウは転んだ。その様子をレリアが笑って見ている。


 ――覚えがある。これは、僕の記憶だ。でも、なぜ?


 リロウは混乱し、後ずさった。

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