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第七話 いとこたち1

 夏期休暇に入ると、オレリア・ハリドは大量の課題を置きみやげにして里へ帰っていった。そして彼女と入れかわるようにしてやってきたのが、いとこたちだった。


「あいかわらず何にもないとこね。こんなところで休暇を楽しめなんて、私を馬かなんかだとでも思っているのかしら?」


 馬車から降りるなり、大きな鳶色の瞳をぎらつかせて文句を言ったのは、二番めの伯母マーガレット・スロムの長女マリンだ。

 腰まである黒色の艶やかな髪には宝石がちりばめられ、旅のマントを脱ぎ捨てると、ルビーやサファイア、エメラルド、トパーズなどの色とりどりの宝石でつくられたアクセサリーが体中を着飾っていた。彼女が、「まったく」と言いながら腰に手を当てただけで、じゃらりと音がする。


 その後ろから出てきたのは、彼女の弟のミオン。

 姉とは似ても似つかない内気そうなキャラメル色の瞳でおどおどと周囲を見回している。不機嫌そうにぶつぶつと文句を言っている姉とは対照的に、


「広いね」


 と緑の丘陵をながめながらにっこりとした。


「広いだけよ!」


 マリンは叱るように言った。

 さらにその後ろからあらわれたのは、息をのむほどの美少女だった。

 月明かりの妖精が降りてきたのかと思うような美しい金髪に透き通る白い肌。黒いまつげにふちどられた物憂げな青みがかった灰色の瞳は、忘れていた何かを思い出させるように神秘的だった。彼女は三番目の伯父レンクス・ジュレの愛娘リリアーナだ。


 グリーンヒルに来るのははじめてだった彼女はあたりの景色を珍しそうにながめている。まるではじめてカゴの外に出された小鳥のようだった。リリはレリアに見つめられていることに気がつくと頬を赤らめてうつむいた。


「ようこそ、グリーンヒルへ」


 リロウが旅芸人のような仕草で言った。


「珍しいね、みんながここへ来るなんて」

「来たくて来たわけじゃないわよ。本当は、クリスノウに行く予定だったんだから」


 王都の北西にヒョウタンの形をした大きな湖がある。そのままヒョウタン湖と呼ばれる湖の西側にある街がクリスノウだ。水に恵まれた自然豊かな街で、避暑地として人気が高い。料理が美味しいことでも有名だが、特にクリスノウの菓子は絶品ぞろいで女性に愛されている。


 レリアも毎年、クラリウス家の別荘に泊まっていたが、今年はクリスノウのケーキが食べられないのだということに気がついて、人知れず肩を落とした。


「それがどうしてここに?」


「さあ。なんだかよく知らないけど、今、王都で小火騒ぎがあって大変らしいのよ。それで、今年は近場にさせられたわけ」

「小火騒ぎ?」

「そう。母さんは亡霊の仕業だとか言っていたけど、あの様子じゃただの亡霊ってわけではなさそうね」


 リロウとレリアは顔を見合わせた。


「それはそうと」


 マリンはにやにやしながら言った。


「あんたたち、いったい何をやらかしたのよ? ミレスアロナを丸焼きにしようしたとかって噂を聞いたけど」

「それは、その……」


 リロウは笑ってごまかそうとしたが、獲物を射抜くようなマリンの大きな瞳がそれを許さなかった。


「どうせ、あんたのことだから、また古魔法でもして失敗したんでしょ」

「まあね」


 リロウは降参するように両手をあげた。


「そんなことだろうと思ったわ。よく停学で免れたわね。おじい様の名前と伯父様の権威がなければ、とっくに退学させられてるわよ」


 リロウは反論できずに肩をすくめた。


「しかも、今度はレリアまで巻きこんだわけ?」


 マリンはレリアを見た。そして、にやにやと笑うと、


「あいかわらずの可愛い子ちゃんね。あんた、こんな男に引っかかるとろくなことにならないわよ。もっといい男、私が紹介してあげるわよ」


 と言った。


「そんなんじゃないから」


 レリアはたじろぎながら言った。

 マリンは母親に似て、勝ち気でプライドが高く、ずけずけとものを言う。目鼻立ちのはっきりとした凄みのある美人だが、母子ともに宝石が好きで、その派手すぎる装いはお世辞にもセンスがいいとは言えなかった。

 それでも、自信にあふれた魅力で人を引きつけるようで、マリンはよくもてる。彼女はミレスアロナの大学院に通っているが、レリアの耳にもその華麗な交際関係が聞こえてくるほどだった。


「そう? 男を知れば、あんたももうちょっと垢抜けするんじゃない?」


 レリアは顔を真っ赤にした。それを見て、マリンが笑う。


「そんなんだから、いつまでたっても幼いままなのよ」

「ほっといてよ」


 レリアは弱々しく言った。


「リリもよくレンクス叔父さんが許したね」


 リロウがかがみこんでリリの顔を見ると、彼女はおびえた小鳥のようにマリンの背中に隠れた。


「レンクス叔父様も忙しいそうよ」


 とマリンが言うと、リリはうなずいた。


「書斎にこもってる」


 その声は風のささやきのようだった。


「母様はシナドラに行ったけど、父様がシナドラはだめだと言ったから」


 シナドラは王都の南にある貿易街で、ぶどう酒の産地でもあるためか、昼夜問わずにぎやかな街だった。リリの母はシナドラ生まれの占い師だった。


「そりゃあ、あんな酔っぱらいの街にかわいいリリをやるわけないわよね。グリーンヒルを許したことだって珍しいくらいだわ」


 レンクスはリリを宝石のように大切にしている。彼女をミレスアロナに入学させないのも、過保護のためだった。


「ここは、空気がよくて気持ちのいい場所だし、リリにとってもいい場所なのになあ」

「叔父様が過保護すぎるから、この子はいつまでたってもおチビさんのままなのよ」


 リリは恥じるようにうつむいた。


「あんたも自立することを覚えないとね」

「変なことを教えて、叔父さんに石に変えられても知らないよ」

「それなら、ダイヤモンドにしてほしいわ」


 とマリンは耳元で大きなオパールをゆらした。

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