第三話 奇妙な遺跡2
目の前には、黒い石がごろごろと転がった荒野が広がっている。蛇のように枝をくねらせた木々が生えているが、どれも灰をかぶったように白い。その奥には四角い石を積んだ建物らしき形跡があるが、ほとんど原形を留めていなかった。
むっとするような湿った空気が流れ、土は乾ききっている。大地は不気味な熱を帯びていた。
あきらかに、ミレスアロナではない。
レリアは言葉を失い、リロウを見た。
「どうやら失敗したみたいだ」
リロウはばつが悪そうな顔で頭をかいた。
「失敗したって……」
レリアの声はかすれている。
耳元でキィキィと鳴く声がして顔を向けると、シーが肩の上にのって、頬をすり寄せていた。
「とにかく、みんな無事でよかったよ」
のんきに言うリロウをレリアはにらみつけた。
「これを無事と言うの? どうするの? ここはどこなの?」
「まあ、落ち着いてよ」
「落ち着ける状況だと思う?」
「大丈夫だよ。魔法陣を書けば戻れるはずだよ。二つの魔法陣があれば、自由に行き来できるって書いてあったし」
リロウは顔色も変えずに言った。事の重大さを分かっているのだろうか?
「また失敗したらどうするの? 子供でもできる魔法じゃなかったの?」
「まあ、昔の子供の話だからね」
「それ、私が指摘したことよね?」
「怒らないでよ。悪かった、僕が悪かったよ。ちゃんと帰れるようにするから」
レリアは疑いの目を向けた。
「本当に、帰れなかったらどうするの?」
そして、周囲を見渡した。荒涼とした景色と肌にまとわりつくようなじめついた空気。全く見たこともない場所だ。
レリアは不安と恐怖に涙をにじませた。
「大丈夫だよ。僕が何とかするから」
リロウがあわてて言う。
「何とかって?」
「それは、今から考えるけど」
レリアは呆れはてて涙も止まってしまった。
「しかし、ここは熱いなあ。いったい、どこなんだろう?」
レリアも立ち上がり、周囲を見回した。少なくともミレスアロナでも王都でもないことだけは確かだ。
「ルオンにこんなところがあるなんて聞いたことがないし、もしかして国外に出たとか……?」
リロウの不穏なつぶやきにレリアはさらに不安になる。
レリアたちの住むルオンディール王国は、大陸の西の端にある大国だが、広大な樹海に囲まれているために他国との交流はほとんどなく、陸の孤島と呼ばれていた。この国の住人が魔法使いばかりなのもそのためだった。
もしも、国外に出てしまっていたら、本当に二度と帰れなくなるかもしれない。
「外の国には猛獣や野蛮人がたくさんいるんでしょ?」
レリアは怯えてあたりを見回す。もっとも、生き物すらいなさそうな気配ではあったが。
「そんなの迷信だよ。ルオンは樹海に囲まれているせいで他国との交流がないからね。みんな想像で好き勝手言ってるだけさ」
リロウは笑った。
「でも、リロウだって見たことないんだから、迷信なのか本当に危険なのか、分からないでしょ?」
「それはそうだけど」
と肩をすくめる。
「だから、いつかは自分の目で見に行きたいな」
「怖くないの? 外に出たら帰って来れないかもしれないのに」
「それよりも知りたい気持ちのほうが大きいよ。はじめから危険だって決めつけていたら、何も知ることはできないからね」
真っ直ぐなリロウの好奇心にレリアはうらやましさを覚えるほどだった。リロウは好奇心を勇気に変える力がある。しかし自分は興味よりも恐れや不安のほうが大きくなってしまう。
「私もリロウみたいに好奇心が強ければよかったのに」
「本当にそう思ってる?」
急にリロウが瞳をのぞきこんできたので、レリアはどきりとした。
「どういう意味?」
「君が、自分の心のままに従っていない気がしたからさ」
「私は、別に……自分のやりたいことがまだ分かってないだけだから」
なぜだかふいに不安定な場所に立っているような気がした。心の芯がひやりとする。それは霜柱でできているみたいに、簡単に折れてしまいそうなものだった。
「自分の心に素直にならないからだよ」
「私はリロウみたいに優秀じゃないから」
「ほら、すぐにそれだ」
リロウがため息をつく。
「せっかく、ミレスアロナで勉強できるんだから、もっとやりたいことをやればいいのに」
やりたいことをやりすぎて罰を受けているリロウには言われたくないと思いつつも、レリアは痛いところをつかれて押し黙った。
すべての魔法使いがミレスアロナに入学できるわけではない。レリアが入学を許されたのは、おそらく偉大なる魔法使いの孫だからだ。
「そういえば、上級試験はどうしたんだい?」
「……受かった、けど」
それを伝えることになぜか勇気を必要とした。
「良かったじゃないか。じゃあ、お祝いしないと!」
「こんなところで?」
リロウははっとして頭をかく。
「誰のせいでこんなことになったのか分かってるの?」
動揺をごまかすように、レリアはぶっきらぼうに言った。
「分かってるよ。帰ったら、お祝いしよう」
レリアはまた胸が痛んだ。




