第八話 研究塔5
研究塔を出るといつの間にか夜空に月が浮かんでいた。
今晩は寮の空き部屋にでも泊まらせてもらおうと思いながら歩いていると、騒がしい声が聞こえてきた。女生徒たちが落ち着かない様子で集まっている。ここは女子寮の前だ。
キアランは寮母らしき女性のもとに近寄ると、どうしたのかたずねた。ふくよかな頬を青く染めた彼女は、キアランが「選ばれた子供」だと分かると、ほっと表情をやわらげた。しかし、不安そうな瞳を揺らしながら、
「実はここでも火事がありまして」
と何かをはばかるように小声で言った。
キアランははっと緊張した。
「怪我人は?」
彼女は首をふる。
「さいわい、すぐに火は消し止められました。その部屋の生徒が留守にしていたことも幸運でした。しかし、犯人は……」
と顔を曇らせた。
「王都での小火騒ぎと同じですね?」
キアランがたずねると、こわばった表情で寮母はうなずいた。
キアランは同じくこわばった表情を浮かべ、寮を見上げた。すでに煙もなく、静寂そのものの夜空が広がっている。
「それで、その部屋の生徒というのは?」
とたずねると、彼女は潤んだ瞳でキアランを見上げた。
「あなたの姪のレリア・クラリウスです! 今、彼女は停学処分を受けてここにはいません。皮肉にもそれが幸いでした。もしも、彼女の身に何かがあれば……ああ、本当に、よかった」
心の底から安堵するように息を吐き、彼女は祈るように両手をあわせた。
キアランは冷たい汗が背中を流れるのを感じていた。
「彼女の部屋はどうなりました?」
「ベッドが灰になっています。確認なさりますか? 今、王宮の魔法使いを呼びにやっていますが」
キアランは首をふった。
そして、寮母に慰めの言葉をかけると、すぐにきびすを返した。まずは、リロウに手紙を書かねばならない、と考えた。




