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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第八話 研究塔3

 セドは本の山からかきわけるように一冊の魔法書をとりだした。


「たしかこの中に似たようなものがあったはずじゃが……これじゃ、洞窟や地下と外を行き来するためにつくられた魔法陣じゃな。昔、まだ水路や井戸が整備されておらず、わざわざ洞窟にもぐって水を汲んでこなければならなかったころによく使われていたものじゃな。それがいったいどうしたのじゃ?」

「先月、焼却炉から亡霊があらわれたり、中庭に火柱があがったという話を知っておられますか?」

「ふむ。そういえば、なにやら外が騒がしいと研究生たちが話をしておったな」


 研究塔はまるで忘れられた秘境にでもあるかのように外の出来事には無関心だった。


「実は、図書館の書庫に閉じこめられていた学生がこの魔法陣を試したところ、おかしな遺跡に飛ばされたというのです。しかも、そこで亡霊に襲われたそうなのです。一方、学院の中庭では突然火柱があらわれ、炎を消すと、その中で彼らが倒れていました」


 セドはしわだらけの顔をしかめ、長い髭をさすった。


「なにやら奇っ怪な出来事じゃな。研究生たちが興味を持ったのはそのせいじゃったか。で、そのおかしな遺跡というのは何なのじゃ?」

「……それが、本人はドラゴンの遺跡ではないかと主張しています」

「ドラゴンの遺跡!」


 セドは飛び出さんばかりに目を開いて、嬉しそうに笑い出した。その大きな笑い声に驚いたミミが本の隙間から飛び出してきたほどだった。


「それが本当ならすごい発見じゃ!」

「博士はドラゴンの遺跡の存在を信じておられるのですか?」

「当たり前じゃ。そのほうがロマンがあるからのう。なんじゃ、おまえさんは信じておらんのか? おまえさんがここを去ったとき、ドラゴンの遺跡を探しに旅に出たという噂があったほどじゃが」

「とんでもない」


 キアランは予想外の話に驚いて、あわてて否定した。


「私はそこまでロマンチストではありませんよ」

「研究生をやめて詩人になった男が何を言っておる」


 とセドに鼻で笑われた。


「忍耐がなかっただけです」


 キアランは恥じるように言った。


「とにかく、ですね。この魔法陣でそのような場所に行くことは可能だと思われますか?」

「いや」


 セドは顔をしかめながら言った。


「普通では無理じゃろう」

「普通では?」

「この魔法陣は、行きたい場所に住む精霊の力が必要なのじゃ。だから、行ったことのない場所へは行くことができないというのが普通なのじゃ」

「なるほど……」


 キアランは言葉をのんだ。


「では、ドラゴンの遺跡に行くなら、ドラゴンの遺跡に住む精霊が必要だということですね?」


 確認するようにゆっくりと話すと、セドはうなずいた。

 キアランは思い悩むように口をつぐむ。


 ――では、あの卵の妖精が本物だとしたら……。


「博士はドラゴンの都についてどう考えておられるのです?」


 セドはパイプをとりだすと、中にハーブをつめて火をつけた。さわやかな甘い香りがあたりにひろがった。


「キアラン、おまえさんは精霊と魔法使いの関係についてどれほど学んでおったのじゃ?」

「私は研究生時代、鳥や石を追いかけてばかりいましたので、妖精のことは詳しくありません」

「そうか。まあ、そうは言ってもこれくらいのことは知っておるかもしれんが、はるか古の時代、精霊の国との交流があったとされるころは、精霊と契約を結ぶことで魔法使いたちは新たな魔法を生み出す力を得ていたようじゃ。契約というのがどういうものだったか、残念ながらそれを詳しく記した書はまだ見つかっておらぬが、おそらくそれは義務的なものではなく、友好の証といった程度のものであっただろうと言われておる。ところが、その契約を悪用し、精霊を私利私欲のために利用するようになった魔法使いがあらわれるようになったのじゃ。今日、古魔法が精霊を生贄にすると言われるようになったのもそのためじゃ。もちろん、すべての魔法使いがそうだったわけではなかろうが、皿の水に落としたインクのように、悪事は拡散する。そして、しだいに精霊と魔法使いの中は悪くなり、戦争が起こるようになった」


 キアランはうなずいた。


「魔法使いと精霊が争ったという記述は私も見かけたことがあります」

「そうじゃ。だが、この戦の詳細が書かれたものもまだ見つかってはおらん」


 セドは白い息を吐いた。


「ええ。いくら大昔のこととはいえ、市井の小話などは多く書き残されているというのに、歴史書の記述は少なすぎますね」


 セドは煙の隙間からキアランを見て、


「そうじゃ」


 と強く肯定した。


「王宮に保管されておる公文書は当然、建国後のものばかりじゃが、それ以前の正式な歴史書はほとんどないと言ってもいいくらいじゃ。唯一、アルミニス家の残した本にそれらしい記述が見られるくらいじゃが、問題なのは、あの一族は様々な書物を書きすぎていてどれが真実なのか判別するのが難しいということじゃの。せめて、一族の生き残りでもおれば、手がかりが得られたかもしれぬがのう」

「建国前はかなりの力を持った一族だと言われていますが、一人の生き残りもいないというのは不思議ですね。私も、詩人になってから国中を旅してきましたが、噂話ですら一度も聞いたことがありません」

「そうか」


 セドは落胆したように息を吐いた。


「実は、わしはそのアルミニス家の本の中で、ドラゴンは調停者であるという記述を見たことがあるのじゃ」

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