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第九話 亡霊、再び2

「それで、レリアはシーのことどう考えてるのよ?」


 突然、話をふられてレリアはびくりと肩をふるわせた。


「どうって言われても……。別に、変わったところはないと思うけど……とはいっても、そこまで妖精に詳しいわけではないけど」


 幼いころはよく妖精にいたずらされていたし、人よりは妖精に好かれる質ではあるけれど、詳しいわけではなかった。むしろ、身近に妖精を感じることが多かったせいか、勉強しようと思ったことはなかった。


「私も妖精のことは詳しくないのよね。ママが妖精嫌いだから、家には小間使い妖精すらいないのよ。魔法使いなのにあきれたもんだわ」


 マリンはシーを指でつついた。シーは寝返りをうったが起きる気配はない。


「あんたも、どうせママに言いくるめられたんでしょうけど、相続がそれだけってのは騙されたみたいなもんじゃないの。おじい様の遺産がどれだけあるのか知らないの? キアラン叔父様なんて相続会議にすらでなかったっていうし、ヴァリム伯父様とママとレンクス叔父様で山分けしたようなもんよね」


 たしかに、マリンの母から、貴重な妖精だからとてつもない価値があるなどと説明されたことを思い出した。すっかり忘れていたが。


「お金をもらっても私には使い道がないし」


 レリアはシーのお腹を優しくさすった。シーは気持ちよさそうに表情をやわらげる。


 世話をはじめたころは食べるものも分からず、妖精図鑑を片っ端から読みあさった。結局、シーはどの妖精のタイプにも当てはまらなかったが、何でも食べるし、寝てばかりいたので、世話の苦労は少なくてすんだ。意志の疎通はまだできないものの、ひとりぼっちになったレリアにとっては、お金よりも大切でかけがえのない家族となった。


「そりゃあ、学生のうちはね。一生、学生でいられるわけじゃないんだから、そんな呑気なこと言っててどうするのよ? あんたの成績じゃあ、大学院に行けるかどうかも分からないのに」


 レリアは黙った。


「まあまあ、やっとレリアだって上級生に上がれたんだし、今はそんな話いいじゃないか。いざとなれば父さんがなんとかしてくれると思うしさ」

「その父親に逆らうことばかりしてるあんたがよく言うわよ。学生って言っても子供じゃないのよ。パトロンくらい自分で見つけないとダメよ」


 マリンは艶やかな黒髪をかきあげた。薔薇の香水の香りがあたりにただよい、耳元では真っ赤なルビーのイヤリングがゆれた。深いトビ色の瞳に塗れたような厚みのある唇には華やいだ色気がただよっている。豊満な胸元にはサファイヤが輝き、目を引きつける。


 彼女なら金でもなんでもよろこんで差し出す男はあとを絶えないだろう。しかし、これだけ宝石で着飾っていても、その輝きに負けるどころか、彼女の魅力を引きだすための下僕のようにすら見えてしまうのは感嘆に値する。

 こんなふうに色気ある女性になるにはあと何年、いや、何百年かかるのだろう? いや、どれだけかかっても無理だろう、と思ってレリアは憂鬱になった。


「まあ、とにかく事情は分かったわ」

「言っておくけど、ここだけの秘密だよ」


 リロウは三人を見回した。マリンもミオンもリリもうなずいた。


「でも、こんなおもしろそうなことを私に秘密にしようとするなんてあんまりじゃないの」

「キアラン叔父さんにもぺらぺらとしゃべるなと釘をさされたばかりなんだけどな……」

「もとはといえば、おじい様が原因みたいなものだし、それに火をつけたのはリロウよ。つまり、これはクラリウス家の問題なのよ。私たちでこの謎を究明しないで誰がやるのよ」

「そうは言ってもね。マリンには何か心当たりでもあるというのかい?」


 リロウは浮かない顔で言った。


「そうねえ……」


 マリンは立ち上がり、窓の外を見た。もうすっかり青空が広がっている。


「そういえば、リゼルが遊びに来いって言ってたわ」

「リゼル?」

「司書長官のキアス・メミニーの娘よ。今、経済学の授業で一緒なのよ。司書見習いを目指してるから、リロウに負けないくらい、いや、それ以上に本ばっかり読んでる子なの。でも、あんたみたいに根暗じゃなく、快活で気持ちのいい娘だわ。彼女、毎年、休暇はグリーンヒルで過ごすという話をしてたのよ」

「君って、なんでいつも一言余計なんだろうね」

「彼女なら、妖精やドラゴンのこと知ってるかもしれないわね。たしか、妖精について専攻していたはずだし」


 マリンはリロウのつぶやきを無視して話を続けた。


「私、ちょっと、彼女のところに行ってくるわ」

「今、この話は口外しないようにと言ったばかりじゃないか」

「あの子は司書長官の娘なのよ。信用できるわ」


 と言い、マントをふわりと羽織った。


「マリン、これは遊びじゃないんだ」


 リロウが強く言うと、マリンは不機嫌そうに振り返り、


「それなら、ミオンを連れて行くわ」


 と言った。

 ぼんやりと外をながめていたミオンは、驚いて振り返った。


「この子がいれば、嘘を見抜けるもの。だから、彼女が信用できるかどうか分かるでしょ?」


 ミオンは母親や姉の性格からは考えられないほど素直で繊細な少年だった。あまりに繊細すぎて、嘘をつかれると泣いてしまうのだ。そのために、母や姉によく泣かされているらしい。


「それに、私も馬鹿じゃないわ。話していいことと悪いことの分別ぐらいつくわよ。秘密にしておきたいことも。あんたたちみたいにね」


 彼女はにやりと唇を広げると、ミオンを引きずるようにして出て行った。

 リロウとレリアは先月の金の黄昏日の話はしていなかった。二人は顔を見合わせてため息をいた。

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