第四話 グリーンヒル2
「それで、その本には何が書かれているの?」
レリアは本をのぞきこんだ。ところどころシミのような跡がある。
「ドラゴンについて書かれた本だよ」
レリアは言葉をのみこんでリロウを見た。
「まだそんなこと言ってるの? 伯父様にも、ドラゴンの遺跡なんかないって言われたくせに」
「父さんはああ言うしかないんだよ。ドラゴンの都は王宮の公文書には記されていないからね。だから、僕は王宮付きの魔法使いなんかには絶対になりたくないんだ」
リロウは憤るように言った。
「王宮付きの魔法使いやミレスアロナの博士たちだって、僕たちの体験を簡単に認めることはできないんだよ。ドラゴンの都なんて正式な本にはどこも記されていないんだから」
「それは、おとぎ話だからでしょ」
「あんな体験をしておいて、まだ認めようとしないのかい?」
リロウは呆れて言う。
「襲われたのは君だよ」
レリアは亡霊たちの熱い炎や黒い影を思い出して、体が震えた。その記憶を捨てるように彼女は頭を振る。
「でも、それは偶然で……」
「偶然だろうが何だろうが、僕たちはもう知ってしまったんだ。それは、忘れることはできても、なかったことにはできない。運命のいたずらだったとしても、与えられた謎は自分で答えを見つけなければいけない。たとえ、間違っていたとしても。それは、ミレスアロナの鉄の掟だろ?」
レリアは反論できなかった。
『与えられた謎には答えを見つけ出さなければならない。たとえそれが、間違ったものであったとしても』
自由なミレスアロナで唯一与えられた決まりがこれだ。
寒気を感じ、腕をさすった。心臓の奥に氷の針がつかえているみたいだった。
「でも、私は役立たずだったし。リロウまで危険な目に合わせて……」
「君は緑の魔法使いなんだから、仕方ないよ。それより、ふがいないのは僕のほうだよ。炎にやられるなんてさ」
リロウは思い出したようにくやしそうな表情をした。
世界を創ったとされるはじまりの魔法使い、別名「白い星の魔法使い」は土、石、水、火、木から自分に似せた魔法使いをつくったのだという。
彼らはそれぞれ、黄の魔法使い、黒の魔法使い、青の魔法使い、赤の魔法使い、そして緑の魔法使いと呼ばれた。
魔法使いたちは両親のどちらか一方の力を引き継いで生まれ、その属性によって得手不得手の魔法がある。それは一般的に、
黄の魔法使いは木を苦手とし、石に強く
黒の魔法使いは土を苦手とし、水に強く
青の魔法使いは石を苦手とし、火に強く
赤の魔法使いは水を苦手とし、木に強く
緑の魔法使いは火を苦手とし、土に強い
と言われていた。
もっとも、修練を重ねた魔法使いであれば、元の属性も関係ないと言うが。
また、魔法使いには年齢というものはなく、知識や見識、魔力や精神的な成長により肉体も変化していく。そのため、幼い容姿を持つものは、総じて未熟な魔法使いと言えるのだった。
まだあどけなさを残すレリアは緑の魔法使い、ここ数年でぐんと青年らしい顔つきになったリロウは青の魔法使いだった。生まれた年はあまり変わらなかったはずだったが。
「そんなことない。リロウのおかげで助かったんだから」
リロウは微笑んだあと、すぐに首を横に振った。
「僕はやられるところだった。それなのに、どうして僕たちは助かったんだろう?」
「それは、伯父様たちのおかげじゃないの?」
ヴァリムの話によると、あの日の明け方、中庭で光り輝く火柱が上がったのだという。それは校舎よりも高く燃え上がり、まだ薄暗い紺色の空を赤く照らした。
報告を受けた王宮の魔法使いや博士たちが火柱を消すと、レリアとリロウが倒れていた。
リロウは納得できない様子で首をかしげた。
「そういえば、シーはどう?」
言われて、レリアは胸ポケットをのぞきこんだ。シーはすやすやと寝入っている。
「あいかわらず。でも、目が覚めると、ちょっと興奮ぎみなことが多くなったくらい」
「そう……」
リロウは考えこむようにシーを見つめていた。
「でも、やっぱりまだまだ赤ん坊なの。のんきに寝ちゃって」
「けど、成長したらどうするんだい?」
リロウの顔はまた精悍さが増したようだった。魔法使いの成長は、たとえ何百年も変化がなくとも、成長するときには一晩で変わってしまうことも珍しくはないという。
「そのときは、そのとき考える」
「レリアらしいね」
とリロウは笑った。




