第十一話 亡霊との戦い1
リロウは地下室の書斎にこもったものの、黒い表紙を前にしてじっと考えごとをしていた。
レリアに開いてもらった本にはイチイの葉でつくった栞がはさんである。イチイの葉には魔法除けの力があり、こうしておけば、一度開かれた本が再び閉ざされることはない。ハリドに魔法を解いてもらったものの、念のためにイチイの栞ははさんだままにしてあった。
しかし、リロウは魔法書を前に途方に暮れるようにして、なかなか本を開くことができなかった。
マリンが言っていたように、なぜ自分の古魔法がドラゴンの遺跡とつながってしまったのだろうか、と考えていた。
――本当に、ただの失敗だったのか?
キアラン叔父の手紙によれば、父は黄昏の狭間から亡霊を呼び寄せたと考えているらしい。
あのとき、窓もない部屋の壁に、まばゆい黄金色の光がさした。たしかにあれは、黄昏の光と似ているような気もする。しかし、あの亡霊たちはドラゴンの遺跡からやってきたものだと、リロウはかたく信じていた。
黄昏の影は精霊の国との境目にできる「ゆらぎ」だと言われている。その狭間から亡霊があらわれることもまれにあり、ミレスアロナの博士たちによると、何らかの理由でこちらの世界に適応できなかった精霊の魂が亡霊という形であらわれているのではないか、とのことだった。しかし、黄昏の影にしても、狭間にしても、詳しいことは分かっていないのが事実だった。
――もしかしたら、あれは扉みたいなものなのではないだろうか。
とリロウは思った。
あの黄金色の向こうは、精霊の国だけではなく、別の様々な世界とつながっており、ドラゴンの遺跡もそのうちの一つだとしたら?
リロウは首をふった。
それなら、黄昏に落ちた誰かがあちらの世界から戻ってきてもいいはずだ。でも、誰一人、帰っては来ない。
リロウは頭を抱えこんだ。
やはり、実際に、黄昏に落ちてみなければ分からない。もちろん、ミレスアロナの博士が何人もそうして黄金色の影に消えていったが、やはり、誰一人として戻ってきたものはいなかった。
リロウは先日の黄金色の日のことを思い返し、無意識に手が震えていることに気がついて暗い気持ちになった。
気持ちを切り替えるようにして黒い本を開いた。
第一章をようやく読み終えようというところだった。そこには、創世記のようなものが書かれていたが、ミレスアロナで学んだものとはずいぶん違う。やはり、これはただのおとぎ話の本だったのだろうか。
本に書かれた創世記の概容はこうだ。
世界のはじまり。
あるとき、太陽の神は一人座って考えごとをしていた。すると、目の前に、小さな白い光を見つけて立ち上がった。
白い光は太陽神のまわりをくるくると回り、太陽神は楽しくなって、一緒に踊った。
踊り疲れて座ろうとすると、そこには大きな穴が空いていた。太陽神は悲しくなって泣いた。するとそこに涙がたまって海になった。
白い光は彼を慰めるために一本の木を贈った。
太陽神はそれを大切に育て、やがて、実がなった。その実を食べると、たくさんの種がでてきた。その種を大地のいたるところに植えたいと思い、太陽神は鳥をつくった。
鳥は大地に種を植えた。やがて、大地は緑にあふれた。
白い光がその上に息を吹きかけると、緑の中から精霊が生まれた。精霊たちは緑に花を咲かせ、たくさんの動物たちを生んだ。
太陽神と白い光は自分たちもそこで暮らしたいと思うようになり、自分たちの姿に似せた人をつくり、地上に住まわせた。
太陽神は、人に、助け合い仲良く暮らしていくように願い、知恵と思いやりの心を与えた。
白い光は、人に、自然を愛しより良い世界をつくるように願い、知恵と魔力を与えた。
そして、二人は太陽と月となり、人を見守っていくことにした。
太陽から生まれた人々は共に暮らしていくための町をつくり、法をつくった。彼らを太陽人という。
白い光から生まれた人々は精霊たちから自然の法を学び、魔法を使うようになった。彼らを魔法使いという。
ここでは、魔法使いは、白い光から生まれたとあるが、それは、自分たちが白い星の魔法使いと呼ぶものと同じものなのだろうか。
リロウはさらに頁をめくる。
だんだんとこの本に使われている文字や文法のくせがつかめてきたために、解読の速度が上がってきていた。




