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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第六話 キアラン3

「そもそも、古魔法をリロウに教えたのはおまえだろう。だから、おまえにも責任がある」

「誤解ですよ。私は古の話をしたことはありますが、古魔法を教えたことはありません」


 ヴァリムは淀んだ瞳でじろりとキアランを見た。


「お前も昔、古魔法に興味をもっていた時期があっただろう」

「大昔の話ですよ。でも、古文字が理解できなくてあきらめました。私は、そういう勉強は苦手なので」


 キアランは苦笑いを浮かべた。ヴァリムは酒臭いため息をついた。ただでさえ土色になっていた顔は赤みを増して奇妙な色になっていた。


「兄さん、大丈夫ですか? もう休んだほうがいいですよ」


 ヴァリムは首をふった。

「話はまだ終わっていない。今、王都で暴れている亡霊たちは普通の亡霊とは違うのだ。浄化の魔法はほとんど利かず、水の魔法で押さえこむしか今のところ対処の方法がない」

「浄化が利かない……。それは奇妙ですね。本当に亡霊なのですか?」


 ヴァリムは険しい顔で首をふる。


「詳しいことはまだ分からない」

「このことをリロウは知っているんですか?」

「いや。リロウは今グリーンヒルにいて、小火騒ぎのこともまだ知らないだろう」

「グリーンヒル?」


 まだ夏期休暇には早いが、と疑問をはさもうとするとヴァリムがそれを手で制した。


「それから」


 と彼は疲れた顔を上げた。


「ミレスアロナで亡霊があらわれたとき、襲われたのはカラムの娘のレリアだ」


 ミルクをまぜたココアのような優しい髪の色をした少女の顔が浮かぶ。瞳もまた優しい露草色をしており、控えめで純情すぎるところがある娘だった。そのやわらかな気質は彼女の両親にとてもよく似ていた。


「レリアが? 彼女は無事でしたか?」

「ああ、しかし……」


 と言って、レリアがリロウのいる書庫に逃げこんだこと、二人が古魔法を使って脱出しようとしたが、おかしな遺跡へ飛ばされたこと、そして、そこでもまた亡霊に襲われそうになったことなどをキアランに話した。

 キアランはますます興味を持ち、いつの間にかソファから身を乗りだしていた。酔いもすっかり冷めていた。


「ドラゴンの遺跡ですか……」

「リロウは完全にそう信じているようだが、私は信じてはいない」


 ヴァリムはきっぱりと言い切ったが、キアランは無言で考えこんだ。


「それと、もうひとつ。レリアの妖精は父が残した卵の妖精なのだ」

「なんですって?」


 キアランは驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた。


「お前は相続会議の席にいなかったから知らないと思うが、あの娘があの妖精を相続したのだ」


 キアランはヴァリムの顔を信じられないものを見るような目で凝視した。


「いったい、なぜ、レリアに相続させたんです? もしも、危険なものだとしたらどうするんです?」


 責めるように言うと、ヴァリムは顔を伏せた。


「それが最善だと思ったのだ、あのときは。いや、いまでも、やはりそれが一番よかったと思っている。実際、あの妖精はレリアによく懐いているようだ。それに面倒もよく見ている」

「そういう問題ではないでしょう。妖精嫌いの姉さんはともかく、レンクス兄さんだっているじゃないですか?」

「あれは偏屈な男だ。服が汚れると言って古文書を焼こうとしたやつだぞ。お前だって分かっているだろう」


 レンクス・ジュレは潔癖で美しいもののみを愛する男だ。


「しかし、レリアはまだ未熟すぎます」

「分かっている」


 とヴァリムはうめくように言った。


「父の死は突然だった。謎だけを残していってしまった。私は偉大なる魔法使いの謎を甘く見過ぎていたのかもしれない。そこで、おまえを呼んだのだ。あの妖精や父の死について調べてほしい。この亡霊騒ぎと何か関係があるように思えてならないのだ」


 うなだれる兄の姿にキアランは少なからず動揺した。


「優秀な魔法使いはここにいくらでもいるでしょう」

「彼らは小火騒ぎのために出払っている。それに」


 と言って、ヴァリムは顔を寄せた。

 そして、呪いの言葉を吐くかのように、


「裏切り者がいる」


 とささやいた。

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