表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/57

第八話 研究塔2

 扉を開けるたびに合い言葉をつぶやきながら、ぐるぐると上っていき、途中で十二段階段を降りた階に目的の部屋はあった。

 夏期休暇に入ったはずだが、灰色のマントを着た研究生は休暇どころか昼と夜の違いすら興味がないと言いたげに忙しく廊下を歩き回っていた。


「キアランさん、戻ってこられたのですか!」


 青年とぶつかりそうになった。彼は驚いて顔を上げると、探していた答えがキアランの額に書いてあったとばかりに顔を輝かせた。


「いや、違うんだ。えーと、君は……」

「サンテ・トットです。セド博士のもとで研究生をしています」

「ああ、思い出した。たしか、塩山で角の生えた猫の化石を見つけた」


 サンテはさらに満面の笑みをみせて、


「ええ、あの猫はユニコーンキャットと名づけました。まだ他のどの場所からも同じ化石は見つかっていません」


 と誇らしげに言った。


「そうだ。今月、東の三角峠で発掘調査を行う予定なんです。キアランさんもぜひ一緒に行きませんか」


 青年のきらきらとした瞳に懐かしいものを感じながらキアランは微笑した。


「悪いね。とても興味深いけど、今はちょっと忙しいんだ。ところで、セド博士はいるかな? 今日は博士に会いに来ただけなんだよ」

「そうですか」


 サンテはあからさまに落胆した様子をみせる。


「セド博士ならお部屋にいらっしゃいますよ」


 キアランが立ち去ろうとすると、「みんなあなたのお戻りを待っていますよ!」とサンテがその背中に声をかけた。


 博士の部屋をノックしたが、返事はなかった。たしか昔もそうだったと思い出し、キアランは扉をあける。

 たくさんの本が所狭しと積まれ、まるで本でできた洞窟のように薄暗い。明かりがもれている奥の部屋をのぞきこむと、本の山の隙間に小さな体を折り畳むようにしながら座っている博士の姿があった。


「セド博士、お久しぶりです」


 キアランが声をかけると、セド・アリゼン博士は丸い目をさらに丸くして顔を上げた。


「おお、キアラン! ここに来るのは何十年ぶりじゃ? やっと、戻ってくる気になったか」

「そういうわけではないのですが」

「ちょっと待っておれ。まったく、いつのまにこんなに本が増えたんだか」


 とぶつぶつと言いながら、セドは虫を追い払うような仕草で手をふった。すると、目の前の本の山が脇に寄り、そこにテーブルがあらわれた。


「まあ、座れ」


 セドは嬉しそうに言った。


「ミミ、お茶を用意してくれ」


 セドが呼ぶと、本の隙間からリスのような姿をした妖精があらわれた。さっと姿を消したかと思うと、いくらもしないうちにティーポットとカップを持って再びあらわれた。お礼を言って受け取ると、丁寧にお辞儀をして、また本の隙間に消えていった。


「かわいらしい妖精ですね」

「あれは、いつだったか、南東にあるミミの森の中を調査しているときに見つけてのう。荷物の中にまぎれて勝手についてきたのじゃ」

「それでミミなのですね」


 キアランは笑った。


「そうじゃ。こやつは妖精のくせに本が好きなようでな。茶を入れるのもまあまあ上手い。おそらく、どこかの屋敷妖精が迷子になったか、捨てられたのじゃろう。小間使い妖精などと言って、魔法使いが勝手のいい妖精を生み出しはじめてから、ああいう屋敷に住み着く妖精が邪魔者にされて捨てられることが増えたそうじゃからな。最近では、魔獣も生み出そうとしているそうじゃ。魔法使いは自然の秩序を守るために生み出されたものであって、自然の支配者ではないということを忘れてしもうた愚か者が増えはじめておる。実に嘆かわしい。魔法使いは長生きをしすぎなのじゃ。森の外に住むという人間は……」


 セドは三つ編みにした長い髭をさすりながら、延々と文句とも説教ともつかない話をしはじめた。

 キアランは研究生時代を思い出しながら、ゆっくりと紅茶を飲んだ。

 黒い色をした紅茶は苦すぎるぐらい濃く、舌がぴりぴりとする。ミルクと蜂蜜をたっぷりと入れてようやく飲めるようになったが、セドはぶつくさ言いながら平然と紅茶を飲んでいた。あの妖精が追い出されたのは、もしかするとこのせいかもしれない。


「博士があいかわらずお元気そうで安心しました」


 ようやく話が一段落したところで口をはさんだ。

 すでにカップは空になっている。


「おまえさんも、ずいぶんと日焼けをして健康そうになったもんじゃ。研究塔にいたころは青白い顔をして、酒屋で喧嘩ばかりして、氷結の右手などとあだ名されていたというのに」

「博士、その話はやめて下さい。それは、未熟だったころの話で……」


 キアランは恥ずかしさのあまり、本の山の中に隠れたくなった。そして同時に、若き日の記憶がよみがえり、言い知れぬ郷愁に胸が奥が沸き立つようだった。まだ自分の心の隅に、そんな熱く甘酸っぱいものが取り残されていることを知って、彼は一人で苦笑いを浮かべた。


「まあよい。ところで、今日は何の用で来たんじゃ?」

「これなんですが、何の魔法陣がお分かりになりますか?」


 さきほど書庫で写し取った魔法陣を見せた。


「これは古魔法か。しかもずいぶんと古いものじゃな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ