表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/57

第八話 研究塔1

 ヴァリムは裏切り者がいると言ったが、確証はないようだった。それでも、あの慎重で疑り深い兄がいい加減なことを言うはずもない。

 何から手を着けていいのか悩みあぐねて、キアランはとりあえずリロウとレリアのいた書庫を見てみることにした。


 書庫に入るためには博士でなければいけないらしいが、司書はキアランの顔を見ると、愛想よく通してくれた。

 最下層の書庫はほとんど使われていないと聞いたが、部屋の中はきれいに掃除されており、本の整理も行き届いている。それどころか、色とりどりに並べられた本はまるでモザイク画のようだ。

 まさか、リロウが言われたとおりに書庫整理をしていたとも思えないので、おそらくレリアのしわざだろう。たしか、父親のあとを引き継いで掃除夫の仕事をしていると聞いたことがある。


 一冊一冊きちんと埃が払われているのを確認しながら、キアランは関心した。彼女の父親もきれい好きでミレスアロナの研究室にいたときも、掃除ばかりしていた。それでもまさか、博士号をとったあとに掃除夫になるとは誰も予想できなかったが。


 掃除が行き届いていると妖精たちが喜ぶんだ、とカラムは人のよい笑顔でいつも言っていた。妖精は必ずしも魔法使いの目に映るわけではなく、普段はむしろ気がつかないことのほうが多いのだが、カラムにはまるで世界中のすべての妖精が見えているようだった。


 ――やはり、精霊の血のせいだろうか。


 キアランは思った。

 古の時代、精霊の国との行き来があったころ、こちらの世界に住み着いた精霊たちがいた。多くは動植物を棲み家とし、妖精と呼ばれるようになった。

 その中でも人の姿をもち、知恵に優れた精霊人と呼ばれる者たちがいたという。彼らは森の中に集落をつくり魔法使いたちと同じように暮らしていたという伝承がある。

 今でもルオンディールの各地には、精霊人が住んでいたとされる集落がいくつか存在しており、カラムもまたそんな集落の出身なのだった。もっとも、その大半は疑わしいただの噂話にすぎないが、カラムを見ていると、彼の集落は本物だったのだろうと信じたくなるような人物だった。

 どこの集落なのか、ちゃんと聞いておけばよかった、とキアランは心の中にふっと風穴が開いたような寂しさを感じながら思った。


 ――レリアがきれい好きなのも、妖精に好かれるのもその血のせいかもしれないな。


 それ以外は特別な力を感じないが、とキアランは苦笑した。

 書庫にある本はほぼすべてが古文字で書かれていた。学生のころから言語学が苦手だったキアランは、ため息をつく。

 その一冊を手に取ってみたが、悲鳴をあげたくなるくらい難関な文字が並んでいた。これを独学で習得したリロウの好奇心には関心するしかない。

 キアランは古魔法に興味をもった時のことを思い出した。あれは、自分がリロウぐらいのころで、父が王宮を辞したばかりの時だった。


 父は仕事を辞めたあと、しばらく旅に出ていたようだったが、帰ってくると王都の郊外にある森の中で隠居生活をはじめた。

 キアランは一度だけその屋敷をたずねたことがある。

 屋敷と言っても、書斎と広間をあわせた一室と水回りの部屋がついているだけのこぢんまりとした小屋のようなものだった。


 キアランが訪れた日、父は暖炉の前の揺り椅子に座り、その腕には大事そうに卵をかかえていた。

 隠居をしてのんびりと暮らしているのかと思ったが、その姿は少しくたびれているように見えた。

 卵は表現するのが難しい黄色のような緑のような不思議な色をしていた。キアランが卵に触れようとすると、父は警戒するように鋭く視線をむけ、ひどくまじめな顔で戒められた。

 その表情は喜怒哀楽をそぎ落としたあとの静けさしか残っていないというふうで、不気味に思うほどだった。キアランが動揺していると、


「これはドラゴンの遺跡から拾ってきた卵なのだ。決して近づいてはいけない」


 と父は言った。

 あのときは、貴重な卵にいたずらをされないためにそんな嘘を言ったとばかり思っていたが、まさか、嘘ではなかったとでもいうのだろうか。

 その後、父は死ぬまで屋敷に人を寄せつけなかった。体調不良だと言って、兄の葬儀にさえ出席しなかったほどだ。


 ――いや、あの時すでに何かの病に侵されていたのだろうか? 確かにひどく疲れた様子だったが……。


 キアランは父の謎を振り払うように頭を振った。


 ――今は、別の謎がある。


 書庫のテーブルにはリロウが書いたとされる魔法陣がまだ残っていた。描き慣れた見事な出来だとキアランは呆れて笑った。


 ――いくら魔法をかけたと言っても、リロウをこんな宝の山の中に入れておくなんて、馬鹿げた罰を考えたのはいったい誰なんだ? レリアのことがなくてもきっとリロウは策を考えたに違いない。ヴァリム兄さんはリロウの好奇心を甘く見過ぎなのだ。仕事にかまけて子供の面倒を見てこなかったから、知らないのだろう。しかし……。


 キアランは魔法陣をじっと見つめて考えこんだ。

 見たところ魔法陣は完璧だし、それほど高度なものとも思えない。リロウの能力に問題があるとも考えにくいが、なぜそれほどの失敗となったのだろうか。

 キアランはそれを写し取ると、書庫を出て、古巣でもある研究塔へとむかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ